もうひとつの「月」 *せつな様からの頂き物
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いつごろからだろう。
彼女のその柔らかな視線の先に、常に穂積がいるようになったのは。
捜査室に顔を出すと嫌でも気付かされる。
からかわれて膨れる頬も
一生懸命自己主張する真剣な口元も
力不足で不甲斐ないと涙する瞳も
すべて、あいつに向けられていた。
俺がさり気なく口説いてみても、真っ赤になって照れるけれど、決してなびくことはない。
君があいつを想ってるからこそ、余計に振り向かせたくなるんだって言ったら、・・・君はどんな顔をするかな?
困ったような表情で、
それでもあいつを選ぶ言葉を口にするのだろう。
・・・いっそこの手ですべてを壊したら楽になれるんじゃないか・・・?
危険すぎる衝動が突き抜けて、次の瞬間、我に返る。
君と俺との間に壊れるものなんて何もありはしないのに。
ならば、俺が本当に壊したいものは、・・・何なんだ?
小野瀬 「はい、どうぞ」
今、彼女は俺の目の前。ラボのソファーに座っている。
穂積から、データを受け取りにラボへ行かせると連絡を受けた俺は、意味ありげな目線で周囲を見回した。
それだけで状況を察したスタッフはさり気なく席を外す。
全く気の利いたヤツらで助かるよ。
・・・同じくらい、自分の素行に問題があるのも自覚しているけどね。
俺はいつもの女性に対するのと同じように、櫻井さんへ笑顔を向けた。
翼 「ありがとうございます」
うっすら頬を紅くして櫻井さんは俺の手からCD-ROMを受け取ろうと手を伸ばしてきた。
ふと思いついて、俺はその手をヒョイと引っ込める。
小野瀬 「やっぱり、君は可愛いね。・・・ね、穂積の下じゃなくて俺の下で働かない?」
すると、櫻井さんはいつものようにからかわれているんだと思ったらしく、キッと俺をにらんできた。
翼 「もう、ふざけるのもいい加減にしてください」
小野瀬 「俺は結構真剣なんだけど。櫻井さんのことが欲しいと思ってるよ」
翼 「そんな・・・私の仕事の能力なんて、小野瀬さんに認めてもらえるほどのものじゃありません」
おや、そっちに解釈されたか。君らしいね。
小野瀬 「・・・正直に言っていいよ?穂積から離れたくないって」
翼 「え?」
小野瀬 「だって、好きなんでしょ?穂積のこと。もしかして、もうアイツから口説かれちゃった?」
一気に櫻井さんの顔が朱に染まる。
大きな眼をいっぱいに開いて俺を凝視したかと思ったら、次の瞬間恥ずかしそうに俯いてしまった。
でも、根が素直な君は俺に正直な気持ちを打ち明けてくる。
翼 「・・・や、やっぱり小野瀬さんには分かっちゃいますよね。でも、私の勝手な片思いですから!」
穂積を庇おうとするその気遣いも、今の俺を追い込む。
頭の芯までスーッと凍えていくのが自覚できた。
知っていた。分かっていた。
でも、もう抑えられない。
小野瀬 「ふうん。でもね、穂積は君の上司だよ?あいつが、君と付き合うってことは、イケナイ関係になっちゃうってことだ」
翼 「・・・小野瀬・・・さん?」
小野瀬 「部下に手を出したことが上層部連中にばれたら、穂積のキャリアとしての経歴に傷がつくことになるね」
俺の言葉に、君の顔色が急に失せていく。
それが妙に心地よくて。
翼 「・・・どうして、そんなことを言うんですか?」
小野瀬 「忠告してあげてるんだよ。俺は穂積も君も大事だからね」
俺はソファーに乗り上げ、君の横に斜め上から覆いかぶさるように顔を寄せた。
そして、櫻井さんの冷たくなった手を取り、とびきりの甘い声で囁く。
暗い笑顔を浮かべながら・・・。
小野瀬 「何なら・・・俺が穂積のかわりになってもいいけど。どうする?」
このまま、俺に乗り換えればいい。
大勢の女たちのように、君も同じだと思わせてくれ。
好きな男がいたって、ちょっと見てくれのいい男になら喜んで自ら脚を開く女なんだと。
信じられる本当の想いなんか存在しないんだと・・・諦めさせて。
翼 「・・・冗談ですよね?」
俺を押しのけようと、震える腕に力をこめてくるけど、そんな仕草はよけいに男を煽るんだよ。それとも作戦?
細い両手をつかんで、ソファーに押し付けると、もう、君は身動きすらできなくなった。
翼 「やめてください!小野瀬さん、やめてっっ、」
ほら、君の唇はもう俺の目の前だ。
純粋に君自身が欲しいのか、
俺を欲しがる君を嘲笑いたいのか・・・
もう、自分でもわからなくなった、その瞬間。
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