バッドエンドから始まる物語~穂積編~
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~翼vision~
ホテルの部屋に入ると、小野瀬さんは、性急に私を求めてきた。
失意と混乱の中で、私は小野瀬さんに身を任せながら、その間じゅう、首筋がチリチリするのを感じていた。
それは、さっきまでとはうってかわって優しく私と身体を重ねる、小野瀬さんの愛撫のせいかと思っていたのだけれど。
小野瀬さんには悪いと思いながら、私の頭の中はずっと、穂積さんの事を考えていた。
小野瀬さんの言葉の通りだ。
私は、穂積さんの気持ちに薄々気付きながら、もっと強く求めてくれるのを期待していた。
三十歳を越えた男性が、結婚への歩みを慎重に進めてくれている、その当然な行動を、理解していなかった。
あんなに、私を大切にしてきてくれた人なのに。
でも、もう遅い。
小野瀬さんとこんな事になってしまった私には、あの人を責める資格も、まして追い掛ける資格も無いのだから。
小野瀬
「上の空だね」
私は現実に引き戻された。
小野瀬
「穂積の事を考えていた?」
翼
「……ごめんなさい」
小野瀬
「いいんだよ」
小野瀬さんは微笑んで、私の両脚を開いた。
小野瀬?
「どうせ、もう、彼の元には戻れないからね」
声が変わった、と思った瞬間、私は貫かれた。
翼
「ああぁっ!」
小野瀬?
「いいね。感じて?このままでいい?オノセの声が好き?ホヅミの声でイキたい?」
小野瀬さんじゃない!!
誰?!
翼
「い、嫌!嫌!嫌!」
小野瀬?
「こういう時の『嫌』は、『イイ』でしょ?」
男が動きを速くする。
翼
「やめて!ああっ、嫌!」
穂積さん!
小野瀬?
「へえ、きみは、やっぱり、ホヅミが好きだったんだね」
穂積?
「……やり直したいか?」
探していた声に、身体が反応してしまう。
やめて。やめて。やめて。
嬉しそうに責めを激しくする誰とも分からない男に抗いきれず、せめてもと、私は目を固く閉じた。
穂積?
「凄く感じてる。そんなにこの声がイイ?妬けるな」
耳元に懐かしい声と熱い吐息を吹き込まれて、もう、おかしくなりそう。
高い波が来て、達すると同時に、私は絶望の淵に突き落とされた。
シャワールームから出てきたのは、小野瀬さんでも穂積さんでもなかった。
長髪の、若い男。
……私は、たった一度だけ、この男に会った事がある。
つい最近、祖母の貸金庫から遺品の指輪を取り出した時、馴れ馴れしく話し掛けて来た男だ。
確か、ジョン・スミスと名乗った。
私が手にした古い箱を見て、骨董に興味があるから、見せてくれと言った。
指輪自体はごく地味な物だったので、私はその箱を、その銀行のロビーで開いて見せた。
彼は指輪を手に取り、そして戻した。
譲ってくれないか、とも言われたけれど、私は、祖母の形見だからとその話を断った。
彼は、その後、無理強いする事もなかったので、その場で別れた。
それきりだった。
そのジョン・スミスが、何故、こんな事を?
心身への衝撃で動けずにいる私に、ジョンは、少し同情するような表情を見せた。
けれど、こちらには寄らず、ふらりと扉に向かってしまった。
まるで、もう、この玩具には飽きた、という顔で。
JS
「じゃあね。サヨナラ。別了」
彼は振り返らず、扉の向こうに消えた。
銀行で会った時に言われた、「再見」ではなかった。
あの時、すでに指輪をすり替えられていた事など、私に分かるはずもなく。
彼の言葉通り、それきり、ジョンと会う事はなかった。
私は警察官を辞めた。
その後は穂積さんとも、誰とも会っていない。
私はいったい、どこで間違えたんだろう。
どうすれば良かったんだろう。
~END~
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