Pure Love
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~小野瀬vision~
俺の誘導尋問に、秋は飛び上がりそうになった。
小野瀬
「当たり?」
秋
「あっ……」
俺の言葉に、秋は目を見開いた。
どうしよう。引っ掛かっちゃった。そんな顔だ。
秋
「……」
秋は俺を直視出来ずに、俯いた。
白い頬が、戸惑いのせいで桜色に染まっていくのが分かる。
小野瀬
「……まあ、お母さんは俺の事を昔からよく知っているからね。無理もないよ」
俺は、自嘲するように言った。
小野瀬
「だから、さっき返事に詰まったんだね」
秋
「……ごめんなさい……」
秋は、とうとう認めてしまった。
彼女の顔はもう真っ赤で、少し涙目になっている。
苛めるつもりはないんだけど、……秋は昔から泣き虫で可愛くて、つい、困らせてみたくなる。
小野瀬
「でも、悲しいな。秋も俺の事、そんな風に思ってた?……女好きで、軽くて、不真面目で……」
溜め息混じりに問えば、彼女はぶんぶんと首を横に振る。
秋
「そんな事思ってない。私、おじ様の事、本当のお父さんみたいに思ってる」
……それはそれで、嬉しいような悲しいような。
今頃になって、あの頃の穂積の気持ちが分かって来るなんてね。
秋
「……本当のお父さんて、どんなものか知らないけど。……大きくて、温かくて、優しくて……それが、私の中の、おじ様だもの。だから……」
秋の目から、涙が零れた。
ああ。
泣かせるつもりは無かったのに。
慰めようと手を伸ばしかけた時、秋はバッグを手に席を立った。
秋
「ごめんなさい。お化粧、直してくる」
そう言い残して、秋は、指先で涙を拭きながら、早足で化粧室に去ってしまった。
……俺って奴は。
あんな素直で優しい子にまで、俺への思いを試すような事をして。
……帰って来たら謝ろう。
自己嫌悪で吐きそうだ。
秋。
彼女の事は、生まれる前から知っている。
穂積の子供を宿したと知って、翼さんがどんなに喜んだか。
穂積がどれほど嬉しがったか。
あの酒豪が、子供の為に酒を止めて健康に気をつけると言い出した時には笑った。
それより煙草を止めろと言ったら、それもそうだと素直に頷いたのでまた笑った。
これを最後にすると言って俺に見せた箱の煙草を、穂積は最後まで吸う事が出来なかった。
血塗れで戻ってきた箱には、まだ数本の煙草が残っていた。
翼さんはそれを棺に入れた。
七七忌の後、翼さんは流産しかけた。
病室の廊下で、翼さんの両親とともに無事を祈った。
危機を乗り越え、無事に双子が産まれた時の嬉しかったこと。
揃って穂積の面影を持って生まれてきた、天使のような子供たちを一晩中ガラス越しに眺めたこと。
初めて抱かせてもらった日のこと。
園児、小学生、中学生、高校生、大学生……走馬灯のように記憶が蘇る。
明るく元気で才気煥発、聡明で身体能力も抜群で、穂積そのもののような霜。
秋は大人しいが芯は強く、才色兼備なのに控えめなのは翼さんに似たのか。
全員が家族想いで、支え合って生きている穂積家に、欠けているのはただ父親だけ。
それを補うのが俺だと自負してきた。
実際、子供たちが二十歳になるまでは、俺も積極的に翼さんと二人に働き掛けてきた。
仕事がら四六時中一緒にはいられないけど、翼さんの相談相手になったり、休みの時には子供たちを遊びに連れ出したりもした。
穂積が遺したものを、穂積の代わりに守ることが、いつしか俺の生き甲斐になっていた。
成人式を迎えた二人と翼さんの笑顔の晴れ姿を写真に収めた時には、これで穂積への誓いを果たせたと、一人思ったものだ。
そして、この先の子供たちの幸せを考えれば、翼さんが、未だに女の影の絶えない俺から、秋を離そうとするのは当然じゃないか。
なのに……
その時突然、俺は気付いた。
秋。
秋が戻って来ない。
さっきのニキビ面のガキどももいない。
しまった!
俺は叫んで立ち上がった。