悪魔は天使に二度恋をする。 *清香様からの頂き物
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-Hozumi side-
女王の来日の前に、どうしても小野瀬には聞いておきたい事があった。
ちょうど警視庁に会議で来るから良いタイミングだとは思ったんだが、親子の時間を少なからず邪魔するようになってしまって藍には申し訳無いと思っている。
「なぁ、小野瀬。」
「なんだよ、穂積。真剣な顔をして。」
藍が車を取りに行っている間に俺は意を決して聞いた。
「翼はどうしてる?」
「…あぁ、元気にしているよ。ずっと取り組んできた生物学的個人識別、顔認識プログラムがやっと捜査に導入できそうなところまで来てるからね。忙しくて大変だ。」
「……本当か?」
「何言ってるんだよ、当たり前じゃないか。」
そう言いながらも少しだけ小野瀬の眼が曇るのを俺は見逃さなかった。
「もう一度聞く。…翼はどうしてる?」
「……。」
「あれだけ翼に執着していたニーナ女王が、俺達を呼んで翼を呼ばないなんておかしすぎる。何かあったんじゃないのか?」
「……あぁ。やっぱりお前には隠し通せないか。」
重いため息を吐きながら小野瀬が観念したかのように話し始めた。
「最初は疲れが溜まっていたんだと思ってたんだ。ちょうど健康診断もあるから検査をしたら……、胃に腫瘍ができていた。病理検査では陰性だったが、…な。」
「今は?」
「入院中。明日から精密検査と、必要なら内視鏡で切除してもらうつもりだ。」
「藍には伝えたのか?」
「…いや、仕事に集中してほしいと翼から口止めされていてね。あの子は知らないはずだ。」
「そうか…。」
「もし、もし万が一ガンだとしても早期なら5年後の生存率は91.2%だ。きっと大丈夫だ。…きっと。」
自分に言い聞かせるように呟く小野瀬の声に、なんて言葉をかけていいのか分からないでいるとバーのドアが開いて藍が戻ってきた。
重なった小野瀬との視線を解くと、不思議そうにこちらを見る藍に笑顔を向ける。
「お父さんにおじ様も、どうしたんですか?真剣な顔をして。」
「いや、なんでもない。…そうだ、今日の支払いは俺がする。藍がうちに奉公に来てくれるんだからな。」
「「えっ!」」
「年季があけるまでしっかり働くんだぞ、藍?」
「お、お父さん、もしかして私、売られてる?」
「いや、そんなつもりは無い!おい、穂積!お前、また悪徳商人になってるぞ!」
慌てる二人を横目に笑いながら手早く支払いを済ませて外に出ると、ひんやりとした夜風が少しずつ頭を冷静にさせてくれた。
遅れて出てきた小野瀬の運転で藍を寮まで送ると、遠ざかっていく藍の背中を見送りながら再び小野瀬が呟く。
「なぁ、穂積。…藍をよろしく頼む。」
「何言ってんだ、今更。今回の任務も警備部がメインで護衛はするし、俺達は子守のようなもんだ。そんなに心配する事無い。」
「もちろん分かってる。それでも、だ。」
頭を下げる小野瀬の顔にいつもの柔らかな笑みなんて欠片もなかった。
多感な時期を複雑な家庭で過ごした小野瀬が、やっと手に入れられた『家族』という名の安らぎ。
それが少しずつ揺らぎかけている現実に、コイツは真剣に向き合っていたからだった。
「俺は当たり前のように翼や藍に見送って貰えると思っていた。…人の人生の終わりがどこかだなんて分からないって、昔はあれほど目の当たりにしてきたのにな。」
立場が変わってどんどん現場から離れてきた俺達は、どこか現実から遠ざかってしまったんだろうか。
「この幸せを手放したくないんだ。そのためなら、どんな困難があったって構わない。この命がある限り守るだけだ。」
己の手を見つめながら自分に言い聞かすように話す小野瀬の言葉に、俺は何も答える事が出来ずに窓から空を見上げた。
厚い雲に覆われて月は隠れていたが、パッと視界に入ったのは点いたばかりの寮の部屋の電気で。
カーテンからうっすらと漏れた光は暗い夜空を優しく照らしていたのだった…。
