悪魔は天使に二度恋をする。 *清香様からの頂き物
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-藍 side-
そして懇親会当日。
ニーナ女王の護衛を務めるために宿泊しているホテルに再び赴くと、早速ドレスに着替えさせられた。防弾チョッキを下に着て、念の為に小型の22口径の拳銃と手錠を携帯し女王の元へと急ぐと。
「藍、良く似合うな!藍の可愛らしさが引き立つ!」
ご機嫌なニーナ女王にまたもや抱きしめられると、おじ様が私を強引に引きはがして、間に入ってきた。
「準備ができたなら結構。会場の見取り図は頭に入っているな?とにかく不審者がいないか目を光らせておけ。何かあったらすぐに知らせるように。いいな?」
直接警備に当たる藤守さんや明智さん、侍女として付き添う私に今一度おじ様は念を押した。
「ルイルイは一緒に来ないのか?」
「警察庁は警備の指導はできても、執行はあくまでも警視庁の警備部が行います。ただでさえ藤守や如月を他県警から呼んでるのに、これ以上職務領域を逸脱するわけにはいかないですからね。小笠原と共にモニターで不審者の監視をしていますよ。」
「そうか、それは残念だ。でも、頼んだぞ。」
そう言いながら部屋を出る女王の後ろを無線のイヤホンを着けながら付いて回ろうとすると、ポンっと大きな手が頭を撫でる。
「小野瀬、女王を頼んだぞ。」
「はい、お任せください。」
「あぁ。訓練通りだ。冷静にな。」
私の緊張を解すかのようにニッコリと笑うおじ様を見ているだけで、胸の奥が締めつけられたかのように苦しくなってしまう。
涙とともにおじ様へのこの想いも枯れてしまえばいいのにと思ったけれど、こうやって見つめてもらえるだけで嬉しくなってしまう自分の現金さが恨めしいくらいだ。
「藍、まだ終わらない?」
「女王、まだ始まったばかりですよ。」
「つまらん。」
「全てはトルキアの為ですよ。我慢してください。」
ニーナ女王の後ろに付きながら挨拶をしてくる財界の人々からの名刺を預かったり、グラスや食事を手渡したりと本当に侍女のように振舞いながらも明智さん、藤守さんとともに周りに目を光らせていた。
会場の至る所にいる警備部のSP達のおかげもあり、終始和やかに執り行われた懇親会もなんの問題無く終わりにさしかかろうとしていた。
ふと入り口に目をやると、どこかで見かけた事のある男性がゆっくりと辺りを見渡しながら入ってきた。
思い出せそうで思い出せないその顔に、首の後ろに電気が走ったような感覚がする。
「どうした、小野瀬?」
「…今入ってきた人にどこかで見覚えがあるんです。なんか…気になります。」
私の異変に気がついた明智さんが声を掛けてきてくれた。
「どの人物だ?」
「あそこのスーツの男性です。思い出せそうな気がするんですが…。」
「分かった。藍も翼のように、何か第6感みたいなものがあるのかもしれないな。小笠原に調べておいて貰おう。」
明智さんが無線越しに小笠原さんへ連絡をしている間に、私はもう一度男性へと目をやった。きちんとしたスーツに身を包んだ紳士は、にこやかに他の招待客と談笑していた。
彫りの深い顔立ちからしてトルキア周辺の東欧、中東からのビジネスマンのようなのだが、笑った目元が不自然に感じてしまうのは考え過ぎなのだろうか。
懇親会を仕切っていた司会者が再び壇上に上がり、会の終了を告げるためにマイクに手を伸ばしたのを横目に見ながら、如何にさっきの男性と近寄らないまま退出させる事が出来るか考えていると。
ジリリリィリリリリリリ…!
