悪魔は天使に二度恋をする。 *清香様からの頂き物
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-Hozumi side-
「傍にいてやるから。」と言った言葉に安心したのか、再び眠りについた藍の髪をベッドサイドで撫でていると、慌ただしく駆けつけてくる足音が聞こえた。
開かれてドアから柑橘系の香りを漂わせて入ってきたのは、いつものような冷静さを欠いた小野瀬だった。
「…っ、穂積、藍は?藍は大丈夫なのかっ!」
「落ち着け、小野瀬。藍は大丈夫だ。足を滑らせて挫いただけで、他に怪我は無い。」
「………そうか、……よかった。」
さっきまでの俺のように、ベッドサイドで眠る藍の頬を撫でる小野瀬は心の底から安心した顔で、娘を愛してやまない父親の顔をしていた。
「小野瀬、ちょっといいか。」
寝ている藍を起こさないよう、俺は小野瀬を人のいなくなった談話室へと誘った。
自動販売機で買ったブラックコーヒーの缶を手渡して、どさりとソファーへと腰を下ろす。
「……危険な目に合わせて、すまなかった。」
「小笠原君から聞いたよ。あの子が自分から人質になるって名乗り出たんだろう?…藍らしいよ。」
目を瞑ると、あの時の光景が浮かび上がってくる。
銀色に光る銃口が藍に狙いを定めていた、あの光景を。
「小野瀬…。」
「だから、謝るな。あの子はどこまでもお前を守りたかったんだ。自分よりも、お前が大事だったんだよ、穂積。」
知ってる。
藍がいつも小野瀬の影から俺を見ていた事を。
その事に気が付きながらも、突っぱねていたことも。
何度藍は涙を流していたんだろう。
「…穂積、お前はどうしたいんだ?藍は本気だ。俺はあの子が幸せになれるなら…。」
「小野瀬。」
俺は小野瀬の腕を掴んで、真っ直ぐにアイツを見据えた。
その先は俺が言うから。
「…俺は藍が好きだ。」
「穂積…。」
小野瀬の目が見開かれた。
「ずっと自分の心から目を逸らしていた。人を好きになることなんて、もう無いだろうと思ってた。…それでも、もっとそばで笑顔が見たいと、幸せにしたいと思ったんだ。」
「あの子には…。」
「好きでいていいんですかって言われたよ。ずっと好きでいてくれたのにな。」
情けない自分に腹が立つ。
ずっと待たせて、最後には命まで賭けさせて。
それでも『好きでいていいんですか?』だなんて。
「…本当に俺達は馬鹿だな。」
俺の背中に小野瀬が手を乗せながら呟いた。
その眼はどこか遠くを見つめているようで。
「覚えているか?業平工業の爆破事件。あの時、翼は俺と一緒になら死んでもいいと言ってくれた。」
もちろん忘れるわけがなかった。
そう言って引かなかった翼の想いの強さに、圧倒されたからだ。
「藍はお前のために盾になろうとしたんだろう?」
震える小さな体で飛び出して行った藍。
あの背中を見た時、心臓が止まるかと思った。
「命を賭けてまで表現されないと、最後の一歩を踏み出せないなんてな。」
確かに。
翼も藍もあんなに強いのに、俺達はなんて弱虫だったんだろう。
「あぁ。本当に馬鹿だな。…でも、もう迷わない。」
顔を上げ、小野瀬の顔を正面から見た。
「必ず幸せにする。」
「当たり前だ。これ以上あの子を待たせたら、俺がお前を許さないからな。」
そう言いながら、ブラックコーヒーを一気に飲むと、小野瀬は千葉の翼の待つ病院へと戻って行った。
俺も藍の病室へと戻り、再びベッドサイドに腰かけると、眠る藍の手を握りしめる。
見つめた白い手から、昔の懐かしい記憶が蘇ってきた。
『おおきくなったらけっこんしようね。』
小さな藍と交わした約束。
「大きくなったらな…、か。」
何を以て人は大人になったって言えるんだろう。
そう思いながらも、俺は自分の小指をそっと絡めたのだった。
