★★ 仮面ライダー☆HOZUMI-prologue- ★★
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会議室に副総監が現れた時、穂積は嫌な予感がした。
通常、この会議は警視庁各部の部長や、方面本部長、参事官といった、いわゆる現場の責任者である警視長、警視正クラスを集めて行われている。
そこに、警視庁では警視総監に次ぐ実力者である副総監が登場したのだから、普段は部下に威張り散らしている連中ばかりでも、さすがに恐縮して内心ざわつくというもの。
そんな参加者たちの動揺など百も承知のはずだが、長身で引き締まった体躯の副総監は、精悍な顔立ちに穏やかな笑顔を湛えて敬礼を返した後、全員に着席を促した。
ただ一人、穂積を除いて。
副総監
「穂積泪警視」
穂積
「はっ」
腰を下ろしかけていた穂積は、瞬時に反応して直立不動の姿勢をとった。
副総監は指先で銀縁の眼鏡を押し上げると、微笑んだ。
副総監
「楽にして聞いてくれたまえ。……他の諸君も、警察庁が主体となって進めてきた、『R-プロジェクト』の件はご存知かと思うが」
『R-プロジェクト』。
ご存知も何も、『変化する時代にあわせて進化する警察機構』などという、よく分からないスローガンを掲げた事業開発計画だとしか知らされていない。
副総監
「今朝、このプロジェクトの中心となる人物が、我が警視庁から選出されたと連絡が入った。……穂積くん、おめでとう!」
会議室にいる数十人の参加者が、一斉に穂積に注目した。
副総監
「きみが『R-プロジェクト』、即ち、『警察庁仮面ライダープロジェクト』その、栄えある1号ライダーだ!」
副総監は自ら手を叩くとともに高らかに宣言したが、会議室の反応は「おお!」と「はあ?」と「……」の三つに大別された。
もちろん、副総監の前だから、表向きは全員が「素晴らしい!」「おめでとう!」「頑張れよ!」という歓迎ムードではあったのだが……。
穂積
「…………」
穂積本人は「はあ?」のグループに属していた。
何かの冗談だろうか。
確かにここ半年ほどの間に、バイクの免許を取らされたり、血液検査をされたり、反復横跳びのタイムを計られたりした。
それがまさか、仮面ライダーになるための試験の一環だったとは。
穂積の脳裏に、大きな複眼と身体にフィットしたスーツで颯爽とバイクに跨がる正義の味方のイメージが、漠然と浮かんだ。
だが、それと自分とが結びつかない。
しかし、副総監に直々に傍らまで来られ、熱い手でがっちりと両手を掴まれ、眼鏡の奥から潤んだ目で見つめられてもなお嫌そうな顔が出来るほど、穂積はドライな男ではなかった。
副総監
「大変名誉な事だ。警視庁としても、全力でバックアップさせてもらう。わたしも、あと三十年若かったらなあ!穂積くん、期待しているぞ!」
穂積
「任命された以上、全力でもって取り組む所存であります」
穂積の返事に副総監はうん、うんと頷き、一同を振り返った。
副総監
「穂積くんは知力、体力、精神力などの選考基準を満たし、また、技術力、統率力、判断力なども、全国の警察官を対象とした候補者の中で抜群の成績だった。このため、警察庁での選考会議では、満場一致で彼をライダーに推薦したのだそうだ」
副総監は、上気した顔で、一気にそこまで言った。
副総監
「だが、もし、この人事に意見や質問のある者がいたら、ぜひ、わたしのいるこの場で言って欲しい」
誰も何も言わない。
……いや。
一人、手が挙がった。
「穂積くんは、現在、緊急特命捜査室の室長ですが、そちらの業務については?と言いますのは、彼の部署は実験的に設置されたものであり、仕事も、非常に多岐に渡るものですから」
副総監
「もちろん、緊急特命捜査室の室長は穂積くんにそのまま継続してもらう」
副総監は、穂積の肩をぽんぽん、と叩いた。
副総監
「ただし、捜査室の業務に関しては、必然的に、穂積くんをサポートする為の業務も加わるだろう。そうでなければ、敵とは戦えない」
「…………敵?!」
副総監以外の、全員の声が重なった。
副総監
「そうだ」
拳を握る副総監。
副総監
「我々は今後、仮面ライダーを先鋒として、秘密結社ネオ・ジョンスミスと戦うのだ!」
会議室を一瞬静寂が包み、次の瞬間、どっと大爆笑が起きた。
半分は副総監の突拍子も無い発言を冗談だと思って笑い、残りはその冗談に巻き込まれた形の穂積を笑っているのだ。