けたたましい火災報知機の音が会場中に鳴り響いた。
壇上の司会者が落ち着くようマイク越しに話をするものの、パニックになった人々の耳に届くはずもなく、出入口は人であっという間にごった返してしまう。
「明智、藤守、小野瀬、今のところ火の手は上がっていないようだ。いたずらの可能性もある。周囲に警戒しながらBルートで下まで降りろ、車を回しておく。落ち着いて行動しろよ。」
無線から聞こえてきた冷静なおじ様の声が、慌てふためく人々の声に釣られてしまいそうな心を落ち着かせてくれるようで。
頭の中の会場の見取り図を開き、明智さん・私・ニーナ女王・藤守さんと一列に並んで一般客とは離れた通路を通り裏口へと出る事が出来た。
そこにはすでにおじ様や如月さんもリムジンを回して待機していてくれ、姿が見えた時には少なからず安心できた。
開いたリムジンのドアにニーナ女王を押しこんで、他のメンバーとともに乗り込もうとすると
何か空気をつんざくような鋭い音が聞こえた。
「……!」
「藤守、車を出せ!」
思わず車のドアを閉めてしゃがみ込むと、おじ様の声に従うようにニーナ女王を乗せたリムジンは急発進をして走って行った。ゆっくりと音がした方を振り向くと、そこにいたのは先ほど会場で見かけた男性で。
手に持った拳銃の銃口がこちらを向いてるのが分かり、背筋に冷たいものが走る。
「Companions were arrested. Resistance is useless!(仲間は捕まったぞ。無駄な抵抗はやめろ。)」
無線から聞こえてきた『不審者2名確保。』という警備部からの報告を、同じように車に乗り遅れたおじ様が言うものの、犯人は銃口を私達へ向けたままニヤリと笑っていた。
「Officials of the police and the Queen? It looks like seek release of fellow is a good trade-off?(警察と女王の関係者か。どちらも仲間の解放を求めるには良い交換条件だと思うが?)」
独特な訛りを含んだ英語に、頭の中でパズルのピースが少しずつ組み合わされていくようで、じっと男の顔を見ていると何か足りない事に気がつく。
(…髭とターバン!!)
印象が強いからどうにか違いを見いだせないかと、穴があくほど外事で見続けていた中東で活動をするテロリストたちの手配写真。目の前にいる人物に豊かな髭とターバンを足せば、あの写真のように見えてくる。
「…局長、テロリストとして国際指名手配されている人物です。先月、トルキア国内で同じグループの仲間が逮捕されていたはずです。」
「チッ、厄介なお客様か…。小野瀬、下がってろ。」
怯える風を装っておじ様に近づき小声でそう伝えると、大きな背中が庇うように前へと一歩出た。すると銃口が再びこちらへと向いた。
「It's no good you have a suspicious movement. Give me a woman
here.(不審な動きをするな。女をこちらへ。)
」
「I'm better than this woman useful of you. 'Cause I'm great within the police organization.(こんなお嬢さんより俺の方が役に立つぞ。なんたって警察の中じゃ偉い方だからな。)」
「I need a quiet hostage.Not a middle man. (静かな人質がいるんだ。おっさんに用は無い。)」
「Don't say such a lonely thing. I also want to take
together.(そんなつれない事言うな。俺も連れて行ってくれよ。)」
「Shut up!Give me a woman here,right now!(黙れ。女をこちらへ寄こせ、今すぐにだ。)」
いつもどおりに話すおじ様とは反対に、男の語気に苛立ちが含まれ始めていた。
さっきの銃声と藤守さん達からの報告で会場内に残っている警備部の人々がいずれはやって来てくれるだろうが、これ以上の時間稼ぎは命取りになりかねないだろう。
身に付けた拳銃を取り出そうも、スカートを捲くっている間に撃たれてしまっては余計に危険だと、どうしようもない状況に今更ながら恐怖心が湧き上がってくる。
縋るように目の前の紺色のジャケットを掴むと、チラリと見えたのは最近見慣れるようになった警備部の特殊警棒だった。
おじ様のような警察庁の人間は本来こういった装備品を持たないはずなのに。
どんなに偉くなろうとも、こうやって身を挺してくれているおじ様のために何ができるのか。
あんなにも多くの人に慕われているおじ様を、こんな所で傷つけるわけにはいかないんじゃないか。
そう思うと、自然と言葉が口をついて出た。
「If I become a hostage, he will be release...isn't it?(私が人質になれば、彼を解放してくれる…そうよね?)
