悪魔は天使に二度恋をする。 *清香様からの頂き物
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-藍 side-
幼いころから見慣れた大きな白い建物。
「邪魔をしちゃいけないから」とあの時は中に入ったことなんて無かったけれど、憧れの象徴だったこの場所へ来るのにもやっと慣れてきた。
たくさんの人たちが吸い込まれるように中に入って行くのを見ていると、気がはやるようで、背筋を伸ばして私も同じように中へと入る。
両親のように、おじ様のようになりたくて目指した警察官への道。悩みに悩んだ末、私が選んだのは警察庁Ⅰ種職員、まぁいわゆるキャリア組としての道だった。警察大学校で3カ月の初任幹部研修を過ごし、神奈川県警の警務部を経たのち、憧れの警視庁、公安部外事第三課へ配属されたのだ。
これにはてっきりお母さんと同じように入庁し、交通課にでも配属されるのかと思っていた櫻井のおじいちゃんも驚きひっくり返っていたが、いくら元判事とはいえ警察人事に対して何か言えるわけもなく、お母さんの説得でどうにか落ち着いてくれはしたのだが、お父さんが再び科警研に戻るという話になり問題は再燃した。
もともと科警研からの出向で警視庁にラボを構えていたお父さん。凄腕の鑑識官として事件の多い警視庁に長年留め置かれていたけれど、この度本格的に生物学的個人識別に関する研究に着手をする事となったのだ。
これに関してはいたしかたない事なのではあるけれど、現場の捜査経験者としてお母さんを連れていくというのだから再び大騒ぎ。
まぁ、隣の県だし、久しぶりに二人きりで新婚っぽく過ごすのもいいんじゃないかと思ってはいたけれど、独り暮らしになることを櫻井のおじいちゃんが許すはずもなく、私は警察庁宿舎へ入り櫻井の家を毎週訪れなくてはいけなくなってしまったのだった。
「おはようございます。」
「おぉ、小野瀬、おはよう。」
自分のデスクに荷物を置き、いつものようにコーヒーを淹れに行く。
「課長、どうぞ。」
「おっ、悪いな。ありがとう。」
公安部という特殊な環境だからか、私たちのフロアはどこか閉鎖的で意識をして息をしないと、なんだか苦しくなってしまいそうな気がした。
それに付け加えて、今年度採用された唯一の女性キャリア。しかもつい先日までいた『桜田門の光源氏』と呼び声高い小野瀬葵の娘。
息抜きに休憩スペースに行こうにも目立つ要素が多すぎるし、公安として一般職員との接触も少ないに越したことは無いと、いつしか一人で屋上に行くことが多くなっていた。
「なんだ、小野瀬。今日はいい事でもあったのか?」
「特にないですけれど?天気が良いからじゃないですかね?」
「まぁ、元気で何よりだ。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
小さな事でも気にかけてくれる小泉課長は30歳の若さで警視となり、国際テロリストなどの調査を扱うこの課を纏め上げていた。同じキャリア組でも、人望もあり頼れるリーダー像を体現しているような人で、入りたての私が他の職員達に一線を引かれているのを感じていると小まめに声をかけてくれていて。
しっかりと自分で考え、やるべきことを教えて道を指示してくれる姿に、お母さんがおじ様に育ててもらった時もこんな感じだったのかしら?と頭の片隅で考えてしまうくらい時に厳しく優しい人で、『おじ様の下で働きたい』との想いを少しだけ叶えさせてくれるようだった。
「さぁ、気を引き締めていこう。相変わらず東欧では情勢が不安定だからな。」
「はいっ!」
東欧・中東地域では石油だけではなく天然ガス・レアメタルなどの資源をめぐる争いに加えて、イスラム過激派による「聖戦」という名のテロ行為はもう何十年と続いていた。
日本国内には直接関係なくとも、国内の関連企業に潜伏し情報を得ていないとは限らない。
