★★ 仮面ライダー☆HOZUMI-episode 2- ★★
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明智
「室長、すみません。この後、少し、お時間よろしいでしょうか」
終業後。
穂積が帰り支度をする時刻を見計らって、室長席に近付いた明智が声をかけた。
明智以外のメンバーは、明智よりも数歩後ろに並んで立って、二人を見守っている。
穂積
「いいわよ。どうかした?」
穂積が椅子から立ち上がった。
明智
「その前に、これ、お返しします」
明智が差し出したのは、穂積のライダーベルト。
翼の閃きを受けて、数時間前に、穂積から借り受けてあったものだ。
ベルトを外している間は解れていた穂積の表情が、再び憂いを漂わせる。
慌てて、明智が説明を始めた。
明智
「実は、開発室に掛け合って、改良を加えてもらいました」
穂積
「……改良?」
穂積が、一見しただけでは何も変わっていないベルトを見つめた。
明智
「室長、HOZUMIに変身してみてくれますか?」
穂積
「……ここでか」
急に真顔になった穂積の低い声に、明智が身震いする。
穂積
「……」
しかし特にそれ以上の抵抗は無く、穂積はジャケットを脱ぐと、ライダーベルトを腰に装着した。
すう、と呼吸を整える。
穂積
「警視庁の名において、特別法を発動する」
対被疑者への宣告であると同時に、ベルトを起動させるための規定文でもある決め台詞。
それを、感情の無い声で呟きながら、穂積の左手が、ベルトに触れた。
声紋・掌紋が照合されると同時にベルトから風が巻き起こって、穂積の細い金色の髪がたなびく。
旋風の中に再び、穂積の声が響いた。
穂積
「変身」
ベルト(小野瀬の声)
『変身!』
ぞくぞくするような美声の競演とともに、穂積の全身は光を放ち、一瞬で、目の眩むような変貌を遂げる。
輝く髪はフルフェイスのマスクと白銀のマフラーに。
閃光とともに再構成された紺の三つ揃いは、警察官の制服の色、ポリスブルーのバトルスーツに。
ベルトから下を覆う、コートのような白く長い裾が、風を受けて美しくはためいている。
熱と閃光が収まると同時に、穂積の姿は、仮面ライダーに変身していた。
HOZUMI
「仮面ライダーHOZUMI、臨場」
全員
「臨場っ!!」
全員が声を揃える。
明智
「室長、そこから、『インテリジェンスモード』と声に出してみてください」
HOZUMI
「『インテリジェンスモード』?」
すると。
再び、ベルトが風を巻き上げ始めた。
HOZUMI
「なっ……」
ベルト(小笠原の声)
『あまねく情報を収集し、緻密な計算で最善の策を練り上げる。知識と理性の紫色、インテリジェンス・パープルモード!』
小笠原の声が終わらない内に、穂積の身体が閃光を発した。
ベルト(小笠原の声)
『臨場』
「臨場!!」
再び、全員が声を揃えた。
初めて見る紫色のライダースーツに、変身を終えたHOZUMIは半ば呆然と、自分自身の腕や身体を確かめている。
HOZUMI
「……小笠原…」
小笠原
「櫻井さんのアイディアだよ」
HOZUMI
「櫻井の?」
HOZUMIが、青紫の目を翼に向けた。
藤守や如月の手でHOZUMIの前まで押し出されて、翼が、おずおずと話し始める。
翼
「すみません、勝手な事をして。……私たち、ライダーの補助を命じられているのに、落ち込んでいる室長を慰める事さえ、出来なくて」
HOZUMI
「そんな事は」
翼
「それで、せめて、みんなの声で、室長の変身を応援出来ないか、って」
だんだんと声が小さくなってゆく翼の後を引き取って、藤守が明るい声を出した。
藤守
「せやから、メイン変身の時のベルトの声は、小野瀬さん。射撃のガングレーモードに変身する時は、明智さん。インテリパープルの時には、小笠原、いう感じにです」
如月
「ブルーモードでは藤守さん、イエローモードでは俺が声を担当しますよ!」
明智
「それと合わせて、室長が各色モードへの変身を希望しない限り、たとえ開発室であろうと、勝手にスーツを変更する事は出来ないよう、声紋ロックを付けてもらいました」
HOZUMIは先程、明智に、「『インテリジェンスモード』と声に出してください」と言われた事を思い出していた。
なるほど、あの声があって初めて、ベルトがHOZUMIのモードチェンジを許可するわけか。
そうであれば、HOZUMIの意思を無視して、変身させる事は出来なくなる。
HOZUMI
「……」
部下たちが、自分の為に考え、行動してくれた。
HOZUMI
「……お前ら……」