」
「Oh, natural. I'm glad that you understands the talk. (あぁ、もちろん。話の分かるお嬢さんで嬉しいよ。)」
笑いを浮かべながら手を伸ばしてくる男を真っ直ぐに見ながらおじ様の背中から半身だけ出ると、痛いくらい強い力で腕が掴まれる。
その相手は、もちろんおじ様で。
「何言ってるんだ、そんな話を聞くような輩じゃないだろう!もう少し待てば警備部の奴らが来る。それまで時間を稼ぐんだ!お前にもしもの事があったら、どうするんだ!」
その気持ちが、言葉が嬉しくて。
袖を引っ張って背伸びをして、そっとおじ様の頬にくちづけた。
「おじ様、大好きです。」
何度も喉まで出かかっていた言葉が、驚くほどすんなりと言えた嬉しさに思わず笑顔になってしまった。
もう、大丈夫。
さっきまでの恐怖心なんてどこに行ってしまったのかと思うくらい、頭の中は澄み切った青空のように晴れて冴えわたっていて。
男までの距離は約5m。特殊警棒は一番長くても90cmだ。一撃必殺なら勝機はあるはず。
3年前の学生最後の試合でもこれくらい冷静でいられたら優勝できたんじゃないかしら、と思える余裕すらできてくる。
今は胴着じゃなくてドレスを、防具じゃなくて防弾チョッキを、竹刀じゃなくて特殊警棒だけれど、狙うは手元、『小手』のみ。
ニッコリと笑顔のまま男に向き直ると、さっきより少しだけ銃口が下がっているようで。
今だ。
そっとおじ様の腰から特殊警棒を抜き取ると、ふんわりとしたスカートの影に隠して私は男へと駆け寄った。
おじ様が後ろで何か言っていた気がしたけれど、
特殊警棒が一番長く伸びた音と、
金属同士がぶつかる音と、
人々の怒号とで聞こえなくなっていた。
なぜだか踏ん張りの利かなくなった足元と、
ぐらりと揺れた視界に戸惑うも
温かな腕が地面にぶつかる直前に抱きとめてくれた。
薄れゆく意識の中で思ったのは、
パンプスは動きにくいなぁということと
拳銃の火薬の匂いはやっぱり好きになれないなぁ、ということだった。
.
そして懇親会当日。
ニーナ女王の護衛を務めるために宿泊しているホテルに再び赴くと、早速ドレスに着替えさせられた。防弾チョッキを下に着て、念の為に小型の22口径の拳銃と手錠を携帯し女王の元へと急ぐと。
「藍、良く似合うな!藍の可愛らしさが引き立つ!」
ご機嫌なニーナ女王にまたもや抱きしめられると、おじ様が私を強引に引きはがして、間に入ってきた。
「準備ができたなら結構。会場の見取り図は頭に入っているな?とにかく不審者がいないか目を光らせておけ。何かあったらすぐに知らせるように。いいな?」
直接警備に当たる藤守さんや明智さん、侍女として付き添う私に今一度おじ様は念を押した。
「ルイルイは一緒に来ないのか?」
「警察庁は警備の指導はできても、執行はあくまでも警視庁の警備部が行います。ただでさえ藤守や如月を他県警から呼んでるのに、これ以上職務領域を逸脱するわけにはいかないですからね。小笠原と共にモニターで不審者の監視をしていますよ。」
「そうか、それは残念だ。でも、頼んだぞ。」
そう言いながら部屋を出る女王の後ろを無線のイヤホンを着けながら付いて回ろうとすると、ポンっと大きな手が頭を撫でる。
「小野瀬、女王を頼んだぞ。」
「はい、お任せください。」
「あぁ。訓練通りだ。冷静にな。」
私の緊張を解すかのようにニッコリと笑うおじ様を見ているだけで、胸の奥が締めつけられたかのように苦しくなってしまう。
涙とともにおじ様へのこの想いも枯れてしまえばいいのにと思ったけれど、こうやって見つめてもらえるだけで嬉しくなってしまう自分の現金さが恨めしいくらいだ。
「藍、まだ終わらない?」
「女王、まだ始まったばかりですよ。」
「つまらん。」
「全てはトルキアの為ですよ。我慢してください。」
