pure love&so sweet

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 彼と私は幼馴染みだった。


 それは、小学校から同じ学校だった、というだけの事なのだけれど。

 彼は……穂積霜くんは、私より2学年上。

 幼い私の目から見ても、とても綺麗な男の子だった。

 何より特徴的なのは、明るい場所ではほとんど金髪に見えるほど、淡い色の髪。

 それに、(間近で見たことは無かったけれど)目の色は碧だし、肌の色も真っ白。

 名前の読み方も「そう」だし。

 私はずっと、外国人の子だとばかり思っていた。

 容姿だけでも目立つ上に、勉強も運動も良く出来て、ニコニコしていて明るい霜くんは、小学校でも一番の人気者。

 運動会でも遠足でも、購買でも図書室でも、何でもない廊下でも。彼のいる場所は、いつもキラキラしていた。

 そして、卒業式でも代表で答辞を読み、涙で別れを惜しむ友達や後輩に囲まれながら、桜の下を去って行った、霜くん。

 私は、泣いている周りの同級生たちに混じって、手を振る彼の笑顔と背の高い後ろ姿を、遠くから見送った。

 時々すれ違うだけだったけれど、いつでも、太陽のように輝いていた男の子。

 だから、彼が居なくなった学校は、日暮れのように寂しくなった。

 その寂しさが、初めての恋の始まりだったと気付いたのは、それからずっと後の事だった。



 霜くんと再会したのは、私の、中学校の入学式の日。

 在校生代表として、生徒会長が歓迎の挨拶のために壇上に上がる。

 それが、霜くんだった。

同級生
(うわあ)

(誰あれ)

(カッコイーイ)

