Pure Love
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~秋vision~
二十三回忌の法要を終え、母と兄との三人で訪れた、昼下がりの霊園。
父の墓石は既に洗い浄められ、綺麗な花が供えられていた。
私は毎年お盆とお彼岸、そして命日に来るだけだけれど、いつ来ても、花とお線香が絶えているのを見た事が無い。
今もまだ、誰かの供えてくれたお線香の束が、静かに最後の煙を漂わせている。
墓石の傍らでは、花立てに挿しきれず、包装紙で巻いたままの花がいくつも、水を張った手桶に供えられていた。
母はきちんと手を合わせた後、その全ての包装を解き、花立てからも花を抜き、地面に敷いた包装紙の上に広げた。
そうしてから、供えてくれた全員の花が均等に入るように丁寧に花束を作り直して、改めて花立てに挿す。
こうして残った花を、周りのお墓にお裾分けするのが私と兄の毎年の仕事。
たくさんあった花は両脇の花立て二つ分だけになってしまったけれど、母は満足そうだ。
泪さんならきっと、こうしろって言ったと思うの。
それは母の口癖。
私と兄は父を知らないけれど、亡くなってから二十年以上経った今もお墓参りに来てくれる人たちを思い、父を心の道標にしている母を見ると、いつも胸が熱くなる。
父に会ってみたかった。
姿は写真で知っている。
双子の兄は、その父によく似ている。
でも……。
母の背中に倣うように、父の墓前にお線香を供えて手を合わせながら、私が思い浮かべていたのは、全く別の人物だった。
~小野瀬vision~
サイドテーブルで鳴り出した携帯の着信音に気付いて、俺はベッドから跳ね起きた。
小野瀬
「秋?」
呼吸を整え、精一杯の落ち着いた声を出す。
小野瀬
「今?うん、大丈夫。どうしたの?」
立ち上がって、床に投げ落としてあったバスローブを羽織る。
背後のベッドから、たった今まで組み敷いていた相手が、ゆっくりと身体を起こす気配がした。
小野瀬
「……うん、今日は休んだ。……これから?今どこ?……じゃあ、近くにファミレスがあるよね?そこで待ってて。すぐに行くよ」
電話を切った途端、枕で殴られた。
振り返って見れば、目に映る女性の姿はもう醜悪でしかない。
さっきまで彼女の中にいて、お互いに「愛してる」って囁いていたのに。
女
「誰なの?」
小野瀬
「ごめん、本命」
短く答えて、さっさとシャワーを浴びる。
その間に、女性が出て行く高い足音と、叩きつけられるように閉められたドアの音が響いた。
秋
「おじ様」
待ち合わせたファミレスに行くと、彼女はなんと、駐車場の入り口で立って俺を待っていた。
小野瀬
「秋!先に入っていてくれてよかったのに!」
車を停めて、慌てて駆け寄ると、彼女は、悪戯を叱られたように、ふふ、と笑った。
秋
「ごめんなさい」
来てくれてありがとう、と笑う愛らしい表情に、自分の心が癒されてゆくのが分かる。
小野瀬
「春も終わりに近付いているけど、まだ夜は冷えるんだから。さ、中に入ろう」
秋
「はい」
彼女の体調を気遣うような言葉で背中を押した俺だったが、本当は、違う。
夏が近付くにつれ、そろそろ、夜道には性質の悪い連中がうろつき始めている。
秋のような女の子には危険な季節なのだ。
ふと、彼女の足が止まった。
小野瀬
「どうしたの?」
秋
「ううん。……ごめんなさい」
彼女はすぐにまた歩き出したけれど、さっきまでの笑顔が消えたのを見た俺は、内心、しまった、と思った。
シャワーを浴びたばかりだと気付かれたかな。
彼女は父母に似て敏感だ。
さすがに、ラブホテルから直行だとは考えないと思うけど。
気まずいのを隠すように、俺はファミレスの扉を開け、彼女を先に中に入れた。
ドアベルの音で、店内にいた数組の客のうちの何人かがこちらを振り返る。
さらに何人かが息を呑んだのは、俺に見惚れてではなく、彼女の姿を見たからだ。
ほとんど金髪に見えるほど色の薄い栗色の長い髪、白い肌、ぱっちりとした碧色の瞳。
身長はパンプスを履いていても俺の耳までしかないが、顔が小さく身体はほっそりと整っていて、モデルのように綺麗だと言ってもいいし、お人形のように可愛らしいと表現してもいい。
俺は彼女に椅子を勧めながら、しつこく視線を送ってくるニキビ面のガキどもを睨みつけてやった。