事件発生後に捜査をするのではなく不審な対象を発見することが大事で、私達外事課はそのために国外の情報機関とも関係を持ち現地の捜査機関と協力したり、テロ捜査のために海外で情報収集を行うのが主な業務だった。
「中東の人の顔は見分けがつかないよ…。」
国際指名手配されている写真を見ていると、思わず眉間にしわが寄る。
ターバンに豊かな口髭の人々を見せられても違いや特徴を見つけるところに苦労してしまい、小さな文句を呟きながら頭を抱えたり、送られてきた外国語の機密文書の翻訳と分析に明け暮れる日々。
お母さんには備わっていた『一度見た人の顔は絶対に忘れない』という特殊能力が今になってどれだけ刑事として喉から手が出るほど欲しい才能だったのかと痛感する。
それでもいつか戦力になれるように精いっぱい様々なファイルとにらめっこをしていたのだった。
「課長、お先に失礼します。」
「おぉ、お疲れ。今日も練習か?」
「はい。鍛錬は怠ってはいけませんから。」
「そうか。今度は俺も相手をしてもらおうかな。」
「ふふっ、手加減しませんからね?」
「言いやがったな。その言葉忘れるんじゃないぞ?…それよりあまり遅くならないように気をつけろ。女の一人歩きは良いもんじゃないからな。」
「了解です。」
『言うことも穂積のおじ様みたい。』と思いながら敬礼をすると、満足そうに課長も笑ってくれた。その笑顔に背中を押されるように向かったのは警視庁内の大道場で。
「やあぁぁぁっ!」
お腹の底から声を出していると、少しだけモヤモヤしていた物が吐き出させた気がする。
面を着けていれば好奇の目から逃れることができる。
そんな思いがここへ来る本当の理由だった。
誰にも言えない、本当の気持ち。
仕事も半人前なのに、無駄に目立って
どこへ行っても気を許せる場所なんて無くて
ふいに襲ってくる孤独感に『まだまだ子供だなぁ』って思うけれど、大人になるのは難しくて
追いかけていたおじ様の背中も少しずつ見失ってしまいそうになるくらいで。
気がつくと私はため息を漏らしていた。
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幼いころから見慣れた大きな白い建物。
「邪魔をしちゃいけないから」とあの時は中に入ったことなんて無かったけれど、憧れの象徴だったこの場所へ来るのにもやっと慣れてきた。
たくさんの人たちが吸い込まれるように中に入って行くのを見ていると、気がはやるようで、背筋を伸ばして私も同じように中へと入る。
両親のように、おじ様のようになりたくて目指した警察官への道。悩みに悩んだ末、私が選んだのは警察庁Ⅰ種職員、まぁいわゆるキャリア組としての道だった。警察大学校で3カ月の初任幹部研修を過ごし、神奈川県警の警務部を経たのち、憧れの警視庁、公安部外事第三課へ配属されたのだ。
これにはてっきりお母さんと同じように入庁し、交通課にでも配属されるのかと思っていた櫻井のおじいちゃんも驚きひっくり返っていたが、いくら元判事とはいえ警察人事に対して何か言えるわけもなく、お母さんの説得でどうにか落ち着いてくれはしたのだが、お父さんが再び科警研に戻るという話になり問題は再燃した。
もともと科警研からの出向で警視庁にラボを構えていたお父さん。凄腕の鑑識官として事件の多い警視庁に長年留め置かれていたけれど、この度本格的に生物学的個人識別に関する研究に着手をする事となったのだ。
これに関してはいたしかたない事なのではあるけれど、現場の捜査経験者としてお母さんを連れていくというのだから再び大騒ぎ。
まぁ、隣の県だし、久しぶりに二人きりで新婚っぽく過ごすのもいいんじゃないかと思ってはいたけれど、独り暮らしになることを櫻井のおじいちゃんが許すはずもなく、私は警察庁宿舎へ入り櫻井の家を毎週訪れなくてはいけなくなってしまったのだった。
「おはようございます。」
「おぉ、小野瀬、おはよう。」
自分のデスクに荷物を置き、いつものようにコーヒーを淹れに行く。
「課長、どうぞ。」
「おっ、悪いな。ありがとう。」
