バッドエンドから始まる物語~穂積編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
~翼vision~
周りで歓声を上げたのは、何と、捜査室の面々だった。
出不精の小笠原さんや、鑑識の小野瀬さんまでいる。
驚く事が多すぎて、思考がついていけない。
如月
「おめでとう、翼ちゃん!」
藤守
「良かったなあ、良かったなあ!」
藤守さんはもう号泣だ。
藤守
「お前、知らんやろ。室長が何年……」
穂積さんが私を放し、何故か、慌てて藤守さんの口を押さえる。
小笠原
「言っちゃえばいいのに」
小野瀬
「ずっと前から好きだった、って?」
穂積
「わー!」
穂積さんは、今度は私の耳を押さえた。
……聞こえちゃいましたけど。
明智
「お前のお父さんが近所に単身赴任していた、小学生の頃から、お前の事が気になっていたらしいぞ」
穂積
「明智!てめえ!」
如月
「その後、高校生の翼ちゃんに一目惚れしてー」
小笠原
「警視庁にいると知って、捜査室にスカウトしてー」
小野瀬
「それなのに、自分の力不足で交通課に戻す羽目になって。こいつ、どんなに落ち込んだか分かる?」
次々と暴露される話に、私は言葉が出ない。
翼
「……」
姿を探せば、穂積さんは顔を両手で覆って、傍らにうずくまっている。
耳まで真っ赤だ。
如月
「翼ちゃんも、おめでとう」
そう言って私の顔を覗き込む如月さんの目が、潤んでいる。
明智
「交通課の山田課長から、元気が無いと聞いて、心配していたんだぞ」
明智さん。それに、課長にまで、心配かけてたなんて。
それを、みんなが知ってたなんて。
小笠原
「きみが捜査室に戻ってくれるの、俺、嬉しい」
藤守
「こら小笠原、抜け駆けすんなや。櫻井、俺も、俺かて嬉しいで」
ふわり、と柑橘系の香り。
小野瀬
「ありがとう、櫻井さん」
微笑んだ小野瀬さんの目にも光るものが見えたのは、気のせいかしら。
それに、ありがとう、って。
小野瀬
「積もる話はまた、捜査室でね」
そう囁くと、小野瀬さんは、よく穂積さんがそうしたように、パン、と手を叩いた。
小野瀬
「さあさ、帰るよ。他のお客さんに迷惑だからね」
小野瀬さんの言葉に、ハッとして周りを見回した私は、自分たちが、ホテルのレストランで大注目を集めている事に気付いた。
うわあ、恥ずかしい。
席を立ち、下を向いたまま、会計に向かうみんなの後について行こうとした時、急に、後ろから腕を掴まれた。
驚いて振り向くと、私を掴んでいたのは、立ち上がった穂積さんの手。
穂積さんはまだ赤い顔で、怒ったように私の手を引いた。
穂積
「お前は、こっちだ」
翼
「えっ?」
そのまま、レストランを出てしまう。
翼
「えっ?えっ??」
視界から消える間際、小野瀬さんが笑って手を振るのが見えた。
穂積さんに連れられて来たのは、エレベーターホール。
穂積さんがボタンを押すと、エレベーターの扉はすぐに開く。
手を引かれて乗り込むと、扉が閉まった。
穂積
「上に、部屋をとってある」
……それって、もしかして。
急激に高まっていく自分の鼓動が、ドキドキうるさい。
どんな顔をすればいいのか分からないまま、胸を押さえて俯いていると、穂積さんが、行き先階のボタンを押した。
私の手を握っていた手が、指を絡めた繋ぎ方に変わる。
髪を撫でてくれる手は、優しい。
エレベーターが到着したのは、最上階だった。
穂積さんがカードキーで開けたのは、広いスイートルーム。
大きな窓いっぱいに、東京の夜景が広がっている。
翼
「うわあ……」
思わず声が出てしまった。
穂積
「気に入ったか?」
翼
「はい。とっても綺麗」
しばらくうっとりと眺めているうち、ガラスの内側に、穂積さんと私の姿が映っている事に気付いた。
すらりと背が高くてきれいな穂積さんと手を繋いだ私は、今さらながら地味で貧相に見える。
こんな私が、この人に選んでもらえたなんて、まだ、信じられない気持ち。
私は夜景から、そっと、穂積さんに視線を移した。
穂積さんは私の視線に気付いて、碧色の目で私を見つめた。
穂積
「……本当だから」
翼
「え?」
穂積
「あいつらの言った事」
ずっと前から、好きだった。
翼
「……」
でも、と言って、穂積さんは、温かい掌で私の頬を包んだ。
穂積
「本当に好きになったのは、捜査室で頑張るお前を見てからだ」
翼
「……私、ちっとも役に立たなかったのに」
穂積
「突然引っ張られたのに、一生懸命やってたよ。力を存分に発揮出来なかったのは、俺のせいだ」
穂積さんの指が、私の頬を撫でてくれた。
穂積
「戻ってくれるか?」
翼
「捜査室に?!戻っていいんですか?」
穂積
「ああ。いつか戻すって、異動させる時に言わなかったかな?」
穂積さんは自分の記憶を辿るような顔をしたけれど、すぐに、微笑みに戻った。
穂積
「まあいい。戻って来い。捜査室に」
それから私の前髪越しに、額にキスをした。
穂積
「俺のところに」
どうしよう、涙が溢れてしまいそう。
翼
「はい、室長」
室長は、ふっと笑って私から離れ、カーテンを閉めた。
穂積
「いい子だ。ただし」
私の方に戻って来る室長の表情が、不敵なものに変わってゆく。
穂積
「二人の時は、泪、と呼べ」
低い声に、身体の芯がぞくりと疼いた。
穂積
「ん」
室長が、言ってみろ、というように、私の目の高さまで顔を下げた。
翼
「る、……泪さん……」
穂積
「いい子だ」
泪さんが、私の唇に、唇を重ねた。
全身に、甘い痺れが走る。
柔らかい唇は私の呼吸に合わせて離れ、また重なる。
そのたびに深くなるキスは気持ちよくて、気が遠くなりそう。
穂積
「もう、二度と離さない」
そう告げた泪さんが、私の身体を抱き上げた。
泪さんとの、初めての夜は、一生忘れられないほど鮮烈で、幸せな夜だった。
☆新しい朝……7へ
直前の分岐へ戻る → 2