クリスマス・ソングス
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小笠原諒
☆もみの木(O Tannenbaum)~小笠原家~☆
小笠原家ではツリーを買わない。
何故なら、毎年12月になると、マンションの中庭にある巨大なモミの木が、豪華なクリスマスツリーへと変貌するからだ。
業者さんの手によって、オーナメントやイルミネーションで飾り付けされたモミの木は、年末の賑わいに華やかな彩りを添えている。
私は窓からその美しいツリーを眺めるたび、いつも、溜め息をつかずにはいられなかった。
庭先に、見上げるほどのクリスマスツリー。
庶民の私からすると、それは、気が遠くなるほどの贅沢。
翼
「はぁ……セレブ、って感じよね……」
実際、生まれた時からこの環境にいる娘などは、飾り付け作業が始まるのを見ても完成したツリーを見ても、至ってクールである。
涼子
「あたし、クリスマスって、騒々しくて苦手」
小笠原
「僕も」
似た者親子は窓に背を向けて、それぞれ、タブレットの英字新聞と、科学雑誌のWeb最新号の読み込みに余念がない。
ふと、娘がタブレットから顔を上げた。
涼子
「ねえ、お父さん。どうして、クリスマスにはモミの木を飾るの?」
小笠原
「中世のドイツで、アダムとイブの舞台劇を演じる際、『知恵の木』の代わりに、モミの木が使われたからだって聞いた事があるけど」
涼子
「?」
小笠原
「キリスト教の降誕祭の時期には、『知恵の木』、つまりリンゴの木は、もう葉が落ちちゃってる。だから、冬でも緑のモミの木に、リンゴの実を飾って劇に使用した」
言われてみれば、子供の頃、うちのツリーにもリンゴのオーナメントが付いていた。
漠然と、赤くてきれいだからなのかと思っていたけれど。
……何か、現実的な事情からだったのね。
涼子
「ふうーん……モミの木は『知恵の木』なんだ」
娘は感心したように頷いてから、諒くんに微笑んだ。
涼子
「それなら、あたしのモミの木は、お父さんだね」
小笠原
「……!」
その時、携帯が鳴った。
涼子
「ハイハーイ」
娘は諒くんの動揺には気付かず、まるで如月さんのような返事をしながら、部屋を出ていってしまう。
残ったのは、固まったままの、諒くん。
翼
「お父さんはモミの木、だって」
小笠原
「……どんな顔をすればいいのか、分からない」
何でも知ってる諒くんは、そう言って、笑いたいような、泣きたいような、困ったような、けれど、とても嬉しそうな顔をしていた。
~小笠原編 END~