バッドエンドから始まる物語~小野瀬編~
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~小野瀬vision~
俺は、マスターの姿をじっと見つめた。
けれど、マスターは決して俺を見ない。
普段、特にオーダーしなくても、アイコンタクトだけでその場に合った飲食物を提供してくれる、そのマスターが。
穂積の碧眼と同じ色のカクテルを、彼女に出した、その意味は。
いや、彼女にではない。
マスターは、俺に見せる為に、このカクテルをここに出した。
鼓動が速くなってくる。
急に喉が渇いてきて、俺は自分のグラスの中身を飲み干した。
すると、こちらを見ていなかったはずのマスターはやはり俺を見ていて、俺の前には、烏龍茶のグラスが差し出された。
俺はもう、マスターを見ていなかった。
穂積も彼女も、何も言わずに、それぞれのグラスに口をつけている。
まさかこの二人が、と思うと同時に、かつて、穂積と自分自身がそれぞれ言った言葉が、俺の脳裏に蘇った。
穂積
『俺にとって、一生頭の上がらない人の娘さんなんだ』
穂積は俺にそう言った。
そして、彼女が捜査室に入って以来、彼女を父親のように見守り、大切に育ててきた。
そして、俺は彼女に言った事がある。
小野瀬
『君に鑑識の手伝いをしてもらっていたから、その間に流れていた捜査室の時間だけ、みんなと距離が開いてしまったんだと思う』
今、その言葉が、自分に返ってくる。
俺が科警研に行っていた間も、捜査室では時間が流れる。
その分だけ、俺と彼女の距離が開いていたとしたら。
その狭間を、穂積が埋めていたとしたら。
俺の見つめる先で、穂積は焼酎のグラスを飲み干すと、カウンターに万札を置いて、立ち上がった。
穂積
「……何だか、今日は酔えない。悪いが先に帰る」
翼
「え、室長」
彼女が狼狽えた。
翼
「小野瀬さん、来てくれたばかりですよ」
穂積は俺を見て、すまん、という仕草をした。
本人の言う通り、全く、酔っているようには見えない。普段通りの穂積だ。
穂積
「悪いな、小野瀬。近いうちに、埋め合わせするから」
そう言って俺の肩を叩くと、穂積は、バーを出て行ってしまった。