☆☆警視庁戦隊!サクラダモン・NEO!!~第二章~☆☆
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~警視庁~
明智
「前回は敵の本拠地に乗り込んでいながら、不覚をとってしまったわね……」
『ホストクラブ・J』での戦闘から数日が経過した、週末の勤務終了後。
特命捜査室では、室長である明智の呼び掛けにより、緊急ミーティングが行われていた。
自家製アップルパイとダージリンティーの配られたミーティングテーブルを囲んで座っているのは、捜査室メンバーの明智、藤守、小笠原、如月、そして、翼。
藤守の兄で検察官でもある、リンググリーンこと藤守慶史も、いつものように不愉快そうな表情を浮かべながら、明智と藤守の間の席に加わっている。
藤守
「すんません」
唐突に立ち上がって謝ったのは、弟の藤守賢史。
藤守
「兄貴がフライングしたばっかりに、チームワークが乱れてしもて」
藤守兄
「俺のせいだと言うのか、愚弟!」
弟を下から見上げるのが気に入らないのか、アニもまた即座に立ち上がって、背筋を伸ばした。
藤守兄
「そもそも、検察官は普段から独任制なのだ!あの指環に引っ張られていつの間にかチームになったが、俺の意思でサクラダモンになったのではないのだぞ!それを、たった一度の勇み足で兄を責めるのか、貴様は!」
藤守
「サクラダモンになった経緯は全員同じやろうが!力を合わせな、『山田太郎窃盗団』に太刀打ち出来んのは分かってるやろ?小笠原でさえ、理解して協力してるやないか!何で兄貴はそれが出来ひんのや!」
小笠原
「小笠原でさえ、って何さ」
小笠原が小声でぼそりと呟いて、唇を尖らせた。
明智
「藤守、やめなさい。藤守検察官も、落ち着いて下さい」
明智に間に入られ、諫められて、兄弟は互いに睨み合ったままに黙り込む。
二人の顔を順番に見つめ、溜め息をついた後、明智は静かな声で話し出した。
明智
「重要なのは、我々が指環の力を得た時、より大きな力を発揮出来たように、彼らもまた、何らかの不思議な力を持っているらしい、という事」
全員
「……!……」
メンバーたちの脳裏に、あの時、仮面の男ルイデスが翼の身体を宙に浮かせ、しかも、助けに向かった彼らを、離れた場所から腕のひと振りで壁まで吹き飛ばした光景が蘇った。
それは壁に叩きつけられた痛みとともに、歯軋りをしたくなるほど口惜しい記憶として、全員に刻み込まれている。
明智
「アオイデスの能力についてはまだ何も分からないけれど、首領のスミスデスには、記憶というか、人間の心理を操るような力があるような気がするわ……」
蘇った記憶の中味を整理するような明智の呟きに、如月が頷いた。
如月
「確かに。俺たち、アオイデスの正体である小野瀬葵と、一度は会って戦ったはずなのに、ホストクラブで小野瀬を見ても、その事を思い出せなかったです」
明智
「頭の中がモヤモヤして、霧の中にいるようだったわ」
小笠原
「催眠術や暗示のような、マインドコントロールを使うのかも」
藤守
「初対面だから挨拶だけ、言われててあのザマや。どうやら力ずくで指環を奪う気は無さそうやけど、次はどうなるか分からんで」
藤守が座り直し、議論が熱を帯びてくる中、アニが、ふん、と鼻を鳴らした。
藤守兄
「奴らの美学なんか知った事ではないが、おい、見習い」
アニもまた座り直しながら、ずっと黙ったまま、青い顔で話を聞いている翼に水を向けた。
藤守兄
「あの指環、祖母の形見なんだから、捨てるわけにも、奴らにくれてやるわけにもいかないだろう。だがそれなら、元のように金庫に預けてしまったらどうだ」
翼の肩が震えた。
藤守兄
「実際、その方法で何十年も守られてきたんだしな。前例を見ても、奴らは非暴力的な方法で九個の指環を手に入れて来ている。おそらく、金庫破りまではしないだろう」
アニの言い方は素っ気ないが、言っている事には筋が通っている。
金庫から指環が盗まれる可能性はともかく、指環を翼の身体から離すことで、翼が直接戦いに巻き込まれる可能性は、ぐっと減るはずだからだ。
全員の視線が、翼に集中した。
翼
「……」
翼が立ち上がる。
翼
「……私のせいで、皆さんにご迷惑をお掛けしている事は、本当に、申し訳ないと思っています……」
青ざめた顔で、深々と頭を下げる姿は痛々しいほど。
もとより、彼女が悪いのではないという事は、全員が分かっている。
翼
「……ですが、もしも、指環を封印したせいで、山田の興味が、指環から他の物に移ってしまったら?せっかく判明した銀座のホストクラブから、拠点を他に変えてしまったら?……その結果、山田太郎窃盗団を見失う事になってしまったら……?」
藤守兄
「それは……」
有り得ない、とは断言できない。
翼
「……もし、そうなったら、私、力を貸して下さった藤守検察官の宿願も果たせないまま、本当に、ただご迷惑をお掛けしただけになってしまいます」
藤守兄
「……だが!このままでは、いつまたお前の身に危険が迫るかわからんのだぞ!」
再び立ち上がって怒鳴ったアニの肩に、明智が、背後からぽんと手を乗せる。
明智
「それが、藤守検察官の本音、ですよね」
振り返る先で穏やかな微笑みを浮かべる明智の眼差しに、アニの顔が赤くなった。
藤守兄
「お、俺は、別にこんな奴がどうなろうと」
藤守
「ツンデレか」
藤守兄
「やかましい!」
二人の掛け合いに笑いながら、明智が、パンパン、と手を叩いた。
明智
「さあ、作戦を立て直しましょう。藤守兄弟には、山田太郎窃盗団の監視と行動調査をお願いするわ」
藤守
「はい」
藤守兄
「……よかろう」
二人が頷く。
明智
「如月と小笠原は、彼らの力の原動力となっていそうな、特殊能力を与える、または増幅させるといわれる骨董品の調査と所在確認」
如月
「はい!」
小笠原
「現実に目の当たりにしてなければ、そんな物があるなんて信じられないところだけどね」
二人が敬礼する。
明智
「翼はわたしと、『ファウストの指環』の伝説について、もう一度詳しく調べてみましょう」
翼
「はい」
翼は、滲みかけた涙を拭って返事をした。
全員が、それぞれの持ち場に向かって動き出す。
翼はその姿に深く頭を下げてから、カップを集めて給湯室に行き、洗い物を始めた。
翼
「……」
俯いてカップを洗っていると、涙が零れて落ちた。
翼
「……ごめんなさい……」
嘘を、ついてしまった。
指環を貸金庫に預けるというアニの提案を拒んだのは、山田太郎窃盗団を捕らえたいからではない。
かつて同じ提案で翼を守ろうとしてくれた、穂積との絆が切れてしまう事が怖いからだ。
翼にとって、穂積と自分を繋ぐ縁は『ファウストの指環』しかない。
みんなが自分の身を案じて戦ってくれているのに、自分は、ただ恋心のためだけに、指環を手元に置き続けている。
罪深い事だと分かっていながら、それでも、忘れられない。
翼
「穂積さん……会いたい……」
他に誰もいない給湯室で、翼はしばらく、涙を流し続けた。