ポケット穂積
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事件から4日経っても、泪さんは帰って来なかった。
そんな時に限って事件も起きない。
デスクワークばかりしていると、ついつい泪さんの事を考えてしまう。
小さい身体で私たちの机の上を行ったり来たりし、如月さんの書類にダメ出ししたり、居眠りする藤守さんをボールペンでぺちぺち叩いたりしていた頃の姿が目に浮かぶ。
きっと皆同じ気持ちなんだろう。
緊急特命捜査室は重い空気に包まれて、私たちは毎日、代わる代わるに溜め息をつきながら過ごしていた。
穂積
「元気出しなさいよね、まったく」
室長はそんな私たち部下に呆れている様子だけど、それでも、無気力を叱るでもない。
室長が見逃してくれるのをいいことに、私は座る人の居ないマグカップの椅子を眺めては、また溜め息をつくのだった。
電話が鳴った。
如月
「ハイ、緊急特命捜査室、如月です!」
如月さんが瞬時に飛び付く。
不謹慎だけど、事件ならいいな。
そう思ったのは、どうやら私だけではないようだ。
みんなが身体を起こして、如月さんの電話に聞き耳を立てている。
如月
「室長、面会したいという方が受付でお待ちだそうです」
穂積
「はい、すぐ行くわ」
期待していただけに、失望も大きい。
室長が出て行ってしまうと、私たちはいっそう仕事が手につかず、また代わる代わるに溜め息をつきながら、ぼんやりとした時間を過ごしてしまうのだった。
ところが、数分後。
再び電話が鳴った。
翼
「はい、緊急特命捜査室、櫻井です」
穂積の声
『櫻井、そこで腐っている全員を小会議室に集めてちょうだい。もちろん、アンタもよ』
それだけで通話は切れた。
如月
「電話、何だって?」
翼
「あの、室長から、全員、小会議室に来るようにって」
小笠原
「……本格的にお説教かな」
机に伏していた小笠原さんが、頭だけ起き上がった。
明智
「最近、だらけ過ぎていたからな」
藤守
「行きたなーいー」
そうは言いながらも室長命令には逆らえず、全員、だらだらと動き出す。
自分たちの事ながら、この、やる気の無さ。室長が『元気出しなさい』と呆れるのも、分かる気がした。
如月
「藤守さん、先に行って下さいよ」
藤守
「何で俺やねん。お前後輩やろ」
如月
「じゃあ、間をとって小笠原さん」
小笠原
「やだよ。こういう時こそ櫻井さんでしょ」
翼
「えっ?!」
室長のお説教が待っているかと思うと私たちの足取りは徐々に減速し、扉の前に着く頃には、見苦しい先頭の譲り合いに発展していた。
翼
「……行きますよ」
結局、代表して私がノックを試みる事になった。
コンコン、という音がやけに響く。
翼
「櫻井です」
穂積の声
『どうぞ』
失礼します、と入って頭を上げた途端、私は目を疑った。
小会議室のテーブルの上にいたのは……泪さん!
翼
「泪さん!!」
泪
「翼ー!」
両手を広げて駆け寄った私の胸に、テーブルの上から、助走をつけた泪さんが飛び付いて来た。
翼
「泪さん、泪さん泪さんっ」
ぎゅうぎゅう抱き締めていると、小さい手で頬をぺちぺち叩かれた。
泪
「翼、……翼!苦しい!」
翼
「あっ、ごめんなさい」
慌てて力を緩めると、泪さんは私の腕を抜け出して、隣にいた如月さんに飛び移った。
泪
「如月!」
如月
「穂積くーん!良かったー!」
藤守
「よお帰って来たなあ!俺は、俺は嬉しいで!」
小笠原
「消えたりしないと思ってたよ」
明智
「怪我は大丈夫ですか?」
人数分のぎゅうぎゅうとぺちぺちを繰り返した後、明智さんの一言で、私たちは一気に黙り込んだ。
そうだ、泪さんは怪我をしているはずなんだ。
泪
「大した事ねえよ」
泪さんは、どうやらお人形の服らしいぶかぶかの上着の裾をめくって、お腹を見せてくれた。
泪さんのお腹には、普通サイズの絆創膏が、斜めにぺたりと貼ってある。
泪
「そこにいる、めぐのお祖母さんが手当てしてくれたんだ」
私たちはその時ようやく、小会議室のホワイトボードの前に立って、ニコニコしているお祖母さんの存在に気付いた。
めぐの祖母
「仕立ての良い服をお召しでしたからね。切り傷だけで済んで、ようございました」
泪
「でも、明智に作ってもらった三つ揃い、ダメになっちまった。ごめんな」
明智
「何着でも作ります。それより」
明智さんは、藤守さんと如月さんに両方から撫で回されている泪さんと、手土産のお菓子を広げるめぐちゃんのお祖母さんとを見比べながら、困った顔をした。
明智
「……最初から説明して頂けませんか?」