花束
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穂積
「ただいま」
まもなく定時、という時刻になって、今日はキャリア研修として他県に出張していた室長が、帰って来た。
全員
「お帰りなさい」
明智
「お疲れ様でした」
立ち上がって出迎えた明智さんに、出張鞄と、お土産らしい紙袋とを差し出しながら、室長が首を傾げた。
穂積
「……何か、この部屋、不思議な匂いがするわね」
翼
「はい。実は、皆さんが私に……」
藤守さんのポーチュラカから順に、花瓶が埋まっていった経緯を説明していくと、室長は、私の机の上の不思議な花束を見ながら、徐々に複雑な表情になっていった。
翼
「……と、いうわけなのです」
穂積
「へえ……。どうりで面白い花の組み合わせだと思ったわ」
私が説明を終えると、室長は、室内にいるメンバーを温かい眼差しで見渡してから、私の頭を撫でた。
穂積
「良かったわね、櫻井。皆から大事にされて、幸せね」
翼
「はい」
本当に、心からそう思った。
すると。
明智
「……あれ?……室長、お土産の紙袋の中に、何か……これ、何ですか?」
穂積
「あっ」
振り返った室長が止めようとするより早く、明智さんに代わって、小野瀬さんが室長の鞄を手にしていた。
穂積
「こら、小野瀬!」
珍しく、室長が焦っている。
鞄の中身を確かめた小野瀬さんが、私に向かって、意味ありげなウインクをした。
小野瀬
「櫻井さん、きみを大事に思っているのは、どうやら穂積も同じようだよ」
翼
「え?」
小野瀬
「はい、これ」
小野瀬さんが紙袋から取り出したのは、空気を入れて膨らませたビニール袋。
さらにその中に入っていたのは、根元に小さなボトルの付いた、一本の白いガーベラ。
小野瀬
「たぶん、研修先で、発表者である印に、主催者から着けられた襟章だよ。今までなら捨てて来ちゃうのを、わざわざ持ち帰ってきたんだ」
翼
「私に?」
室長の顔は真っ赤だ。
穂積
「……小野瀬てめえ、覚えてろよ……」
室長は唸るように呟くと、私の手にあるビニール袋の口を開いて、ガーベラを取り出してくれた。
穂積
「ほら」
翼
「ありがとうございます」
大輪のガーベラが入って、花瓶はちょうどいっぱいになった。
翼
「皆さん、本当に、ありがとうございます!」
立ち上がり、全員に向かってお礼を言うと、みんな照れ臭そうな顔をして、頷いてくれた。
なんだか、じわりと涙が出そう。
ふと、一歩足を踏み出した室長が、私の耳元に顔を寄せて、囁いた。
穂積
「これからも今まで通りに頑張れば、その花が全部枯れる前に、ワタシが次の花束をあげるわよ」
翼
「え……」
穂積
「なんなら職場以外でも」
低い声で思いがけない言葉を吹き込まれて、どきん、と胸が高鳴る。
如月
「あーっ、室長、抜け駆けはズルいですよ!」
小野瀬
「そうだよ穂積。ここは平等に、順番を決めよう」
藤守
「ほなジャンケンや。いや、『あっち向いてホイ』や!」
明智
「『最強の男決定戦』で」
小笠原
「『山手線卓球』で」
私を囲んでみんなの議論が白熱してゆくのを見ているうちに、何故か、だんだん、笑いが込み上げてきてしまった。
笑ってはいけないとは思いながらも、可笑しくて、楽しくて、嬉しくて。
翼
「うふっ……あははは!」
急に笑い出した私に、みんなは一瞬きょとんとした顔を見合わせたものの、すぐに、つられて噴き出す。
「あはははははっ!」
捜査室の中が笑い声で溢れた。
翼
「室長、私、頑張ります」
交通課から捜査室の刑事に引き抜かれて、無我夢中でやってきたけれど。
決して無駄な時間ではなかった事を、こうして教えてくれる人たちがいる。
私だけの花束という形に変えて、言葉よりも雄弁に。
翼
「これからも、頑張ります!」
深々とお辞儀をしてから顔を上げて、私は花瓶ごと、花束を胸に抱き締めた。
穂積
「……本っ当に、アホの子ねえ」
翼
「ううう、すみません」
小笠原
「アザミを入れた俺が悪かった」
小野瀬
「俺もだよ。バラのトゲぐらい取っておくべきだった」
翼
「いえ、トゲがあるのは知ってたんですから、私が悪いんです」
如月
「翼ちゃんて、しっかりしてるのに意外とそそっかしいとこもあるよね」
明智
「いいからほら動くな、消毒しておく」
翼
「ううう」
みんなに囲まれて手当てを受けている私を輪の外から腕組みで見つめて、室長が笑いながら溜め息をついた。
穂積
「だから放っておけないのよねえ」
みんなが一斉に笑った。
……はい。
本当に、まだまだ頑張らないといけないようです。
~END~
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