公安部という特殊な環境だからか、私たちのフロアはどこか閉鎖的で意識をして息をしないと、なんだか苦しくなってしまいそうな気がした。
それに付け加えて、今年度採用された唯一の女性キャリア。しかもつい先日までいた『桜田門の光源氏』と呼び声高い小野瀬葵の娘。
息抜きに休憩スペースに行こうにも目立つ要素が多すぎるし、公安として一般職員との接触も少ないに越したことは無いと、いつしか一人で屋上に行くことが多くなっていた。
「なんだ、小野瀬。今日はいい事でもあったのか?」
「特にないですけれど?天気が良いからじゃないですかね?」
「まぁ、元気で何よりだ。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
小さな事でも気にかけてくれる小泉課長は30歳の若さで警視となり、国際テロリストなどの調査を扱うこの課を纏め上げていた。同じキャリア組でも、人望もあり頼れるリーダー像を体現しているような人で、入りたての私が他の職員達に一線を引かれているのを感じていると小まめに声をかけてくれていて。
しっかりと自分で考え、やるべきことを教えて道を指示してくれる姿に、お母さんがおじ様に育ててもらった時もこんな感じだったのかしら?と頭の片隅で考えてしまうくらい時に厳しく優しい人で、『おじ様の下で働きたい』との想いを少しだけ叶えさせてくれるようだった。
「さぁ、気を引き締めていこう。相変わらず東欧では情勢が不安定だからな。」
「はいっ!」
東欧・中東地域では石油だけではなく天然ガス・レアメタルなどの資源をめぐる争いに加えて、イスラム過激派による「聖戦」という名のテロ行為はもう何十年と続いていた。
日本国内には直接関係なくとも、国内の関連企業に潜伏し情報を得ていないとは限らない。
事件発生後に捜査をするのではなく不審な対象を発見することが大事で、私達外事課はそのために国外の情報機関とも関係を持ち現地の捜査機関と協力したり、テロ捜査のために海外で情報収集を行うのが主な業務だった。
「中東の人の顔は見分けがつかないよ…。」
国際指名手配されている写真を見ていると、思わず眉間にしわが寄る。
ターバンに豊かな口髭の人々を見せられても違いや特徴を見つけるところに苦労してしまい、小さな文句を呟きながら頭を抱えたり、送られてきた外国語の機密文書の翻訳と分析に明け暮れる日々。
お母さんには備わっていた『一度見た人の顔は絶対に忘れない』という特殊能力が今になってどれだけ刑事として喉から手が出るほど欲しい才能だったのかと痛感する。
それでもいつか戦力になれるように精いっぱい様々なファイルとにらめっこをしていたのだった。
「課長、お先に失礼します。」
「おぉ、お疲れ。今日も練習か?」
「はい。鍛錬は怠ってはいけませんから。」
「そうか。今度は俺も相手をしてもらおうかな。」
「ふふっ、手加減しませんからね?」
「言いやがったな。その言葉忘れるんじゃないぞ?…それよりあまり遅くならないように気をつけろ。女の一人歩きは良いもんじゃないからな。」
「了解です。」
『言うことも穂積のおじ様みたい。』と思いながら敬礼をすると、満足そうに課長も笑ってくれた。その笑顔に背中を押されるように向かったのは警視庁内の大道場で。
「やあぁぁぁっ!」
お腹の底から声を出していると、少しだけモヤモヤしていた物が吐き出させた気がする。
面を着けていれば好奇の目から逃れることができる。
そんな思いがここへ来る本当の理由だった。
誰にも言えない、本当の気持ち。
仕事も半人前なのに、無駄に目立って
どこへ行っても気を許せる場所なんて無くて
ふいに襲ってくる孤独感に『まだまだ子供だなぁ』って思うけれど、大人になるのは難しくて
追いかけていたおじ様の背中も少しずつ見失ってしまいそうになるくらいで。
気がつくと私はため息を漏らしていた。
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