Pure Love
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
いつか大人になる日まで
Pure Love
-穂積 秋の恋-
~小野瀬vision~
小野瀬
「……じゃあ、俺も、これで」
ようやく人気の絶えた、葬祭場。
俺が辞去の挨拶を伝えると、遺影の前に立っていた翼さんが振り向いて、深々と頭を下げた。
翼
「最後まで、ありがとうございました……」
昨日の通夜、今日の本葬の間に、いったい何度、喪主として頭を下げる彼女のこの姿を見ただろうか。
黒い草履に白い足袋、喪服を纏って憔悴した顔を下げる彼女は、まだ、あまりにも若い。
彼女はこの先、どうするのだろう。
今まで、そんな事を考えた事は一度も無かった。
彼女の傍らにはいつも穂積がいて、彼女の肩を力強く抱いていたからだ。
俺はただ、幸せそうな二人を見守っていればよかった。
穂積なら、一生誠実に彼女だけを愛し、彼女もまた、喜んで穂積とともに人生を歩んだだろう。
だが、穂積は運命の凶弾に斃れた。
彼女の盾となって。
その彼女は今、小さくなった穂積とその遺影の前で、俯いたまま、肩を震わせている。
小野瀬
「翼さん……きみの、力になりたい」
俺は堪えきれず、その、細い肩に手を置いた。
彼女が、ぴくんと震える。
小野瀬
「穂積の……最期の時、穂積に頼まれたんだ。だから……きみさえ良ければ」
翼
「小野瀬さん……」
俺の言葉を遮るように、彼女は、静かに首を横に振った。
翼
「……小野瀬さん……ありがとうございます」
顔を上げた彼女は目に涙をいっぱいに溜めて、けれど、その口元は、震えながらも微笑んでいた。
翼
「……私なら、大丈夫です」
その表情に、俺はハッとさせられた。
翼
「だって……泪さんの子供が、お腹にいますから。私、しっかりしないと」
……こんなに美しい女性だっただろうか。
瞬きとともに、涙が一粒、彼女の頬を伝って喪服に落ちた。
翼
「この服を脱いだら、もう、泣きません」
俺は、行き場を失った手を彼女の肩に置いたまま、立ち尽くした。
翼
「それにきっと……小野瀬さんの方が、もっと辛いと思うから」
突然、胸が締めつけられたように苦しくなって、喉の奥から嗚咽が込み上げてきた。
目頭が熱くなって、視界が滲んだ。
小野瀬
「……!……」
俺が泣くなんて。
親に捨てられた時でさえ、女に裏切られた時でさえ、涙など出なかった。
それなのに。
バーカ。
そう言って、小突いてくれる穂積がもういない。
それだけで。
俺は溢れる涙を抑えきれない。
小野瀬
「…………穂積……」
遺影の穂積が微笑んでいる。
彼女は黙って、ただ、泣き続ける俺の傍にいてくれる。
見守られていたのは俺の方。
穂積。
穂積。
約束する。
お前が愛した女性は、俺が守る。
お前の代わりになれるはずはないけれど。
お前が遺した子供も、必ず俺が守ってみせる。
いつか大人になるその日まで。