First Love *清香様からの頂き物
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「藍~!!準決勝進出なんてすごいね!それに胴着姿がカッコよくて惚れそう!」
「さやか、来てくれたんだ!ありがとう~♪」
合間に約束通り応援に駆けつけてくれた友人たちのもとへ行くと、準決勝まで進んだことをまるで自分のことのように喜んでくれていた。
「しかしすごいね。大学の代表ってこと?」
「いや、同じ大学から何人か出ているところもあるよ。うちの大学からは私だけってこと。」
「それでもすごいよね…。あれっ、そういえば藍のお父さんたちは来てないの?」
「……うん、まぁ、仕事が、ね?」
「また事件なの?」
「守秘義務があるから詳しくはわからないけれど、まぁそんな感じ?」
「…そっか。じゃあさ、終わったらご飯食べようね!藍のお誕生日会も優勝おめでとう会もしなきゃ!」
「もうっ!気が早いよ~!」
あえて明るく言ってくれるさやかの言葉と笑顔が嬉しくて、緊張していた身体から少しだけ力を抜くことができた気がする。
「じゃあ戻るね!がんばりまーす!」
「藍、ファイトだよ!私たちが付いてるからね!」
客席から選手の控室へ戻ろうと玄関ホールを横切ると、なんとなく懐かしいような、胸が温かくなるような香りがふわりと漂っていた。
しかしきょろきょろと周りを見渡しても、その香りの元を探すことなどできず、思い出せそうで思いだせないもどかしさに首をかしげてしまう。
「なんだっけ…、この香り。絶対知ってるんだよね、私。」
喉まで出かかってるような、うっすらと映像が見えているような気持ち悪さに必死に思い出そうとするものの、試合の時間は迫っていて係員に呼び出されてしまう始末で。
「やばっ!集中、集中!」
気合を入れなおすように『パンッ』っと両手で頬を叩き、背筋を伸ばして会場に入ると大きな声援が私を包んだ。
10000人は入る大道場には大勢のお客さんや関係者が詰めかけていて、さっきまでの人数とは比べ物にならないくらいの人の多さと声援は、思わず身体がすくんでしまうくらいの迫力だった。
緊張で震え出してくる手足を叱咤するように力を入れて、どうにか自分の試合までに集中をしようと深呼吸をするも、既に始まっているもう一つの試合の歓声に心が落ちつかなくなってしまう。
『こんな時にお父さんがいてくれたらな…。』
そんな甘えた気持ちが頭をよぎるものの、『毅然としなくちゃ』と俯いていた顔を上げて大きく息を吐こうとすると。
「…えっ?」
正座をしていたはずの腰が浮きあがり、出してはいないと思っていたはずの声が出ていたようで、隣にいた係員の人がギョッとした顔で私を見た。
「どうかしましたか?」
「あ、…いえ。何でもないです。すみません。」
そうは言ってみたものの、何でもなくは無かった。
遠目からでも分かる大きな身体に、サラサラの金色の髪。いつものように紺色のスーツに身を包んで、珍しく片手にキャリーバッグのような物を持ち、客席の最前列へと降りてくるのは、紛れもなく穂積のおじ様だった。
『何をしに来たのか。』
そう思いながらも2年ぶりに見るおじ様の姿から目を離せないでいると、最前列にたどり着き身を乗り出すように電光掲示板を見つめているその姿に、心が跳ねる。
『もしかして……応援に?』
都合のいい思いかもしれないけれど、そうであってくれるならこれ以上嬉しい事は無くて。
祈るような気持ちで見つめていると、掲示板を見終わり会場を見渡すおじ様と視線が重なったようで、思わず膝の上で握っていた手を小さく振ってしまった。
訝しげにこちらを見る係員の視線を避けるように、チラリと目線だけおじ様に向けると一度だけ手を軽く掲げてくれていて。
『あぁ、どうしよう!違う意味で心臓がバクバクいってる!!!』
ニヤけそうになる顔を隠すように面を着け、『ふうっ』と息を吐くと身体が予想以上に軽くなっている。
おじ様が来てくれたからなのだろう、正直な自分に苦笑いをしながらも心と身体は軽く、今なら何でも出来そうな、どんな相手でも勝てそうな最強の気分。
見守ってくれているあなたの為に、そしていつかあなたの隣に立てるよう、自分の為に。
「小野瀬 藍!」
「はいっ!」
『いつものようにやればきっとできる。』
お父さんがくれた言葉と、客席から身を乗り出すように見てくれているおじ様の視線が、私の背中を押してくれる。
「始めっ!」
大好きな二人の力をもらった私は、新たな「大人への第一歩」を踏みしめるのだった。
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