もうひとつの「月」 *せつな様からの頂き物
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「・・・室長!!」
君の口から零れた、『真実』。
小野瀬 「は・・・はは、あはははは!!」
俺は唐突に目が覚めたような気がした。
笑いが止まらない。
翼 「・・・お、のせ・・・さん?」
小野瀬 「は、はは、いや、・・・うれしくって」
櫻井さんは、何がなんだか理解できないといった表情で下から俺を見つめている。
無理もない。こんな状況じゃね。
小野瀬 「実は、口説いてる最中に、別の男へ助けを呼ばれたのは初めてだ」
俺は、櫻井さんから身体を放して立ち上がった。
翼 「お、小野瀬さんなら、それは、そうでしょうけど・・・うれしいって」
櫻井さんは同意しようにも返答に困った様子で、ソファーから身体を起こす。
小野瀬 「なんでもない。結果的に君の気持ちを試すようなことをしちゃって、ごめんね」
翼 「えぇっ?試したって・・・もう、びっくりしたじゃないですか。小野瀬さんたら、ひどいです」
小野瀬 「ホントにごめん。でも、安心したよ。君の本心が分かって」
そうだ。
あの穂積が中途半端な女に惚れるわけがない。
俺は心のどこかで、あいつの愛した女性だから信じられると・・・分かっていたんだ。
だからこそ、こんなにも君が欲しかったのかもしれないね。
今まで、確かに俺は、数多くの女性と恋をしてきた。
でも、誰も愛を教えてくれはしなかったし、誰も愛せなかった。
信じたいのに信じられない、
形の無い想いにどうやって心を預ければいいのかわからなくて
俺はただ一瞬の快楽と癒しを求めていただけだった。
手に入らないならと、いっそ君の裏切りを誘うような卑怯なことをしてしまった上に、
信じられる『愛』もあるんだと、君に教えられるなんて・・・俺は、どれだけ情けない男なんだろうな。
小野瀬 「・・・穂積の君への想いは真剣だよ。ただ、正直言って警察機構の中じゃ難関が多いのも本当だ。だから、君は今のまま、あいつのこと支えてやってね」
そう────ずっと、穂積は君のことを求めてきたんだから。
翼 「・・・はい」
櫻井さんは、さっきのことなんか何もなかったかのように真っ直ぐ俺を見つめてうなずいた。
その信頼が、今はちょっと辛いかな。
小野瀬 「でも、穂積が嫌になったら遠慮なく俺のところに来ていいからね?」
翼 「もう!小野瀬さんたら!!」
そして、俺は、
CD-ROMを大事そうに持ってラボを出ていく君を見送る。
いっそ壊してしまいたいと思ったはずの笑顔が、損なわれることなくそこにあることに心から感謝するよ。
穂積にばれたら殺されかねないな、なんて苦笑しながら。
仕事を終えた深夜の帰り道。
ふと空を見上げた。
今夜は十六夜。
まるで、ためらってばかりの俺をいたわるような、月明かりだ。
月が君の笑顔と重なる。
君のような、優しく俺だけを照らしてくれるひとをみつけられたら・・・、
いつか、俺にも『真実』を手に入れることができるかな?
急に、いつもの夜の街がぼやけて見えた。
失恋の涙のせいだとは思いたくないけど、
認めるよ。
櫻井さん。
俺は、君が好きだった。
Fin
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