何となく居たたまれない思いにさらされて、穂積の白い顔が朱に染まってゆく。
「秘密結社ですか」
「それにしても、対抗手段がライダーとは、また奇抜な」
副総監
「冗談ではないのだぞ。最近、全国的に、既存の警察体制では対応に戸惑うような不可思議な事件が多発している。それらを解決するのが『R-プロジェクト』の使命だ」
会議の参加者たちは、副総監の意外な言葉に顔を見合わせたり、ひそひそ話し合ったりしている。
副総監は上座の席に戻りながら、さらに言葉を続けた。
副総監
「たとえば、桜の名所で、数十本もの桜の木が一夜にして跡形も無く抜き去られていたり。あるいは、とある地域で、一斉に特定の商品が買い占められて品不足に陥ったり。それらが、秘密結社ネオ・ジョンスミスを名乗る者の仕業だというところまで、調べはついているのだ」
自分の言葉で会議室の雰囲気が緩むのを見て、副総監はそれを戒めた。
副総監
「軽微な事象だからといって、笑って見過ごすのは危険だ。我々は、土砂崩れの前には、小石が落ちるのを知っている。そして、残虐な殺人の前には、鳥や猫が殺されるのを見てきた」
一同の顔が、再び引き締まった。
副総監
「仮面ライダーには、迅速かつ臨機応変な対応が要求される。そのために、組織にとらわれない単独行動が許可される。動員や発砲も独断が許される。だからこそ、優れた人物が選ばれたのだ」
副総監の期待に満ちた視線の先にいる穂積に、また、視線が集まった。
副総監
「穂積くん、頼むぞ」
穂積
「はっ」
敬礼をする穂積。
一同から大きな拍手が贈られる。
副総監の話を聞くうちに、穂積もまた、仮面ライダープロジェクトを理解し、初代ライダーになるのも悪くない、と思い始めていた。
が、その時、副総監の傍らにいた部長の一人が、副総監の耳元に手を添えて、そっと囁くのが見えた。
副総監は一瞬、目を見開いて穂積を見たものの、すぐに気を取り直して、優しい笑顔を浮かべる。
副総監
「穂積くん、安心したまえ。きみには多少、変わった性癖があるようだが、それは、きみがライダーになる上では、なんの障害にもならない」
穂積
「……は?」
副総監
「オカマだろうが、おネエ言葉のライダーだろうが、結構。実に結構。頑張ってくれたまえ」
穂積
「は……」
会議室のあちこちから、堪えきれない忍び笑いが聞こえてくる。
咄嗟に反論も出来ずに呆然と立ち尽くす穂積を、副総監は慈愛に満ちた目で見つめた後、訳知り顔で頷いてから、敬礼をして会議室を出て行った。
副総監の退場をうけて、議長が腕時計を確かめる。
議長もまた、他の参加者と同様に、下を向いて必死で笑いを堪えていたのだった。
「では、今朝の会議はここまで。解散!」
参加者が一斉に立ち上がって敬礼し、それが済むと、どやどやと会議室を出て行く。
みんな、早く帰って、自分の部署で、今見聞きした話を伝えたいのだ。
警視庁に仮面ライダーが誕生した事を。
そして、そのライダーが、警察庁きっての美形でオカマでおネエ言葉の『あの穂積泪』だという事を。
「穂積、頑張れよ」
「変身したら写真撮らせてくれよな」
「応援してるぞ」
「性癖」
次々に肩を叩かれ、冷やかされ、励まされ、笑われて、穂積はやがて無人になった会議室の床に、がくりと膝と両手をついた。
穂積
「…………」
警察庁に幹部候補生であるキャリアとして入って以来、穂積の警察官人生は前途洋々としていた。
小野瀬の陰謀でオカマ演技を続けてはいたが、それがまさか副総監にまで伝わり、こんな形でのしかかってこようとは。
絨毯の敷かれた床を見つめながら、愕然としたまま穂積は呟いた。
穂積
「……ありえねえ」
捜査室の部下たちに、翼に、何と報告すればいいのか。
穂積
「……言えねえ」
明日から謎の秘密結社と戦うだなんて。
オカマでおネエのまま、ライダースーツに身を包んでバイクに乗るなんて。
穂積
「やりたくねえ……」
誰もいなくなった会議室で、穂積は叫んだ。
穂積
「俺は、仮面ライダーになんかなりたくねえー!!」
仮面ライダー☆HOZUMI。
これは、公務という名の試練に立ち向かう一人の男と、彼とともに巨大な敵に挑む、仲間たちの物語である。
しかし、我らの仮面ライダー、穂積泪は、まだ、真の意味で覚醒してはいない。
目覚めろ、穂積泪!
戦え、仮面ライダー☆HOZUMI!
続く!!