ポケット穂積
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めぐの祖母
「改めまして、めぐの祖母でございます。この度は息子のワタルが不始末を致しまして、大変申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げられて、私たちもお辞儀を返す。
祖母、と言っても、まだ五十歳代だろう。
明智さんが椅子を勧め、私たちも着席した。
入口と窓に対して垂直に置かれた長机に、明智さんとお祖母さんが向かい合って座り、それぞれの両脇に、残りのメンバー4人が座る。
泪さんは机の上で体育座りをして、お祖母さんに頭を撫でられていた。
明智さんはしばらく入口を眺めていたけど、痺れを切らしたように、泪さんに訊いた。
明智
「あの、室長は?」
泪
「めぐの子守りをしてる。始めていいぞ」
明智
「は、はあ……ではあの、すみませんが、川原さん。お話をうかがえますか?」
明智さんには、室長が子守りをするイメージが湧かないんだろう。
私も同感だけど、まずはこちらの話が先決だ。
めぐの祖母
「めぐは、泪ちゃんが自分の父親の命の恩人だと言って、大変感謝しております」
お祖母さんが、しみじみと話を始めた。
あの日。
めぐちゃんは、自分の父親である川原ワタルが二度まで自殺を図るのを、瞬きもせずに見ていた。
そして、それを防いでくれた『お人形』が、飛ばされて壁に当たり、床に落ちるのも見た。
SITが突入してきて騒然とする教室の中で、めぐちゃんは真っ先に『お人形』の所へ走り、拾い上げて自分のポケットに入れた。
直後に、誰か知らない大人の人に抱き上げられて、他の園児たちの中に下ろされた。
めぐちゃんは父親の元に駆け戻ろうとしたけれど、SITの人垣に阻まれ、父親を連れて行こうとする隊員を叩き続けたけれど敵うはずもなく、現場に残された。
やがて人質の幼児たちは全員解放されたものの、父親は連行され、また、めぐちゃんの母親も参考人として任意同行を求められ、行ってしまっていた。
結局、めぐちゃんは離れて暮らしていた祖母に預けられる事になり、職員の車で祖母の家まで送られた。
家に飛び込むなり、めぐちゃんはお祖母さんに『お人形』を助けてくれ、と頼んできたという。
サバイバルナイフ、という名前を、めぐちゃんは、『危ないから触っちゃだめだよ』という言葉と一緒に覚えていた。
それで切られたという『お人形』を見たお祖母さんは、一目で、それが、小さいけれど生身の人間だと気付いた。
めぐの祖母
「普段なら腰を抜かしていたと思いますよ」
けれど、息子の起こした事件と突然現れた孫の懇願で、お祖母さんは普段の心理状態ではなかった。
めぐの祖母
「だから、かえって冷静に受け入れられたんでしょうね」
幸い、上質のウールジャケットとベスト、ワイシャツが盾になって、傷は内臓まで達していなかった。
裸にして血止めをし、消毒と塗り薬を繰り返すうちに熱も下がり、翌日になると、『お人形』は目を覚ました。
めぐの祖母
「あの時は、本当にホッとしました。めぐからは『お父さんの命の恩人』だと何度も聞かされてましたし、何より、綺麗で可愛い子でしたからね」
祖母の家には、めぐちゃんが遊びに来た時の為に、いくつもお人形が買ってあった。
祖母とめぐちゃんは男の子のお人形の服を脱がせて、目を覚ました『お人形』に着せた。
すると『お人形』はきちんと正座して、お礼を言ったという。
泪
「助けて頂いてありがとうございます。穂積泪です」
めぐの祖母
「めぐはもう大喜びで」
全員
「分かります」
私たちは頷いた。
めぐの祖母
「一日中、泪ちゃんの傍にいて、絵本を読んでもらったり、ご飯を食べるのを手伝ったり。……元気に振る舞ってましたけど、寂しかったんでしょうね」
お祖母さんは、そっと目頭を押さえた。
めぐの祖母
「でも、泪ちゃんは最初から言ってましたよ。『ずっとここにはいられないんだ』って」
翼
「めぐちゃんは納得してくれたんですか?」
お祖母さんは苦笑いして、首を横に振った。
めぐの祖母
「ですから、泪ちゃんと相談して、物語を作ったんです」
明智
「物語?」
めぐの祖母
「まだ、幼稚園の年中さんですからね。本当の事を説明するよりも、絵本のようなお話にしてしまう方が、素直に理解できるんじゃないかと思いまして」
泪
「つまりこうだ。今の俺には魔法がかかっている。『警視庁の緊急特命捜査室』という所に連れて行ってくれると、魔法が解けて大人に戻れる」
小笠原
「リアルな魔法だね」
めぐの祖母
「泪ちゃんには、泪ちゃんを待っている仲間がいるの。だから、めぐに、魔法を解くお手伝いをして欲しいのよって」
如月
「なるほど」
泪
「そしたらめぐは張り切って、『分かった』って言ってくれてな。やれやれと安心したら、そこからが大変だった」
明智
「?」
泪
「『魔法が解けたら、めぐも大人になるの?それで、泪ちゃんのお嫁さんになるの?』……ごめん、両方、そうはならないよ、って」
めぐの祖母
「そしたら次は、『じゃあ、めぐは、泪ちゃんが仲間とお姫様を助ける為のお手伝いをするのね?』『めぐ、誰と戦うの?』って。何かのテレビの影響なのかしら」
お祖母さんは首を傾げた。
泪
「そこでだ。お前たち、力を貸してくれ」
泪さんが両手を合わせた。
小笠原
「悪い魔法使いと姫君が必要なんだね」
藤守
「魔法使いの知り合いならおるで」
如月
「あの人を呼ぶとややこしくなりますよ」
明智
「じゃあ、俺が」
小笠原
「明智さん、演技力ゼロじゃん」
明智
「……」
如月
「じゃあ、小野瀬さん?」
藤守
「あの人ならやってくれそうやな。小笠原、お前、事情を話して呼んで来いや」
小笠原
「うん」
泪
「やっぱり小野瀬に頼むしかないのか……?」
翼
「泪さん、嫌そう」
泪
「見てろ。あいつ絶対『俺は魔法使いをやればいいの?それともお姫様の方かな?』って言うぞ」
泪さんは溜め息をついた。
数分後。
小野瀬
「泪が帰って来たって?!」
ばーん、と扉を開けて入って来たのは、白衣姿の小野瀬さん。
小野瀬
「泪ー!会いたかったよー!」
泪
「痛い痛い!無精髭で頬擦りするな!」
小野瀬
「ゆうべ徹夜だったんだもん」
そこで小野瀬さんはめぐちゃんのお祖母さんに気付いて振り返り、優雅に手を取ってその甲にキスをした。
小野瀬
「これはお見苦しい所をお見せしました。泪を助けて頂いて、ありがとうございました」
にっこりと微笑めば、お祖母さんは真っ赤に頬を染める。
小野瀬
「それで?俺は魔法使いをやればいいの?それともお姫様の方かな?」
本当に言った。
如月
「お姫様は翼ちゃんですよ。小野瀬さんは悪い魔法使い」
小野瀬
「えー。まあ、仕方ないか。本当なら一番悪役向きなのが王子様役だからね」
小野瀬さんも納得してくれて、ようやくスタンバイ。
藤守さんが携帯で室長を呼び出して、私たちは、いよいよ、泪さんを捜査室に帰す為の小芝居を開始した。
でも、この時、私たちは気付いていなかった。
主役の室長本人が、事情を全く知らないという事に。