pure love&so sweet
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さや
「新しくて、綺麗なマンションですね」
私が言うと、秋先輩が笑った。
秋
「昔からここにあるのよ。最近改装されて、外観だけ綺麗になったの」
霜
「カバン置いてサイフ持つから。龍鬼、ちょっと寄ってけよ」
さや
「えっ」
秋
「今日はお母さんもいるはずだし、ちょっとなら寄り道にならないから。ねっ」
秋先輩にもそう誘われ、私は引っ張られるようにして、穂積家に案内された。
ロビーのセキュリティを通り、エレベーターに乗って降りると、待っていたのか、すぐそこの部屋の扉が開いた。
笑顔で現れたのは、赤みがかった長髪の男の人だった。
私のお父さんと同じぐらいの年齢だと思うけど……。
ごめんなさい、お父さん。この人、比べ物にならないぐらい格好いい。
霜・秋
「ただいま!」
小野瀬
「やあ、ふたりともお帰り」
扉を開けてくれたその人が、私たちを中に招き入れてくれた。
さや
「あの……初めまして。龍鬼です。お邪魔します」
私が入口で頭を下げると、その人は満面の笑みを浮かべ、どうぞどうぞと背中を押してくれた。
小野瀬
「翼さーん!ついに、霜が、可愛いお嬢さんを連れて来たよ!」
扉を閉めると同時に、男の人が、奥に向かって楽しそうに言った。
「えっ?!」という女の人の声と、「余計な事を言うなよ!」と怒鳴る霜先輩の声が、ほとんど同時に返って来る。
秋
「もう、おじ様ったら。ごめんね、さやちゃん。どうぞ、上がって」
私はまだ状況が分からない。
この人、先輩たちのお父さんじゃないのかな?
広い玄関に靴を脱いで上がらせてもらうと、室内は外観から想像した以上にとても広い。
天井も高いし、それに、どこもとても綺麗にしてある。
さっきの男の人が、ニコニコしながら私をソファーに座らせてくれた。
そして自分も、ちゃっかり私の隣に腰掛ける。
小野瀬
「若い頃の翼さんに、雰囲気がよく似てる。なるほどねえ」
……だから、あなたは誰ですか?
霜
「おじさん!余計な事を言うなって言ってるだろ!」
おじさん。さっき、秋先輩もそう呼んでた。
ぷりぷりしながら戻ってきた霜先輩に、私は小声で訊いてみた。
さや
「……先輩のお父さんじゃないんですか?」
霜
「違うよ。俺の父親は、こっち」
霜先輩が手招きしてくれたのは、お仏壇。
私を正面に座らせて、先輩は後ろから立ったままで身を屈めて、お鈴を鳴らす。
霜
「父さん、ただいま」
手を合わせる先輩に続いて私も急いで手を合わせ、それから、改めて写真を見た。
さや
「!」
そこには、金髪碧眼で霜先輩にそっくりで、見たこともないほど綺麗な、若い男の人の写真が飾られていた。
……先輩たちの、お父さん。
霜
「父さんは警察官でさ。俺たちが生まれる前に、殉職した」
さや
「じゅんしょく」
小野瀬
「仕事中に亡くなった、って事。……立派だったよ。穂積はトルキアという国の王女を守り、翼さんを守り、お腹の中にいた霜と秋を守ったんだ」
霜
「小野瀬のおじさんは、父さんと母さんの親友。父さんが亡くなってから、うちの家族を助けてくれてる」
翼
「あれから、もう、15年も経つんですね」
女の人の声に私は振り返り、立ち上がった。
先輩たちのお母さんが、お盆を持って、奥のキッチンから出てきたところだった。
さや
「こんにちは。お邪魔してます。龍鬼です」
深々とお辞儀をすると、先輩のお母さんはにっこり笑ってくれた。
ああ、優しい笑顔が秋先輩に似てる。
翼
「いらっしゃい。お茶、いかが?」
霜先輩に促されてリビングのテーブルに移動すると、お母さんが紅茶を淹れてくれた。
手作りのスコーンが添えられているのを見て、私は、どうしようかと霜先輩の顔を見た。
霜先輩が首を傾げる。
霜
「どうした?母さんのスコーン、美味いぜ。あ、寄り道なのが気になる?お前ん家に電話してもらおうか?」
私は、ふるふると首を横に振った。
さや
「あの……霜先輩が、おごってくれるって言ったから。……今、これ食べない方がいいかなって思って」
霜
「は」
小野瀬
「うーわー、可愛い!」
小野瀬さんが、私に抱きついてめちゃめちゃに撫でてくれる。
霜
「触るなー!」
霜先輩が、小野瀬さんの長い後ろ髪を引っ張って私から引き剥がした。
小野瀬
「痛たたた!」
霜
「龍鬼。帰りに、コンビニでアイス買ってやるよ。それなら、今これ食べても大丈夫だろ?」
アイスなら、家に帰ってから食べればいい。
そう言われて、私は元気よく頷いた。
さや
「はい」
私は、先輩のお母さんに向かって、いただきます、と手を合わせた。
さや
「美味しい!」
先輩のお母さんはニコニコしている。
翼
「お口に合えば嬉しいわ」
秋
「フルーツソースやジャムをつけても美味しいのよ、はい」
さや
「食べ過ぎちゃう……」
小野瀬
「女の子は、少しポッチャリしてるくらいが可愛いよ」
霜
「俺もそう思う」
初めて来たお宅で、初めてお話する人ばかり。
それなのに、信じられないぐらい居心地がよくて。
私はついつい長居してしまった。
それから、霜先輩と秋先輩に、揃って徒歩で送ってもらって。
途中で、霜先輩に、約束通り大好きなカップアイスを買ってもらって。
秋先輩に「家も近いし、また遊びに来てね」なんて言われて。
しかも、帰宅した私たちを、先輩のお母さんから連絡を受けていた私の両親が出迎えてくれ、そこで、さっきの疑問が解けた。
霜
「お久し振りです。遅くなってしまってすみませんでした」
お久し振り?
さやの父親
「何だ、さや、覚えてないのか?ここに越して来てすぐ、迷子になったお前を、家まで送り届けてくれた男の子じゃないか」
さやの母親
「まだ4歳の頃ですもの。……でも、私たちは覚えてますよ。こんな綺麗な子を忘れるわけがないわ」
うう、全然記憶に無い。
霜先輩なんて、私の家の場所まで覚えてたのに。
それから、私の恥ずかしい昔話を思い出しては、次々と先輩たちに暴露し始めた両親の背中を家の中に押し込むようにして、私は先輩たちに挨拶した。
さや
「今日は本当に、ありがとうございました!」
秋
「私たちも楽しかった」
霜
「じゃあな。おやすみ」
笑顔でそう言い、帰っていく2人の先輩を見送る。振り返ってくれるたび、私は一生懸命手を振った。
とてもとても楽しい時間だった。
……だからまさか、次の日から私の周りの状況が一変するなんて、夢にも思わなかった。