ニーナ女王の後ろに付きながら挨拶をしてくる財界の人々からの名刺を預かったり、グラスや食事を手渡したりと本当に侍女のように振舞いながらも明智さん、藤守さんとともに周りに目を光らせていた。
会場の至る所にいる警備部のSP達のおかげもあり、終始和やかに執り行われた懇親会もなんの問題無く終わりにさしかかろうとしていた。
ふと入り口に目をやると、どこかで見かけた事のある男性がゆっくりと辺りを見渡しながら入ってきた。
思い出せそうで思い出せないその顔に、首の後ろに電気が走ったような感覚がする。
「どうした、小野瀬?」
「…今入ってきた人にどこかで見覚えがあるんです。なんか…気になります。」
私の異変に気がついた明智さんが声を掛けてきてくれた。
「どの人物だ?」
「あそこのスーツの男性です。思い出せそうな気がするんですが…。」
「分かった。藍も翼のように、何か第6感みたいなものがあるのかもしれないな。小笠原に調べておいて貰おう。」
明智さんが無線越しに小笠原さんへ連絡をしている間に、私はもう一度男性へと目をやった。きちんとしたスーツに身を包んだ紳士は、にこやかに他の招待客と談笑していた。
彫りの深い顔立ちからしてトルキア周辺の東欧、中東からのビジネスマンのようなのだが、笑った目元が不自然に感じてしまうのは考え過ぎなのだろうか。
懇親会を仕切っていた司会者が再び壇上に上がり、会の終了を告げるためにマイクに手を伸ばしたのを横目に見ながら、如何にさっきの男性と近寄らないまま退出させる事が出来るか考えていると。
ジリリリィリリリリリリ…!
けたたましい火災報知機の音が会場中に鳴り響いた。
壇上の司会者が落ち着くようマイク越しに話をするものの、パニックになった人々の耳に届くはずもなく、出入口は人であっという間にごった返してしまう。
「明智、藤守、小野瀬、今のところ火の手は上がっていないようだ。いたずらの可能性もある。周囲に警戒しながらBルートで下まで降りろ、車を回しておく。落ち着いて行動しろよ。」
無線から聞こえてきた冷静なおじ様の声が、慌てふためく人々の声に釣られてしまいそうな心を落ち着かせてくれるようで。
頭の中の会場の見取り図を開き、明智さん・私・ニーナ女王・藤守さんと一列に並んで一般客とは離れた通路を通り裏口へと出る事が出来た。
そこにはすでにおじ様や如月さんもリムジンを回して待機していてくれ、姿が見えた時には少なからず安心できた。
開いたリムジンのドアにニーナ女王を押しこんで、他のメンバーとともに乗り込もうとすると
何か空気をつんざくような鋭い音が聞こえた。
「……!」
「藤守、車を出せ!」
思わず車のドアを閉めてしゃがみ込むと、おじ様の声に従うようにニーナ女王を乗せたリムジンは急発進をして走って行った。ゆっくりと音がした方を振り向くと、そこにいたのは先ほど会場で見かけた男性で。
手に持った拳銃の銃口がこちらを向いてるのが分かり、背筋に冷たいものが走る。
「Companions were arrested. Resistance is useless!(仲間は捕まったぞ。無駄な抵抗はやめろ。)」
無線から聞こえてきた『不審者2名確保。』という警備部からの報告を、同じように車に乗り遅れたおじ様が言うものの、犯人は銃口を私達へ向けたままニヤリと笑っていた。
「Officials of the police and the Queen? It looks like seek release of fellow is a good trade-off?(警察と女王の関係者か。どちらも仲間の解放を求めるには良い交換条件だと思うが?)」
独特な訛りを含んだ英語に、頭の中でパズルのピースが少しずつ組み合わされていくようで、じっと男の顔を見ていると何か足りない事に気がつく。
(…髭とターバン!!)