 式の最中なのに、他の小学校から来た子たちが囁きあっている。

 私は、彼を知っている、という妙な優越感と、大切な宝物を見つけられてしまった時のような気持ちの両方を抱きながら、霜くんを見上げていた。

 壇上で光を浴びる彼は、少し大人びて、そして、一段と綺麗になっていた。

 声変わりを終え、落ち着いたよく通る声を聴きながら、私は、久し振りに会った霜くんが、何だか前よりもずっと遠い人になってしまったような気がしていた。

 小学校で、私が彼に「霜くん」と呼び掛けたことは、とうとう一度も無かったけど。

 今日からは「先輩」と呼ばなくてはいけないんだな。



 新緑の季節。

 進入学の行事も一通り終わり、新しい生活にも慣れてきた頃。

 放課後、日直の私は職員室に日誌を提出し終え、部活見学でもして帰ろうかな、などと思いながら、廊下を歩いていた。

 その時、ふと、眼下の中庭に霜先輩が見えたような気がして、私は足を止めた。

 2階の廊下の窓からそっと覗いてみると、数人の男子生徒に囲まれるように立っていたのは、やっぱり金色の髪。

 でも、それは、霜先輩ではなかった。

 秋先輩。

 霜先輩の、双子の妹さん。

 霜先輩を王子様のようだと表現するなら、秋先輩は、お姫様のように可愛らしい女の子だった。

 みんなと同じ、学校指定のジャージなのに、すらりと脚が長くて、モデルのようなプロポーションは際立っている。

 そして霜先輩と同じ、金髪碧眼。

 控え目だけど、穏やかで優しくて、同性からも慕われるタイプの先輩だった。

 その秋先輩が、周りを固められ、困ったような顔で立ち尽くしている。

男子生徒
「……だからぁ、……友達からでいいんでぇ……」

 盗み聞きするつもりはなかったけれど、風に乗って聞こえてきたのは、どうやら告白。

男子生徒
「……中からぁ、1人だけ選んでくれないかなぁ……」

 秋先輩を囲んだ男子生徒は、3人。

 そこから、1人を選んで交際してくれ、と言っているらしい。

 秋先輩は頭を下げたり、小声で何か答えたりしているが、すごく困っている様子だ。

 私は咄嗟に近くの教室に入ると、清掃用具のロッカーからバケツを取り出し、半分ほど水を入れて、さっきの窓に引き返した。

 私は、霜先輩とは会話したことが無いけれど、秋先輩には、小学校の頃、休み時間に何度も遊んでもらった経験がある。

 鬼ごっこや砂遊びみたいな幼稚な遊びにも、笑顔で根気よく付き合ってくれた。

 だから、男子生徒たちが秋先輩をあまりにも困らせるようなら、上から水を撒いて驚かせるつもりだった。

 その隙に、秋先輩が逃げてくれたらそれでいい。

 出来ればやりたくないけれど、男子生徒たちはだんだんと語気が荒くなってくる。

 秋先輩はずっと、手にしたラケットを縋りつくように抱え、首を横に振っているというのに。

 だんだん腹が立ってきて、私がバケツを抱えて身構えた時。

「待って」

 背後からいきなり耳元に囁かれて、私はバケツを落としそうになった。

 傾いたバケツを、大きな手が支える。


「俺が、言うから」

 下がってろ、というように私の肩に手が乗り、離れた。

 霜先輩だ、と気付いたのは、、先輩が私と入れ代わりに、バケツを手にして、窓から半身を乗り出した時だった。


「こら、秋!しゅーうー!」

 霜先輩が、声を張り上げる。


「お兄ちゃん!」

 霜先輩に気付いた秋先輩が、ほっとした顔でこちらを見上げて、悲鳴のような声を出した。


「部活サボってんじゃねーぞ!」

 男子生徒たちが、明らかに、まずい、という表情になる。

 それを確かめて、霜先輩は、視線を秋先輩から彼らに向けた。


「あ、ごめん。話の邪魔した?」

 3人の男子生徒が、慌てて首を振る。


「秋、部活終わったら一緒に帰ろうぜ。生徒会室に来いよ」


「うん、分かった!」

 じゃあ、部活に戻らないと、と言って、秋先輩は男子生徒たちに頭を下げ、テニスコートの方に走り去って行った。

 男子生徒たちも、渋々解散してゆく。

「たら……しょうがねえだろ……」

「……強えし……」

「また……にするか……」

 再び風に乗って聴こえて来る声に耳を澄ませていると、私の目の前で、金髪の頭が深々と下げられた。


「秋を助けてくれるつもりだったんだろ?どうもありがとう」

 私はぴょんと跳ねて、霜先輩に向き直った。

さや
「いえ、あの、結局、何もお役に立ちませんでしたから!」

 私はぶんぶんと首を振る。


「そんな事ない。ありがとう。……俺、穂積霜」

 知ってます。超有名です。

さや
龍鬼さやです」

 私が名乗ると、霜先輩は微笑んだ。


「知ってる。同じ小学校だったもんな」

さや
「えっ?!」

 私はビックリした。

 私と霜先輩は一度も話をした事がないし、先輩のような人が、私みたいに目立たない女の子を覚えてるなんて、考えた事も無かった。

 私がうろたえているうちに、霜先輩はさっさとバケツを持ち上げて、歩き出していた。


「この水、下の花壇に撒いてくる。バケツも俺が片付けておくから、もう行っていいぜ」

さや
「あっ、私がやります!」

 私も慌てて後を追う。


龍鬼、部活は?」

 階段を降りながら、霜先輩が私を振り返る。

 名前を呼ばれた事にドキドキしながら、私は懸命に先輩に付いていく。

さや
「まだ見学中で、決めてません」


「そっか」

 霜先輩は歩くのが速い。

 あっという間に職員玄関に着いた先輩は、そこから、2mほど先の、サツキが植えてある花壇に向かって、勢いよくバケツの水をひっくり返した。

 水の塊が空を舞って、見事に全部が花壇に落ちる。

 てっきり、外履きに履き替えて丁寧に水をかけるものと思っていた私は、先輩の器用な水撒きを見て、可笑しくなって噴き出してしまった。


「はい、おしまい」

 霜先輩が、空になったバケツを私に手渡す。


「じゃ、帰りは龍鬼が持ってくれよな」

さや
「はい」

 くすくす笑いながらバケツを手にした私は、霜先輩が、私をじっと見つめている事に気付いた。

さや
「何ですか?」


「さっきのお前」

 霜先輩の笑顔に、どきん、と胸が高鳴る。


「足が震えてるくせに、怒ったような、困ったような、泣きそうな顔で、一生懸命バケツを構えてて。超面白かった」

 霜先輩が、くくっ、と笑った。

 思い出して赤面する私の頭を、温かい掌が、くしゃっと撫でた。


「でも、すげえ可愛かった」

 驚いて顔を上げると、霜先輩は私を見つめて、碧色の目を優しく細めた。

 私はきっと、この瞬間、霜先輩への恋を自覚したのだと思う。


「お前の家、旗の台だろ。帰り、一緒に帰らねえ?」

 どうして先輩が私の住所を知ってるんだろう?

 私は一瞬疑問に思ったけれど、それよりも、先輩に誘われた事の方に驚いていた。

さや
「え、いいんですか?」


「秋にさっきの話するから。お礼、ってほどじゃないけど、何かおごるからさ」

 お礼だなんて。

 でも、思わぬ展開が嬉しくて、私はすぐに頷いていた。

さや
「じゃあ、お言葉に甘えます」


「おう」

 私は霜先輩に誘われるまま生徒会室に入り、それから秋先輩が来るまでの10分余り、霜先輩と色々な話をして過ごした。

 部活を終えた秋先輩が来ると、霜先輩は約束通りさっきの話をし、私は、秋先輩からも頭を下げられる羽目になってしまったのだった。

 しかも、なんと秋先輩も、私の事を覚えていてくれた。


さやちゃんとは、鬼ごっこしたり、砂遊びした事があったわよね」

さや
「はい!秋先輩には、いつも優しくしてもらいました」


「楽しかったから、よく覚えてる。妹みたいで、とっても可愛いなって思ったの」

 そんな会話をしていると、下校時刻を知らせる放送が聴こえて来た。


「じゃ、行くか」

 うちの中学校は、登下校中の買い食いは禁止。

 生徒会長の霜先輩が、校則を破るはずがない。

 でも、さっき、霜先輩は、「おごるからさ」と確かに言った。

 どうするのかな、と頭の片隅で思いながらも、私はこの日、学校のアイドル2人の間に挟まれて下校した。

 心なしか、周りの生徒たちの視線が痛い。

 それでも、霜先輩と2人きりで歩いてるわけではないからか、何か言ったり、しつこく追ってくる生徒もいない。

さや
「そう言えば、霜先輩って部活入ってないんですか?生徒会だから?」

 私は、背の高い霜先輩を見上げた。


「1年から生徒会だからな。それもあるけど、俺、週に4日、空手道場に通ってるんだ。それを学校に申し出て活動を報告すると、部活免除になるんだよ」

さや
「空手ですか」

 そう言われても、私の脳裏には、漠然としたイメージしか浮かばないけど。

さや
「先輩、強いんでしょうね」


「強くねえよ。強くなりたくてやってるんだから」

 霜先輩は屈託なく笑った。

 そうこうするうち、私たちはとあるマンションの前に着いた。


 
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