スーパー銭湯に行こうよ
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事の発端は如月のひとこと。
如月
「ねー、今日、終業後に、皆で銭湯に行きませんか?」
藤守
「はぁ?唐突に何を言い出すねん、お前は」
明智
「だいいち、今どき銭湯か?どこにあるのか俺は知らんぞ」
報告書を作成している藤守と明智が、それぞれのPCのキーボードを打つ手を休めずに返事をする。
如月
「違いますよぅ。『スーパー銭湯』です。日帰り温泉です!」
如月は、引き出しから取り出した、数枚の長細い紙のような物を振り回した。
如月
「今日、外回りの途中でもらったんです!オープン1周年の感謝祭で、このチケットを持っていけば、1人100円で温泉に入れるんですー!」
100円、という言葉に、藤守が反応した。
藤守
「100円て安過ぎやろ」
席を立ってきて、如月の持つチケットを覗き込む。
如月
「路上で配り始めたところへ、たまたま通りかかったんです。本当に100円ですよ、ホラ!」
藤守
「ホンマや」
藤守がノッてきてくれたのに気をよくして、如月はさらに粘った。
如月
「ねっ、ねっ!明智さんも見て下さいよ!」
明智
「お前たち、脱線してばかりだな。室長が来るまでに報告書を仕上げないと、また叱られるぞ」
そう言って、明智は軽やかにキーボードを叩いた。
プリンタが微かな唸りを上げて、明智がたった今書き上げた報告書を吐き出す。
明智
「……俺は完成だ」
藤守と如月の感嘆の声を背に、明智は軽く首を回してから立ち上がり、書類をクリップで留めてから、室長の机の上に置いた。
待ち構えていた如月が、明智に見せようとチケットを差し出す。
明智
「へえ、普段は終日券1,500円、3時間500円。これが100円なら、確かに得だな」
如月
「でしょ、でしょ!ねっ、翼ちゃんもお得だと思うでしょ!」
笑顔の如月に同意を求められて、櫻井は頷く。
翼
「はい。そこ、半年ほど前に一度、友人と行った事があります。10種類以上のお風呂やプールもあって、広いし、楽しかったですよ」
如月
「ホラ!ねーっねーっ!」
だが、この時、藤守は思っていた。
藤守
(100円て……俺が室長に買われた値段と同じやん。
せやから俺、100円の品物には、何故か親近感を持ってしまうねんな。
けどなあ。
風呂はええけど、プールはあかんやろ?!
そんな場所へ行ったら、如月あたりが「藤守さん!せっかくですからプールにも行ってみましょうよ!」なんて言い出してやな。
俺泳げへんやん。
それを知ってて、アイツがまた「えー?もしかして藤守さんて泳げないんですかあ?スポーツ万能なのにイ」なんて言いよんねん。
しかも周りに聞こえよがしに。
そしたら、櫻井にまで笑われてまうやん。
……あ、でも、櫻井の水着姿が見られるのはちょっとレアな機会やな。
でもなあ……
ああ、悩むで……)
そんな藤守の様子を眺めながら、明智は思った。
明智
(藤守のやつ、プールと聞いて悩んでるんだな。
前に、泳ぎが苦手だと言っていたからな、気の毒に。
しかし、終業後に風呂か……皆で行くなら参加したいが……
うちの場合は、飢えた姉たちが家で待っているからな。
あのゴーゴン3姉妹が、せめて、自分たちの夕飯ぐらい自分たちで作って食べてくれたらいいのに。
俺が甘やかしたのがいけなかったのかもしれないが、いつまでも……、あっ、今日は18時から、スーパーの精肉コーナーの特売じゃないか。
しかし、職場の付き合いが……
特売が……
ううむ、悩む……)
藤守と明智の反応を見ながら、櫻井は思った。
翼
(二人とも、行きたいみたいだけど、何だか複雑な表情だなあ。
私はどうしよう……
実は今朝から女の子の日になっちゃって……
だから、お風呂もプールも入れないのよね。
マッサージやエステなら大丈夫だから、一緒に行くだけならいいんだけど。
私は女湯だから、お風呂には入らなくてもごまかせるけど、プールは困る。
みんなに「どうしてプールに入らないの?」なんて聞かれたらどうしよう。
捜査室の男の人たちにそんな理由を言うなんて、恥ずかしくて死んじゃう。
でも、ああ、ワクワクしている如月さんの笑顔が眩しい。
ううん。
悩んじゃうなあ……)
