First Love *清香様からの頂き物
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ホテルを出るとさっきまでの雨が嘘みたいに綺麗な夜空が広がっていた。広々とした緑の庭園と柔らかくライトアップされた噴水の水面が荒んでいた私の心を少しずつ穏やかにしてくれる。
「おじ様、ちょっとだけ歩きませんか?」
「あぁ、構わないが。」
外に出るのに少しだけ遠まわりをして庭園を横切ると、雨に濡れた芝生がキュッと音をたてる。歩くたびに音の鳴る足元に気を取られていると、隣にいたはずのおじ様が背中が見えるくらい離れてしまっていた。
置いていかれないよう慌てて足を踏み出そうとすると。
「きゃあっ!」
ズルッと前のめりに滑った身体をかばうよう、とっさに手を伸ばすと大きな掌に掬いあげられた。
「…っと。大丈夫か?」
掴まれた手と抱きとめられた腰から伝わる温かさと、幼いころに強請った『抱っこ』とは違う距離に心が跳ねる。
馴染みのある香りとかすかに伝わるおじ様の鼓動に『近さ』を感じるけれど、心は『遠い』ままで
やるせない想いに、気がついたらおじ様の胸元に縋りつくように手を伸ばしていたのだった。
「…藍。」
「おじ様、私、おじ様のことが好きなんです。」
「……。」
「ずっと、ずっと好きだったんです。もう大きくなりました。大人にもなりました。…私じゃダメですか?」
広い背中に手をまわして『ぎゅっ』と抱きついたものの、おじ様の身体は硬直したままで。
『ふぅっ』とため息を一つ吐くとそっと身体が離される。
「藍、すまない。その想いにだけは応えてやれないんだ。」
「私がまだ子供だからですか?」
「そうじゃない。もう立派な大人になったじゃないか。」
「じゃあ、私が小野瀬の娘だからですか?」
「そうじゃないさ。…でも、俺は応えてやれない。本当にすまない。」
ずっと想い続けていた気持ちが届かない悲しさで目の前が滲むのを堪えていると、優しい手が頭を撫でた。
-そんなに優しくされると忘れられなくなってしまうのに-
そう思っていると、さっきのおじ様の言葉が蘇ってくる。
『同じ所に立ち止まってちゃいけないぞ。』『俺みたいになるなよ。』
おじ様の心に未だにいる人は誰なんだろう。
私の心の中にいつもあなただけの場所があるように、おじ様の心にも誰かの場所がまだあるのか。
変わらない頭を撫でる優しい手と、同じように変われないおじ様と私の関係。
止まってしまった時間をとうとう動かす時が来ていたんだ。
「…おじ様。」
「なんだ?」
「最後のお願いです。…………キス、して下さい。」
「藍……。」
見上げた大好きな碧色の瞳は少しだけ困っていたけれど、頭を撫でていた手が肩に下りると同時に長いまつげが揺らめいた。
そして初めて感じる…おじ様のくちびる。
柔らかくて温かくて、心の中が幸せで満ちていくけれど、『ちゅっ』と音を立てて離れてしまえば夢の時間は終わりで。
新しい時間を歩かなくてはいけないんだと思い知らされてしまう。
堪えられなかった涙を隠すようにおじ様に背を向けて歩き出すと、持っていた花束の蕾が揺れていた。
白いバラは純潔を、ストックは見つめる未来を、桔梗は優しい愛情を。
あなたは全てを教えてくれたんだ。
何も言わず家まで送ってくれたおじ様はまだ心配そうな顔をしていたけれど、精いっぱいの笑顔を返すと安堵の表情を浮かべていた。
「じゃあな、おやすみ。」
「おやすみなさい。…ありがとうございました。」
「あぁ。また、な。」
『また』なんて機会はもう無いのは分かっていたけれど、『はい。』と返すとおじ様は帰って行った。
靴の音が閉まるドアの向こうから聞こえなくなれば、張りつめていた心から想いが涙とともに溢れ出す。
優しさと思い出と涙をありがとう
蕾のまま摘むことのできなかった想いを受け止めてくれてありがとう
さようなら、おじ様
あなたが大好きでした
to be continue…….