ポケット穂積
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
穂積
「ただいまー」
翼
「お帰りなさい!」
胸ポケットに小さい泪さんを入れたまま迎えに出た私に、室長は少し驚いた様子で、それでも、にっこり笑った。
穂積
「見つかったか」
室長は言いながら靴を脱ぎ、ネクタイを緩めながら、いつものように優しいキスをくれる。
翼
「どうして教えてくれなかったんですか?すごく可愛いのに!」
鞄や上着を受け取りながら唇を尖らせる私に、室長は、少しだけ困ったような顔をした。
穂積
「いつ消えるか分からないから」
その言葉は、上機嫌だった私の全身に、氷水を浴びせるような響きを持っていた。
翼
「……!……」
室長は私の背中を撫でてから、ソファーへと座るように促してくれる。
私は気持ちの整理がつかないまま、それに従った。
穂積
「こいつの存在を知ったら、きっとお前は気に入ると思った。人形みたいで面白いからな」
その通りだ。
それに小さくて可愛くて、何より、大好きな泪さんそのままなんだもの。
気に入るに決まってる。
穂積
「……実は、今日、小野瀬に相談してみた。小笠原にもだ」
私はぼんやりとしながら、胸ポケットの泪さんを掌に乗せた。
泪さんは無言で背伸びをして、小さな手で私の頬を撫でてくれる。
それだけで、私は泣きそうになってしまった。
翼
「……私たちも、さっき、二人に相談する事を考えていました。……それで、小野瀬さんたちは何て?」
穂積
「小野瀬は、現在の俺の体調を分析してみてくれるそうだ。小笠原は、過去の文献やネットをあたって、似たような事例を探してくれると言っている」
翼
「でも、もう1週間もこうして生きてるんです。明日、突然いなくなるなんて事、無いですよね?」
縋るように訊いてみても、室長にも確かな返事は出来るはずがなくて。
穂積
「……それが分からないから、内緒にしていたんだ」
私は、小さな泪さんを見つめた。
泪さんは私の掌の上で胡座を組んでいて、目が合うと、小さく頭を下げた。
泪
「……ごめんな」
翼
「……」
瞬きすると涙が落ちて、泪さんの被っている青いハンカチに染みがついて広がる。
小さな泪さんをそっと抱き締めながら、私は決意していた。
翼
「……分かりました。だったら、私、うんと可愛がってあげます」
大きな室長と小さな泪さんが、揃って私を見た。
翼
「いつまでも一緒にいたいけど、いつ居なくなっても、悔いが残らないように。私、この時間を大切にしますから!」
穂積
「翼……」
室長が微笑んで、私を抱き寄せてくれた。
穂積
「ありがとう。愛してる」
髪をくしゃっと撫でられながら、額へのキスを受け入れていると、下からつんつんと髪を引っ張られた。
見下ろすと、小さい泪さんが、私の髪を数本掴んで、赤い顔で私を見上げている。
泪
「俺も愛してるぞ!」
可愛い仕草に、思わず笑いが溢れてしまった。
翼
「私も愛してる」
ちゅ、ちゅ、と二人の唇にキスをして、私は夕食の準備に取り掛かった。
もちろん、泪さんを胸ポケットに戻して。
翼
「明日はドールショップに行って、小さい泪さんに合うお人形の服や靴を探してみるね」
私の提案に、泪さんは頷いた。
泪
「助かるよ。人形の服は俺も考えたが、さすがに、三十路の男がああいう店に一人では入りにくくてな」
私は笑って、拳をぎゅぎゅっと握った。
翼
「任せて」
お裁縫はそんなに得意じゃないけど。
いつもの紺の三つ揃いを作ってあげる。
可愛い浴衣や甚平さんも作ってあげる。
それから手芸店で材料を買って、泪さんの服の他に、ベッドやソファーも作ってあげる。
だから、お願い。
一日でも長く、一緒に過ごせますように。
夕食の後は、みんなでお風呂。
室長が、自分の身体を洗うついでに、こちょこちょくすぐるようにして、小さな泪さんを洗ってあげている。
泪さんは笑いながら、タイル張りの床の上を転げ回っている。
先に洗髪も済ませた私は、バスタブの中で笑いながら二人を見ていた。
身体を洗い終わったので、洗面器にお湯を張ってあげると、泪さんは気持ちよさそうにその中で脚を伸ばした。
泪
「あー、最高」
翼
「今まで、お風呂はどうしてたんですか?」
穂積
「俺が、シャワーでガシガシ洗ってやってた」
泪
「頭からシャワー当てられると、豪雨の中みたいで息も出来ないんだぞ。死ぬかと思った」
翼
「あはは。今日はバスタブにお湯を張ったから、どうぞ」
穂積
「……どうぞ?」
泪
「おう!」
私が伸ばした手に、泪さんが飛び付いてきた。
私は湯船の中の手で、その泪さんを抱くようにして、胸の間に入れる。
泪さんがぷかぷかしながら、嬉しそうにくっついてきた。
泪
「お前、ふっわふわ」
穂積
「待てー!」
泡だらけで振り返った室長が、私の胸の谷間にいる泪さんを見て叫んだ。
慌ててシャワーを使い、室長が湯船に飛び込んで来る。
翼
「きゃあっ」
泪
「溺れる!」
穂積
「その胸は俺のだ!」
泪
「だから俺のだ。べー」
舌を出す泪さん、歯軋りして悔しがる室長。
室長が、泣きそうな顔で私を見た。
穂積
「翼……」
翼
「いいですよ。はい」
右胸にぷかぷかくっつく泪さんをそのままに、私は両手を広げた。
今度は泪さんを沈めないように、室長がゆっくりと私の胸に顔を埋める。
二人とも、赤ちゃんみたい。
同じ人だから、当たり前なんだけど。
私はくすくす笑いながら、二人を抱き締めた。
本当に、いつまでもこの時間が続くといいのに。