Pure Love
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~秋vision~
涙が止まらない。
何度も何度も顔を洗って、きっともうお化粧なんて残ってない。
冷水に浸けっぱなしの両手はかじかんで赤くなっている。
けれど鏡に映る自分の顔を見ると、また、涙が込み上げてしまう。
どうしよう。
おじ様を悲しませてしまった。
ずっと、私たちの父親代わりでいてくれたのに。
いつも優しくて、何があっても味方でいてくれたのに。
……大好きなのに。
嗚咽が込み上げてきて、私はまた、涙を拭った。
男の声
「あーあ、可哀想にィ」
急に近くで男の人の声がして、私は驚いてそちらを振り向いた。
化粧室の出入口を塞ぐように、三人の男性。さっきまで、少し離れた席にいた人たちだ。
不意に現れた男の人たちに、私は思わず奥へと後ずさった。
なに、この人たち?
……ここ、女性用なのに。
怖い。
男
「うーわ。近くで見たら超カワイイ。ヤバくね?」
男
「ねえ泣いてないでさ、俺らと楽しいコトしない?」
男の人たちは、全然出て行く様子が無い。
男
「マジMAXレベルじゃん。あんなオッサンには勿体ないよ」
男
「あいつ『おじ様』とか呼ばせちゃってさ。もしかして、援交?」
男
「何枚でヤらせてくれんの?キミなら5万でもいいな」
男の声
「おい、早くしろよ」
外から、別の男の人の低い声がした。
見張りを立たせているんだ!
足が震え出す。
その声が合図になったように、踏み込んで来た一人に腕を掴まれた。
全身に、鳥肌が立った。
秋
「嫌!やめて下さい!」
男
「声も可愛いねー」
男
「おい押さえろよ」
男
「口を塞げ!」
秋
「嫌!おじ様ぁっ!」
口の中に、何か丸めた布のような物が押し込まれた。
秋
「ーーー!」
次の瞬間。
小野瀬
「秋!」
飛び込んで来たのは、赤い髪。
突然現れたおじ様に驚いたのか、私の手を掴んでいた男の人の手が一瞬、緩んだ。
小野瀬
「秋!個室に逃げろ!」
おじ様の声で、硬直していた身体が動いた。
私は咄嗟にその人を突き飛ばし、個室に駆け込んで鍵を閉めた。
~小野瀬vision~
ファミレスのトイレの出入口に立ち、ニヤニヤしながら中を覗き込んでいる男の姿を見た瞬間、俺の中で何かがキレた。
ほとんど全力疾走の俺に気付いて振り向いたそいつの顔面を掴んで、思い切り壁に叩きつけてやる。
見張り役の男は、声を上げる間もなくズルズルと床に延びた。
女性用トイレに向き直った時、野卑な笑いの合間に、秋の声が聴こえた。
秋
「嫌!おじ様ぁっ!」
秋が。
俺を。
頭に血が昇った。
小野瀬
「秋!」
飛び込んだ俺は、三人の男たちの背中に掴み掛かっていた。
その瞬間、秋の手を掴んでいた男の手が緩んだように見えた。
小野瀬
「秋!個室に逃げろ!」
俺の声に弾かれたように、秋が動いた。
秋は咄嗟に男を突き飛ばし、個室に駆け込む。
鍵の閉まる音が響いた。
秋の無事を確かめて、俺は、手前にいた男の腕を掴んで捻り上げた。
男
「い、痛でででえ!」
小野瀬
「……秋に手を出す奴は、誰であろうと許さん」
俺は躊躇い無く、そいつの肩の関節を外した。
凄まじい悲鳴を上げた男が崩れ落ちると同時に、さっきまで秋を捕まえていた男が飛びかかって来た。
男
「ジジイは引っ込んでろ!」
半身になって突進をかわした俺は、そいつが身体の前を通過する直前、がら空きになった腹に膝蹴りを見舞った。
小野瀬
「100年早えんだよ、ガキ!」
動きが停まったところで、俺は、固く組んだ両手をそいつの後頭部に叩き込んだ。
男は、ぐぇ、と呻いて、白目を剥いてひっくり返る。
間髪を入れず最後の一人を振り向いて睨みつけると、そいつの顔色が変わった。
男
「……ひ」
ニキビ面が真っ青になり、ガタガタ震え出した。
だが、手には刃渡り7センチ程のナイフを持っている。
男
「ひい!」
奇声を上げて、そいつは俺に向かって闇雲にナイフを振り回し始めた。
一度だけナイフが左頬を掠めたが、この刃物を秋に向けるつもりだったのかと思うと、恐怖よりも怒りが再燃してくる。
俺は深く息を吸い込んだ。
間合いと呼吸を測る。
突いてきた腕が伸びきり、戻るその一瞬をついて、俺はそいつの鳩尾に拳をめり込ませた。
どんな大男でも、一瞬呼吸の停まる急所だ。
これを喰らうとどれだけ苦しいか、穂積に味わわされた事のある俺はよく知っている。
床に落ちたナイフが、音を立てた。
小野瀬
「安物だな」
俺はそれを足で蹴った。
男の方は悶絶しながら、頭から床に落ちた。
こいつも安い音がした。
騒ぎを聞いて駆け付けたファミレスの従業員たちに、俺は簡単に事情を説明した。
床に転がって呻いている四人の男たちを引き起こし、トイレの外に向かって背中を蹴り跳ばしてやる。
大勢の客や従業員に囲まれて逃げられるはずもないが、もとより、秋さえ無事なら後はどうでもいい。
ぐったりしているガキどもが全員取り押さえられるのを目の端で確認してから、俺は、秋の隠れている個室を振り返った。