印象が強いからどうにか違いを見いだせないかと、穴があくほど外事で見続けていた中東で活動をするテロリストたちの手配写真。目の前にいる人物に豊かな髭とターバンを足せば、あの写真のように見えてくる。
「…局長、テロリストとして国際指名手配されている人物です。先月、トルキア国内で同じグループの仲間が逮捕されていたはずです。」
「チッ、厄介なお客様か…。小野瀬、下がってろ。」
怯える風を装っておじ様に近づき小声でそう伝えると、大きな背中が庇うように前へと一歩出た。すると銃口が再びこちらへと向いた。
「It's no good you have a suspicious movement. Give me a woman
here.(不審な動きをするな。女をこちらへ。)
」
「I'm better than this woman useful of you. 'Cause I'm great within the police organization.(こんなお嬢さんより俺の方が役に立つぞ。なんたって警察の中じゃ偉い方だからな。)」
「I need a quiet hostage.Not a middle man. (静かな人質がいるんだ。おっさんに用は無い。)」
「Don't say such a lonely thing. I also want to take
together.(そんなつれない事言うな。俺も連れて行ってくれよ。)」
「Shut up!Give me a woman here,right now!(黙れ。女をこちらへ寄こせ、今すぐにだ。)」
いつもどおりに話すおじ様とは反対に、男の語気に苛立ちが含まれ始めていた。
さっきの銃声と藤守さん達からの報告で会場内に残っている警備部の人々がいずれはやって来てくれるだろうが、これ以上の時間稼ぎは命取りになりかねないだろう。
身に付けた拳銃を取り出そうも、スカートを捲くっている間に撃たれてしまっては余計に危険だと、どうしようもない状況に今更ながら恐怖心が湧き上がってくる。
縋るように目の前の紺色のジャケットを掴むと、チラリと見えたのは最近見慣れるようになった警備部の特殊警棒だった。
おじ様のような警察庁の人間は本来こういった装備品を持たないはずなのに。
どんなに偉くなろうとも、こうやって身を挺してくれているおじ様のために何ができるのか。
あんなにも多くの人に慕われているおじ様を、こんな所で傷つけるわけにはいかないんじゃないか。
そう思うと、自然と言葉が口をついて出た。
「If I become a hostage, he will be release...isn't it?(私が人質になれば、彼を解放してくれる…そうよね?)
」
「Oh, natural. I'm glad that you understands the talk. (あぁ、もちろん。話の分かるお嬢さんで嬉しいよ。)」
笑いを浮かべながら手を伸ばしてくる男を真っ直ぐに見ながらおじ様の背中から半身だけ出ると、痛いくらい強い力で腕が掴まれる。
その相手は、もちろんおじ様で。
「何言ってるんだ、そんな話を聞くような輩じゃないだろう!もう少し待てば警備部の奴らが来る。それまで時間を稼ぐんだ!お前にもしもの事があったら、どうするんだ!」
その気持ちが、言葉が嬉しくて。
袖を引っ張って背伸びをして、そっとおじ様の頬にくちづけた。
「おじ様、大好きです。」
何度も喉まで出かかっていた言葉が、驚くほどすんなりと言えた嬉しさに思わず笑顔になってしまった。
もう、大丈夫。
さっきまでの恐怖心なんてどこに行ってしまったのかと思うくらい、頭の中は澄み切った青空のように晴れて冴えわたっていて。
男までの距離は約5m。特殊警棒は一番長くても90cmだ。一撃必殺なら勝機はあるはず。
3年前の学生最後の試合でもこれくらい冷静でいられたら優勝できたんじゃないかしら、と思える余裕すらできてくる。
今は胴着じゃなくてドレスを、防具じゃなくて防弾チョッキを、竹刀じゃなくて特殊警棒だけれど、狙うは手元、『小手』のみ。
ニッコリと笑顔のまま男に向き直ると、さっきより少しだけ銃口が下がっているようで。
今だ。
そっとおじ様の腰から特殊警棒を抜き取ると、ふんわりとしたスカートの影に隠して私は男へと駆け寄った。
おじ様が後ろで何か言っていた気がしたけれど、
特殊警棒が一番長く伸びた音と、
金属同士がぶつかる音と、
人々の怒号とで聞こえなくなっていた。
なぜだか踏ん張りの利かなくなった足元と、
ぐらりと揺れた視界に戸惑うも
温かな腕が地面にぶつかる直前に抱きとめてくれた。
薄れゆく意識の中で思ったのは、
パンプスは動きにくいなぁということと
拳銃の火薬の匂いはやっぱり好きになれないなぁ、ということだった。
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