バッドエンドから始まる物語~穂積編~
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~翼vision~
名前を呼ばれた気がして、私は顔を上げた。
やわらかな陽射しが暖かい。
いつのまに眠っていたのだろう。
なだらかな斜面に、緑の芝生が広がっていて、遠くまで見渡す事が出来る。
背の高い彼が、髪を金色に輝かせながら、こちらに走って来るのが見える。
惚れ惚れするほど綺麗な笑顔、私の大好きな碧色の瞳。
ああ、良かった夢だった。
傍らの芝生の上に腰を下ろし、はあっ、と息を整えた彼が、少し上気した顔で私を見上げた。
「なあ、母さん。退職したら、一度、ゆっくり、鹿児島に行ってみないか?」
翼
「お父さんの故郷?」
うん、と頷いたのは、私の息子。
夢じゃ、なかった。
「久しぶりに、瞳叔父さんにも会いたいし」
泪さんの弟。
お義父さんもお義母さんももういない今、私と鹿児島を繋ぐ、たった一本の糸。
翼
「そうね」
「こいつにも、親父の事、少しでも知って欲しいし」
息子が顎で示した先には、私の傍らで赤ちゃんを抱いて微笑む、彼の奥さん。
翼
「退屈じゃないかしら?」
私が手を伸ばすと、彼女はすぐに、抱いていた赤ちゃんを差し出してくれる。
息子と、そして、泪さんと同じ色の髪は、明るいこの場所では、金髪にしか見えない。
眠りながらもぐもぐと動かす唇からは、甘いミルクの香りがする。
息子の妻
「私も知りたいです。この人が憧れているお義父さんの事。それに私は、この人とこの子と、お義母さんとなら、どこへでも」
優しいお嫁さんと、愛らしい孫の顔を見つめながら、私はふと不安になる。
翼
「お父さんは、子供の頃、見た目のせいで辛い思いをしたようよ。あなたたちは、どうなの?」
二人は、顔を見合わせて微笑んだ。どうやら、私がこの質問をするのは、初めてではないようだ。
息子の妻
「お義父さん似の素敵な夫と、天使のような息子。立派なお義母さん。私は幸せですよ」
「ここは東京だし、もう、そんな時代じゃないよ、母さん。大丈夫」
そう言って微笑む息子の顔は、私の前から消えた、あの頃の泪さんに瓜二つだ。
ずっと傍にいて。
泪さんは、目の前の息子に姿を借りて、私の傍にいる約束を守り続けてくれた。
この子がいなかったら、私は生きてこられなかっただろう。
翼
「……ありがとう……」
「またあ。泣くなよ」
教えたわけでもないのに、泪さんと同じ事を言う息子。
「女手ひとつで育て上げてくれて、感謝してる。これからは、俺たちが幸せにするから」
息子がハンカチを出して、涙を拭いてくれた。
お嫁さんが背中を撫でてくれる。
「だからさ、笑って。俺、母さんの笑った顔が好きなんだ」
泪さん。
私は約束を守れなかったけど。
あなたに教わったように、前を向いて胸を張って、これからも生きていきます。
あなたの代わりに、この子たちを愛し続けます。
だから、見守っていて。
あなたとまた会えるその日まで、私、精一杯生きるから。
~END~
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