4人の会話が上滑りになった頃、タイミングよく扉が開いて、穂積と小野瀬が入って来た。
穂積
「ただいま」
小野瀬
「何だか盛り上がってるね?」
如月
「あっ、室長。小野瀬さんも、お帰りなさい!」
早速、如月が2人にチケットを見せる。
小野瀬
「へえ、温泉。たまにはいいね」
だが、言ってしまってから小野瀬は思い出した。
小野瀬
(あ、ヤバいヤバいヤバい。
昨日は早く仕事が終わって、だから、久し振りに女の子からのお誘いを受けちゃったんだよね。
しかも、「たまにはこんな趣向はどう?」なんて言って、お互いの身体じゅうにキスマークを付け合って遊んじゃって。
服を着れば見えないような場所ばかりだけど、さすがに風呂はまずい。
それなのに、つい行きたいような反応しちゃったよ。
どうしよう。
穂積、何とかしてくれないかなあ。
うわあ。
悩ましいなあ……)
小野瀬の心の叫びを知ってか知らずか、穂積は横で如月が熱心に勧めるのを聞きながら、手渡されたチケットを眺めていた。
穂積
「ふうん。ずいぶんお得ね。ワタシ、今ちょうど、逮捕術の指導で汗をかいたから……」
が、穂積は思った。
穂積
(おっと、ダメだ。
翼が『あの日』になるとしばらくご無沙汰になるからって、昨夜、スーパー接待してやったんだ。
さんざん啼かせてとろかして、気を失うまでイかせてやったけど、おかげで、背中の爪跡が半端ない。
さっき更衣室の鏡で見たら、まだくっきり真っ赤で生々しかった。
見られたところで俺は全然構わないが、翼が照れて恥ずかしがって、当分シてくれなくなったら困る。
まずいな。
悩むところだ……)
穂積
「……汗をかいたから、道場でシャワー浴びてきちゃったのよね!」
うーん、残念!と、穂積は派手に唸ってみせた。
離れた場所にいる翼も、穂積の事情を察して激しく頷いている。
穂積
「そうだ、如月!アンタ5月5日が誕生日よね!その日に行きましょうか?」
小野瀬
「あ、それいいね。いつも居酒屋だし、温泉での誕生会もいいんじゃない?」
小野瀬もすぐさま同意する。
翼
「私も賛成です。そしたら水着も準備して来られますし(『あの日』も終わるし)」
明智
「ゴーゴンたちには、調理しなくても食べられる夕飯を用意して来ればいいしな」
藤守
「チケットの有効期限は、10日まであるんやろ?」
次々に畳み掛けられて、如月の方が押されぎみになる。
別に、日にちの変更を断る理由もない。
如月自身、何がなんでも今日行きたい、というわけではないのだから。
如月は思った。
如月
(もらったチケットで、何気なく誘ってみたのに。
みんな意外と乗り気になってくれたみたいで嬉しいな。
室長が俺の誕生日を覚えていてくれたのも嬉しいし。
藤守さんや翼ちゃんとプールなんて楽しそうだし。
今から予定しておけば、小野瀬さんも都合つけて参加してくれるだろうし、明智さんはきっとケーキ焼いてきてくれるよね。
誕生日にみんなで温泉なんて楽しみだな!)
如月
「ハイ!俺、それでいいでーす!」
如月の笑顔に、全員から安堵の溜め息と笑顔が漏れる。
穂積
「じゃあ、それで決まりね」
如月
「室長、おごってくれますかぁ?」
穂積
「如月の分はね。いいわよ」
如月
「やったあ!」
小笠原は思う。
小笠原
(……俺、最初からずっといたんだけど、どうして誘われなかったのかな?
付き合いが悪いから行かないと思われたのかな?
俺、風呂が嫌いだと思われてるのかな?
室長に言われた通り、腹筋も背筋も鍛えてるから、別に裸は恥ずかしくないよ。
まあ、どうでもいいけどさ……)
如月
「小笠原さん、はい!」
小笠原
「え、何?」
目の前に差し出されたチケットに、小笠原は目を白黒させた。
如月
「何って、やだなあ。温泉のチケットですよ。最初から、話、聞いてたでしょ?」
小笠原
「え」
如月
「これ、小笠原さんの分ですから!」
如月は相変わらずニコニコしながら、最後の櫻井にチケットを手渡しに行く。
小笠原は何となくくすぐったい思いで、如月の背中を見送った。
そのついでに、穂積がそんな自分に笑顔を向けている事に気付いて、赤面する。
穂積
「さあ、そうと決まれば仕事、仕事!ゴールデンウィークといえば交通安全教室!5日の温泉まで、張り切って働くわよ!」
全員
「イェッサー、ボス!」
~END~