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女王の来日の前に、どうしても小野瀬には聞いておきたい事があった。
ちょうど警視庁に会議で来るから良いタイミングだとは思ったんだが、親子の時間を少なからず邪魔するようになってしまって藍には申し訳無いと思っている。
「なぁ、小野瀬。」
「なんだよ、穂積。真剣な顔をして。」
藍が車を取りに行っている間に俺は意を決して聞いた。
「翼はどうしてる?」
「…あぁ、元気にしているよ。ずっと取り組んできた生物学的個人識別、顔認識プログラムがやっと捜査に導入できそうなところまで来てるからね。忙しくて大変だ。」
「……本当か?」
「何言ってるんだよ、当たり前じゃないか。」
そう言いながらも少しだけ小野瀬の眼が曇るのを俺は見逃さなかった。
「もう一度聞く。…翼はどうしてる?」
「……。」
「あれだけ翼に執着していたニーナ女王が、俺達を呼んで翼を呼ばないなんておかしすぎる。何かあったんじゃないのか?」
「……あぁ。やっぱりお前には隠し通せないか。」
重いため息を吐きながら小野瀬が観念したかのように話し始めた。
「最初は疲れが溜まっていたんだと思ってたんだ。ちょうど健康診断もあるから検査をしたら……、胃に腫瘍ができていた。病理検査では陰性だったが、…な。」
「今は?」
「入院中。明日から精密検査と、必要なら内視鏡で切除してもらうつもりだ。」
「藍には伝えたのか?」
「…いや、仕事に集中してほしいと翼から口止めされていてね。あの子は知らないはずだ。」
「そうか…。」
「もし、もし万が一ガンだとしても早期なら5年後の生存率は91.2%だ。きっと大丈夫だ。…きっと。」
自分に言い聞かせるように呟く小野瀬の声に、なんて言葉をかけていいのか分からないでいるとバーのドアが開いて藍が戻ってきた。
重なった小野瀬との視線を解くと、不思議そうにこちらを見る藍に笑顔を向ける。
「お父さんにおじ様も、どうしたんですか?真剣な顔をして。」
「いや、なんでもない。…そうだ、今日の支払いは俺がする。藍がうちに奉公に来てくれるんだからな。」
「「えっ!」」
「年季があけるまでしっかり働くんだぞ、藍?」
「お、お父さん、もしかして私、売られてる?」
「いや、そんなつもりは無い!おい、穂積!お前、また悪徳商人になってるぞ!」
慌てる二人を横目に笑いながら手早く支払いを済ませて外に出ると、ひんやりとした夜風が少しずつ頭を冷静にさせてくれた。
遅れて出てきた小野瀬の運転で藍を寮まで送ると、遠ざかっていく藍の背中を見送りながら再び小野瀬が呟く。
「なぁ、穂積。…藍をよろしく頼む。」
「何言ってんだ、今更。今回の任務も警備部がメインで護衛はするし、俺達は子守のようなもんだ。そんなに心配する事無い。」
「もちろん分かってる。それでも、だ。」
頭を下げる小野瀬の顔にいつもの柔らかな笑みなんて欠片もなかった。
多感な時期を複雑な家庭で過ごした小野瀬が、やっと手に入れられた『家族』という名の安らぎ。
それが少しずつ揺らぎかけている現実に、コイツは真剣に向き合っていたからだった。
「俺は当たり前のように翼や藍に見送って貰えると思っていた。…人の人生の終わりがどこかだなんて分からないって、昔はあれほど目の当たりにしてきたのにな。」
立場が変わってどんどん現場から離れてきた俺達は、どこか現実から遠ざかってしまったんだろうか。
「この幸せを手放したくないんだ。そのためなら、どんな困難があったって構わない。この命がある限り守るだけだ。」
己の手を見つめながら自分に言い聞かすように話す小野瀬の言葉に、俺は何も答える事が出来ずに窓から空を見上げた。
厚い雲に覆われて月は隠れていたが、パッと視界に入ったのは点いたばかりの寮の部屋の電気で。
カーテンからうっすらと漏れた光は暗い夜空を優しく照らしていたのだった…。
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