小野瀬と穂積(♀)
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~小野瀬vision~
壁際に追い詰めて白い頬に口付けると、目の前の穂積は唇を噛み締めて、身を捩った。
「……」
「……駄目?」
きっ、と俺を睨み付けた碧い目の縁で、滲んだ涙が煌めいていた。
……朝、目が覚めたら突然女性の身体になっている。
この奇病を一足先に経験した俺も捜査室の皆も、これが一日限りの流行り病だと知っている。
もちろん、俺たち全員の病の経過を見てきた穂積も。
だから、自分が罹患する番になっても、どうせ時間が経てば男に戻る、と分かっている。
それを踏まえての「一日だけ女性の身体になったら何がしたい?」という問いかけに、だから穂積は「アノ時の女性の感覚が知りたい」と笑って答えた。
抜群の美貌の穂積にそんな事を言われて色めき立つ俺たちに、穂積はさらに言った。
「どうせなら自分より強い男のものになりたい」と。
そこで、穂積に勝つための腹筋サバイバルレース、「最強の男決定戦」が行われ……俺が勝ち抜いた。
穂積は「小野瀬だけは嫌だ」とずっと言い張っていた、のだが……。
女性化し、腹筋で俺に負けた悪……親友に優しく労りの声をかけてやりながら、けれど、俺の腕は、言葉とは裏腹に、しっかりと穂積の腰にまわされていた。
いつもの穂積と比べたら信じられないほど細く、指先が沈むほどの柔らかさとしなやかさを伝えてくる肉体は、まさしく女性特有のもの。
しかも、これまでに自分が何人の女性を抱いたか数えてみた事は無いけれど、穂積のそれは、間違いなく、極上の女性の身体だった。
気丈に振る舞ってはいるものの、穂積だって、本当は戸惑っていないはずがない。
けれど、褒賞として得たこの美しい肢体は、今、この時だけは俺のもののはず。
「優しくするから」
逃がすつもりはなかった。
綺麗な髪に、滑らかな頬に口付けを繰り返しながら、俺は、レオタードの薄い布越しに、穂積の豊かな胸のふくらみを掌で包んでみる。
「……っ」
俺の腕の中で小さく呻いた穂積の身体が反射的に拒むように強張り、俺に向けられた目が見開かれる。
綺麗な目だ。
いつもそう思っていた。
この目に自分が映ると、いつも胸がときめいた。
今と同じように。
「……したいんだよね?今朝、そう言った」
どうしても許しを乞うような口調になってしまうのは、男の穂積に惚れているこちらの弱みか。
身体を起こし、唇を重ねるために角度をつけて顔を寄せると、穂積は逆に顔を背ける。
「して、みたい。……でも、お前とだけは、嫌だ」
……今まで、誰からもそんなに拒まれた事は無いよ。
ちょっと、自尊心に傷がついたかも。
「どうして?」
俺の掌にはおさまらないほどの確かな質量と弾力のある胸を、ゆっくりと揉みしだく。
なおも近付くと、驚いた事に、腹筋であれほど汗をかいたばかりの穂積からは、芳香と言っていい匂いがした。
懐に入らないと分からない、穂積自身の匂いだ。
「……いい匂い」
舌を伸ばして、細いうなじを舐め上げた。
穂積が、びくりと身体を震わせる。
怯えているのでも、感じているのでもない。
これは、おそらく、怒りだ。
穂積が、俺に与えられる屈辱に耐えて、怒りで震えている。
けれど同時にそれは、今の穂積は俺に抗いきれないという証。
たまらない。
さっき傷付いたばかりの自尊心が回復して、俺の唇を愉悦に歪ませる。
穂積は律儀な男だ。
今は女の身体でも。
勝負に勝ったら好きにしていい、と言った自分の言葉にも、それに応えて勝利をおさめた俺の努力にも、責任を持って報いる。
予想通り、頬を舐める舌が顎の線に沿って、しっとりと吸い付くような柔肌を滑り降りていっても、穂積は、歯を食い縛って、俺にされるがままでいた。
気を良くした俺は遠慮なく、穂積のレオタードを肩から剥ぎ、袖から腕を抜いた。
芳香が、濃さを増す。
本当に、たまらない。
人間は、異なる遺伝子の匂いに惹かれるという。
自分が惹かれる相手の遺伝子に。
その香りの名を恋愛遺伝子と呼んでもいい、フェロモンと言い換えてもいい。
俺はまさしく、穂積の香りの虜だった。
汗ばんで熱く柔らかい肌を貪るように味わっていた舌が、剥き出しになった穂積の胸の頂の桃色の果実を口に含もうとした、その瞬間。
