Pure Love
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~秋vision~
ファミレスの駐車場に滑り込むように車を停め、私に駆け寄って来てくれた小野瀬のおじ様からは、いつもの、柑橘系の香りがしなかった。
代わりに纏っていたのは、知らないシャンプーの香り。
自宅のバスルームにいたのなら、間違いなくロクシタンの甘い香りがするはずだ。
警視庁と科警研の掛け持ちで泊まり込みも多いおじ様は、職場のシャワールームにも、自前のボディケア用品を置いていると言っていた事がある。
つまり、たった今、いつもの柑橘系の香水を洗い流し、違うシャンプーのあるバスルームから……
そこまで考えて、私は、自分の脳裏に浮かびかけた答えを打ち消した。
勝手な想像はやめよう。
店内に入り、向かいの席に座って微笑むおじ様に笑顔を作って返しながら、私は自分に言い聞かせた。
おじ様は独身で、魅力的な男性だもの。女性がいたって当たり前。
それより、今、こうして私に会いに来てくれた。
その事に感謝しよう。
秋
「急に呼び出して、ごめんなさい」
言外に別の意味の謝罪も込めて、私は頭を下げた。
小野瀬
「秋に呼ばれるなら、いつでも大歓迎だよ」
おじ様はいつも、こんな風に言ってくれる。
小野瀬
「もっと俺を必要として欲しいな」
秋
「でも、もう大人だもの。いつまでもあしながおじさんに頼っていたらいけないと思って。……これでも自粛してるの」
最後は少し俯いて、声が小さくなってしまった。
呼び出しておいて、我ながら矛盾した事を言っていると気付いたから。
おじ様が腕を伸ばして、私の頭をそっと撫でてくれた。
小野瀬
「じゃあ本当は、もっと会いたいと思ってくれてる?」
私は頷いた。
秋
「思ってる。……でも」
小野瀬
「でも?」
秋
「……」
返事に詰まったそこへ、店員さんがオーダーを取りに来てくれた。
良かった。
ホッとしながら、私はカフェオレを頼んだ。
おじ様はコーヒー。
続きを求められたらどうしようかと思ったけど、店員さんが去ったのを機に、おじ様は話題を変えてくれた。
小野瀬
「お母さんは元気?」
秋
「うん。あっ」
私は椅子から立ち上がって、姿勢を正した。
秋
「今日は父の墓にお参りして下さって、ありがとうございました」
きちんと頭を下げてから、私は椅子に座り直した。
おじ様が、少し照れたように微笑む。
小野瀬
「悪ゆ……親友の命日だからね。……でも、よく俺が行ったと分かるね」
秋
「ごみ箱に、大崎のお花屋さんの包装紙が畳んで捨ててあったって」
おじ様は、声を立てて笑った。
小野瀬
「相変わらず、さすがだなあ」
秋
「それに、おじ様はいつも、雪柳の花を入れてくれるでしょ。だから、そうかなって」
おじ様は、ちょっと驚いたような顔をした。
小野瀬
「もしかして、その分析はきみ?」
秋
「私、高校時代からずっと、お花屋さんでアルバイトしてたのよ?」
小野瀬
「そうだったね。……うわぁ」
おじ様は、メニューで顔を隠した。
小野瀬
「馬鹿の一つ覚えみたいで、恥ずかしい」
珍しく赤くなるおじ様と一緒に、私も笑った。
秋
「でも、何も証拠が無くても、必ず来てくれたはずだからって。お母さんから、おじ様に会ったらお礼を言うように言われたの」
小野瀬
「……お母さんは、きみが今夜、俺に会う事を知ってるの?」
私は頷く。
秋
「おじ様に電話した後、お母さんにも電話したから」
小野瀬
「秋は真面目だね」
秋
「お母さんには心配かけたくないだけ」
そう言ってから、私は何となく付け足した。
秋
「あ、おじ様と会うから特別に、じゃなくて。外出の時は、いつもそうしてるの」
小野瀬
「分かってるよ。いい子だね」
おじ様は、けれど、ちょっと苦笑いを浮かべた。
小野瀬
「……お母さんが、きみに、俺と少し距離を置くように言った事も知ってるよ。……そう、二十歳を迎えた頃からね」
私は飛び上がりそうになった。