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「傍にいてやるから。」と言った言葉に安心したのか、再び眠りについた藍の髪をベッドサイドで撫でていると、慌ただしく駆けつけてくる足音が聞こえた。
開かれてドアから柑橘系の香りを漂わせて入ってきたのは、いつものような冷静さを欠いた小野瀬だった。
「…っ、穂積、藍は?藍は大丈夫なのかっ!」
「落ち着け、小野瀬。藍は大丈夫だ。足を滑らせて挫いただけで、他に怪我は無い。」
「………そうか、……よかった。」
さっきまでの俺のように、ベッドサイドで眠る藍の頬を撫でる小野瀬は心の底から安心した顔で、娘を愛してやまない父親の顔をしていた。
「小野瀬、ちょっといいか。」
寝ている藍を起こさないよう、俺は小野瀬を人のいなくなった談話室へと誘った。
自動販売機で買ったブラックコーヒーの缶を手渡して、どさりとソファーへと腰を下ろす。
「……危険な目に合わせて、すまなかった。」
「小笠原君から聞いたよ。あの子が自分から人質になるって名乗り出たんだろう?…藍らしいよ。」
目を瞑ると、あの時の光景が浮かび上がってくる。
銀色に光る銃口が藍に狙いを定めていた、あの光景を。
「小野瀬…。」
「だから、謝るな。あの子はどこまでもお前を守りたかったんだ。自分よりも、お前が大事だったんだよ、穂積。」
知ってる。
藍がいつも小野瀬の影から俺を見ていた事を。
その事に気が付きながらも、突っぱねていたことも。
何度藍は涙を流していたんだろう。
「…穂積、お前はどうしたいんだ?藍は本気だ。俺はあの子が幸せになれるなら…。」
「小野瀬。」
俺は小野瀬の腕を掴んで、真っ直ぐにアイツを見据えた。
その先は俺が言うから。
「…俺は藍が好きだ。」
「穂積…。」
小野瀬の目が見開かれた。
「ずっと自分の心から目を逸らしていた。人を好きになることなんて、もう無いだろうと思ってた。…それでも、もっとそばで笑顔が見たいと、幸せにしたいと思ったんだ。」
「あの子には…。」
「好きでいていいんですかって言われたよ。ずっと好きでいてくれたのにな。」
情けない自分に腹が立つ。
ずっと待たせて、最後には命まで賭けさせて。
それでも『好きでいていいんですか?』だなんて。
「…本当に俺達は馬鹿だな。」
俺の背中に小野瀬が手を乗せながら呟いた。
その眼はどこか遠くを見つめているようで。
「覚えているか?業平工業の爆破事件。あの時、翼は俺と一緒になら死んでもいいと言ってくれた。」
もちろん忘れるわけがなかった。
そう言って引かなかった翼の想いの強さに、圧倒されたからだ。
「藍はお前のために盾になろうとしたんだろう?」
震える小さな体で飛び出して行った藍。
あの背中を見た時、心臓が止まるかと思った。
「命を賭けてまで表現されないと、最後の一歩を踏み出せないなんてな。」
確かに。
翼も藍もあんなに強いのに、俺達はなんて弱虫だったんだろう。
「あぁ。本当に馬鹿だな。…でも、もう迷わない。」
顔を上げ、小野瀬の顔を正面から見た。
「必ず幸せにする。」
「当たり前だ。これ以上あの子を待たせたら、俺がお前を許さないからな。」
そう言いながら、ブラックコーヒーを一気に飲むと、小野瀬は千葉の翼の待つ病院へと戻って行った。
俺も藍の病室へと戻り、再びベッドサイドに腰かけると、眠る藍の手を握りしめる。
見つめた白い手から、昔の懐かしい記憶が蘇ってきた。
『おおきくなったらけっこんしようね。』
小さな藍と交わした約束。
「大きくなったらな…、か。」
何を以て人は大人になったって言えるんだろう。
そう思いながらも、俺は自分の小指をそっと絡めたのだった。
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