頑なに俺を押し返していた力が、突然、緩んだ。
勢い余って、前のめりに倒れかかった俺と穂積との間で、距離が詰まる。
俺は……
抱き締められていた。
いきなりの展開に、心臓が跳ねて、呼吸が、止まりそうになる。
「……小野瀬」
穂積の、けれど、紛れもない女の声で呼ばれる、自分の名前。
その声は低く、掠れていて、熱い。
「……俺が」
ありえない言葉に、背中を戦慄が駆け抜けた。
「でも」
「嫌か」
嫌なはずがない。
今の身体の穂積を抱きたいから、がむしゃらに仕事を片付け、なりふり構わず腹筋したのだ。
今なら、穂積を抱けるのだ。
俺が首を振るよりも早く、穂積は、俺の耳元で囁いた。
「……なぜ、お前には抱かれたくないと言ったか、分かるか……?」
息遣いだけで、まるで愛撫されているような、魔力を秘めた、声。
分からない、と首を動かすのが精一杯の俺に、穂積が喉の奥で笑ったのが分かった。
「……抱かれたらきっと、お前を忘れられなくなる。それが、怖かったからだ」
嘘だ。
俺を煽る為の、嘘。
言い返そうとして。
どんな顔でそんな事を言うのか、近過ぎる距離から、そろりと表情を窺おうとして……目が、逸らせなくなった。
穂積の、深い碧の色の瞳の中に、俺が囚われていた。
わずかに紅潮した白い頬と金色の睫毛に彩られた、それは鳥肌が立つほど、美しい檻だった。
強く惹きつけられて、身動きが取れない。
動くのは心臓だけ。
ただ自分の鼓動だけが、目の前のこの美しすぎる悪魔に対して、警鐘を鳴らし続けている。
捕らえた俺の目を逸らさないように見つめたまま、穂積はさっき俺が脱がせかけて腰でわだかまっていた紫のレオタードを、自らするりと脱ぎ捨てた。
「……!……」
全裸を晒した穂積を前に、俺は声を失っていた。
美術館のニケもアフロディーテも、血の通った生身の女の美しさには敵うまい。
男のままでも、穂積は充分に美しい。
しかも、正真正銘の女である今、その官能的な身体と、蠱惑的な表情は、俺の、男としての本能を刺激し、痛いほどに奮い立たせた。
俺の反応に満足したのか、穂積が、白い腕で俺の身体を引き寄せる。
右手に添えられた穂積の手がなまめかしく、俺を、そこに導いた。
俺の、中指が。
熱く潤んだ穂積の中心に、吸い込まれた。
「!」
自分ではないような声が、喉を突き上げた。
締め付けられ、食いちぎられるどころじゃない。
穂積の中にある指が、付け根から焼き切られそうだった。
穂積も息を詰めていた。
芳香が強くなる。
穂積も、俺で感じてる。
穂積が蠢くのを指で感じた瞬間、理性が吹き飛びそうになった。
「……っ、穂積、頼む、指じゃなくて……」
耐えきれず、懇願してしまった俺の声が、掠れている。
心身ともに張り詰めている。
もう限界だった。
「小野瀬」
穂積の声は逆に、濡れていた。
翡翠の目に滲んでいる涙は嘘か誠か、俺にはもう分からない。
その声も。
俺の耳にぬるりと入ってくる舌も。
はあ、と吐く熱い息も。
しなる身体も。
全てが媚薬のようで。
「……お前の指、すごくいい」
強く抱き締められ、下着の上から穂積の爪の先で撫で上げられた瞬間……
俺は達してしまった。
「よかったぜ、小野瀬」
シャワーを浴びて出てきた穂積は、男に戻っていた。
その顔を見ても、平らな胸板を見ても、俺とした事が、ショックでまだ立ち上がれない。
床にへたりこんでいる俺を覗き込むようにして、穂積は笑った。
「思ったより早かったけどな」
ちくしょう。
何も言い返せない。
「じゃーな。ごちそうさん」
穂積はそう言うと振り向きもせずに俺に背を向け、出て行ってしまった。
ばたーん。
シャワールームの扉が勢いよく閉まる音を聞きながら、俺は涙を堪え、屈辱に震えていた。
酷い女だ。
いやもう男か。
「穂積のバカ野郎ーーー!!」
ありったけの声で叫ぶと、外で、穂積が高笑いする声が聞こえた。
あの、悪魔。
……忘れられなくなったのは、やっぱり俺の方だった。
~END~
……こんなので本当にすみませんm(__)m。
でも面白かったよ、という方は、「刹那空間」のせつなさんにも拍手をお願いします(笑)
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