バッドエンドから始まる物語~穂積編~
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~翼vision~
警察病院。
小野瀬
「……でね、こいつその時、電話で何て言ったと思う?」
藤守
「えー、何て言うたんすか?」
如月
「めっちゃ知りたーい!」
私はベッドの傍らでリンゴを剥きながら、みんなの会話を笑顔で聞いていた。
小野瀬
「『子供が生まれるんだ。まだ死ねない』」
藤守
「くうぅーっ、泣かせるやん!」
藤守さんは、本当に涙ぐんでいる。
小野瀬
「そんな事言うから、俺も、覚悟を決めて行ったんだよ?そしたら、こいつ、本当になかなか死ななくて」
小野瀬さんはいつもより軽口で、雄弁。
でも、今回、小野瀬さんが泪さんの命の恩人なのは間違いない。
それに、きっと何より、泪さんが助かって、小野瀬さんも本当に嬉しいのだ。
穂積
「お前が俺の危機に監察医を連れてきた事は一生忘れん」
小野瀬
「あのねえ。ちゃんとしたお医者さんだよ。緊急事態だし、仕方ないでしょ」
穂積
「俺はあの時、お前の本性を見たぞ」
小野瀬
「あれ?俺もあの時、お前の本性を見たよ」
小野瀬さんは目を細め、泪さんは顔を赤くした。
小野瀬
「穂積の本性を知りたい人ー」
藤守・如月
「はーい」
小野瀬
「俺は、『フラグを立てるな』って何度も言ったんだよ。それをこいつは何個も何個も」
藤守
「『これで二階級特進だ』とか?」
如月
「いやいや『翼、愛してる』とか言っちゃったんじゃないですかあ?」
穂積
「てめえらっ!」
翼
「喧嘩しないで下さい。はい、リンゴ剥けましたよ」
穂積
「まったく、あいつらは……」
午後七時の面会時間を過ぎ、みんなが帰って静かになると、泪さんは、ようやく、起こしていた上半身をベッドに倒した。
少し頬が赤いのは、熱が上がって来たからだろうか。
額に手を当てると、泪さんは気持ちよさそうな顔をした。
翼
「やっぱり熱い」
今日は入院三日目。
鹿児島のご家族やご親戚は、手術の日と翌日、泪さんに付いていてくれたけど、後は私に任せると言って下さって、深々と頭を下げてからお帰りになった。
本当はもっと泪さんの傍に居たかったのだろうけど、おそらく、お見舞いの方々に、親子が似ていない事を勘繰られるのを避けたかったのだと、私は思っている。
そして、ようやく、一般のお見舞いの許可が出た今日の面会時間には、この個室が大賑わいだった。
捜査室メンバーが交代で面会に来たのはもちろん、小野瀬さんは時間じゅう居たし、見た事も無いような警察の偉い人も警視庁職員も大勢、それに、ニーナ王女やなんとJSまでも現れた。
特にニーナ王女は何度も「ルイルイ!」とハグしようとし、JSに「重傷ですから」とたしなめられていたのには、ちょっと笑ってしまったけど。
泪さんの無事を確かめたニーナ王女一行は帰国の途につき(探し物は結局、見つからなかった)、泪さんが心配していたホテルの絨毯は、ホテルが修繕費として処理出来る範囲内で収まるとの事だった。
あんな時に、絨毯の心配をしていたとは知らなかったけど。
翼
「もう、眠って下さいね。まだ、絶対安静なんだから。先生が言ってました。……あと少し遅れたら、本当に、危なかった、って……」
言っているうちにあの光景が脳裏に蘇って、私はまた涙ぐんでしまう。
その涙を、泪さんの指先が拭いてくれた。
穂積
「ここへ来い、抱き締めてやる」
そう言って身体を捻り、ベッドの掛布を持ち上げる。
私はそこへ潜り込んだ。
穂積
「五分だけな。見つかると叱られるから」
泪さんが、私を掛布と自分の腕で包んでくれる。
その中で、私はなるべく泪さんの怪我に障らないようにしながら、頬をすり寄せた。
腕枕をしてくれる泪さんの腕が、私の頭を抱く。
穂積
「怖い思いをさせたな、ごめんな」
もう何度目かの謝罪を、泪さんは辛抱強く私に聞かせてくれる。
穂積
「大丈夫、俺はここだ。ずっと傍にいる。約束しただろ」
泣きながら頷くと、泪さんは、額や頬にキスをくれた。
穂積
「だから安心して、お前は、元気な子を産んでくれ」
翼
「うん」
穂積
「約束だぞ」
私たちはそれから、長い長いキスを交わした。
泪さん。
私、本当に、本当に、怖かった。
でも、約束を守ってくれて、ありがとう。
私の元に帰って来てくれて、ありがとう。
今度は私が、泪さんとの約束を守るからね。
だから、いつまでも傍にいて。
~END~
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