バッドエンドから始まる物語~穂積編~
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~翼vision~
穂積さんがカードで支払いを済ませ、レストランから外へ出る扉を開いた瞬間、ようやく、私は我に返った。
翼
「待って!」
叫んで立ち上がる。
周りの席のお客さんたちが驚いているけど、気にしない。
もっと、ちゃんと話さなきゃ!
翼
「穂積さん!穂積さんっ!待って!」
私はなりふり構わず走って、穂積さんに追い付いた。
翼
「待って……くだ、さ……!」
左腕を掴み、息を整えていると、穂積さんの手が、私の手をそっと外そうとした。
私は逆にしがみつく。
迷惑でもいい、みっともなくてもいい。
今、この手を離したら、きっと一生後悔する。
穂積
「櫻井、離せ」
翼
「嫌ですっ」
声が震えた。
翼
「私……、聞かれた、から、今の気持ちを、正直に、答えたんです。穂積さん、ちゃんと、説明して下さい」
穂積さんの動きが止まった。
穂積
「……説明……?」
私は息を吸い込んだ。
翼
「そうです。お願いです、私に分かるように、どうしてなのか教えて下さい」
穂積さんは辺りを見渡し、適当な場所が無いと思ったのか、自分の車に私を誘った。
後部座席に私を座らせておいて、穂積さんは車の外で、煙草に火を点ける。
煙草を一本吸うだけの、永遠のような時間が流れた。
私は紫煙が流れては消えてゆくのを、辛抱強く見つめた。
やがて、穂積さんは吸い殻を携帯灰皿に押し込むと、後部座席のドアを開けて、私の隣に乗り込んだ。
てっきり運転席に乗るとばかり思っていた私は少し戸惑ったけど、話をするなら、この方がいい。
ところが、身構えた私に反して、隣に座った穂積さんは、さっきまでとは違う、落ち着いた眼差しで私を見た。
じっと見つめられて、今度は私が落ち着かない。
翼
「……あの……?」
穂積
「ひとつ聞くが」
穂積さんは真顔だ。
穂積
「俺は、お前に自分の気持ちを伝えて来なかったか?」
穂積さんの気持ち?
翼
『俺とお前は、もう、上司と部下じゃない。お前を誘うのは、穂積泪としてだ。……それでいいか?』
穂積
「その前は?」
翼
「ええと……」
たしか、最初、昼食の時に。
穂積
『……今は同じ部署じゃない。だから、考えてもいいと思っている』
穂積
「その前は」
穂積
『ありがとう、ワタシも好きよ。ただ、同じ部署ではNGだと思うから……』
…………。
……あれ?
私は頭の中で、記憶を逆再生した。
私が好きだと告白した時から。
穂積
『ありがとう、ワタシも好きよ。ただ、同じ部署ではNGだと思うから……』
穂積
『……今は同じ部署じゃない。だから、考えてもいいと思っている』
穂積
『俺とお前は、もう、上司と部下じゃない。お前を誘うのは、穂積泪としてだ。……それでいいか?』
それから半年も付き合って。
穂積
『俺たち、いつまでも、このままじゃいけないよな』
そう、聞かれたら。
それは、つまり……。
うわあ。
もしかしたら、いや、もしかしなくても。
プロポーズの前フリだった……?!
それなのに、私ったら。
返事をするどころか、引き延ばすなんて。
そろりと穂積さんを見ると、すでに私の表情から心の動きを読んだのか、半分呆れ、半分は笑いを堪えている顔。
穂積
「鈍感」
ぺちん、と軽いデコピン。
翼
「ううう、すみません」
……本当に、我ながら、救いようのない鈍感さだわ。
私は額を押さえて、涙目で謝る。
すると、その手を握られ、同時に、唇を奪われた。
煙草の香りのキスは、穂積さんが、大人の男性だと教えてくれる。
唇を離した穂積さんが、下を向いて、私の胸に頭を埋めた。
穂積
「今、俺の顔を見るなよ」
翼
「穂積さん……」
穂積
「すまん」
穂積さんが、ぽつりと言った。
穂積
「鈍感なのは、俺の方だ。……また、失うところだった」
私の手を握る手が、微かに震えている。
穂積
「お前と離れるなんて、耐えられないくせに」
穂積さん。
穂積
「好きなんだ」
翼
「穂積さん……」
私は、空いている方の手で、穂積さんの頭と、背中を撫でた。
さらさらの金髪が気持ちよくて何度も撫でるけど、穂積さんは、じっとしていた。
穂積
「結婚してくれ、櫻井」
私の手が止まった。
穂積さんが顔を上げて、私を見つめた。
穂積
「俺の傍にいてくれ」
今度は、私にも伝わった。
翼
「はい」
私は涙を拭った。
翼
「約束します」
穂積さんは、私の身体をきつく抱いた。
穂積
「俺から離れるな」
翼
「約束します、穂積さん」
私は両手をいっぱいに伸ばして、穂積さんを抱き締めた。
翼
「だから、穂積さんも、ずっと私の傍にいて」
穂積さんが、私に頬をすり寄せる。
穂積
「ああ……約束する」
求めあう二人の唇が重なるまでに、時間はかからなかった。
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