HOZUMIは、マスクの下で、目頭が熱くなるのを覚えた。
HOZUMI
「ありがとう!」
HOZUMIは両手を広げ、近くにいた明智と藤守を思い切り抱き締めた。
しかし、穂積の状態でさえ馬鹿力のHOZUMIの膂力は、ライダースーツで常人の7倍だ。
明智
「……くっ、くるし……!」
藤守
「室長!ギブ!ギブ!!明智さんが白目を剥いてます!」
こうして、マイナスまで落ち込んでいたHOZUMIのやる気は、仲間たちの協力によって、再び少しだけ上向いたのであった。
そして、ついに、事件は起こった。
翌々日、早朝。
《事件発生!事件発生!R-プロジェクト発動。仮面ライダー☆HOZUMI、出動準備!》
穂積の机上の電話器と、ポケットの中の受信機が、同時に鳴り響いてから機械的な音声を発した。
下着泥棒を追い掛け回した夜勤明け、捜査室全員と朝食を摂っていた穂積が、冷やし中華の最後の一口を啜り上げて立ち上がる。
穂積
「小笠原!」
全員が、情報を共有する為のインカムを装着した。
小笠原が、ナナコの画面に表示される、R-プロジェクト司令室からの情報を読み上げ始める。
小笠原
「《秘密結社ネオ・ジョンスミスから、警視庁あてに犯行声明が届いた。
以下は、声明に添付されてきた、動画と音声によるメッセージデータである》」
如月
「映像付きの犯行声明?」
藤守
「余裕あるやないか」
穂積
「……」
穂積は洗面台に、歯磨きの水を吐き出した。
穂積
「再生してちょうだい」
小笠原が指先を動かすと、ナナコのスピーカーから、唐突に、中性的で能天気な高い声が飛び出した。
JS
『はあーい!おっはよーございまーす!』
パソコンのディスプレイに明るく現れたのは、長い黒髪で、左の口元に小さな黒子のある美青年。
JS
『秘密結社ネオ・ジョンスミスの首領、みんなのアイドル、ジョンスミスでえーっす!
警視庁の皆さーん、暑い中を毎日お仕事、ごくろうさま。
そこで、少しでも涼しくなるように、僕から、風流な事件をプレゼントしまぁす。
本日、千代田区内にある七つの公共プールに、たくさんの金魚を放流いたしまーす。
大人から子供まで、みなさんに楽しんで頂けたら、嬉しいな!』
明智
「金魚?!」
小笠原がさらなる添付ファイルを開く。
そこには、プールサイドから巨大なポリバケツを傾けて、プールに次々と金魚を放流する、緑色の全身タイツを着た一団の姿が映っていた。
如月
「うわすげえ数」
翼
「……確かに風流かもしれませんけど」
藤守
「無駄に贅沢!」
穂積
「……何考えてんのかしら」
明智
「これは……千代田区スポーツセンターの屋内プールかな……」
JS
『ところで、噂で聞きましたが、警視庁に、変身ヒーローが誕生したそうですね』
JSの、楽しそうな声が続いた。
JS
『嬉しいなあ。
ぜひ、僕と遊んで欲しいなあ』
穂積は、画面のJSを睨みつけた。
そもそも、R-プロジェクトが発足したのは、穂積がライダーに選ばれたのは、この手の輩の、処置に困るような犯罪に対応する為だ。
特にこのジョンスミス率いる『ネオ・ジョンスミス』は、その筆頭に挙げられた存在だ。
桜の名所で、数十本もの桜の木が一夜にして跡形も無く抜き去られていたり、
かと思えばその桜が老人ホームの庭先に忽然と植え替えられていたり。
あるいは、海岸近くにあるデパートで、水着売り場から一斉に、ビキニ以外の水着が買い占められて品不足に陥ったり、
逆に、仕入れてもいないファミリー向け花火が大量に入荷したり。
つまりはこの連中のせいで、穂積は、なりたくもないライダーに任命され、しなくてもいいはずの苦労をさせられているのだ。
穂積の胸の奥に、ふつふつと怒りが沸いてきた。
もう充分、と穂積はディスプレイに背を向けた。
穂積
「臨場するわよ!」
穂積の声で壁の緊急ハッチが開き、一階のライダーバイク収納庫への直通シューターが口を開ける。
穂積は、そこへ、足から飛び込んだ。
明智
「サポートチームも出動だ!」
同時に明智の指揮の元、捜査室メンバーもまた、次々にシューターへ飛び込む。
翼は事前訓練でこの出動を体験してはいるものの、数秒間とは言え、暗闇を落下する恐怖はまだ克服出来ない。
それでも飛び込めるのは、下に穂積がいると分かっているからだ。
暗闇を抜けた瞬間、目の前にあるのは開いてゆく外へのゲート、穂積の跨がった大型バイク、そして、ヘルメットを装着した穂積が発進してゆく、排気音。
穂積の頼もしい後ろ姿を惚れ惚れと見送ってから、翼もまた、他のメンバーとともに、明智の運転する捜査車両へと乗り込んだのだった。