冬の鉄道捜査線
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穂積室長と霞ヶ関駅
~翼vision~
3月21日。
昼休み、私は、穂積室長とともに、霞ヶ関駅に来ていた。
昨日は報道や献花で多くの人が訪れていた慰霊碑の前も、今日はいつもの静かさを取り戻しているようだ。
室長に倣って手を合わせ、瞑目する。
そうすると、既に二十年近い歳月が流れているのに、あの時、TV画面から受けた衝撃がまざまざと蘇ってくるようだった。
上空のヘリコプターが捉えた、首都東京の異変は、幼かった私の心にも、忘れられない傷を残した。
いつも、買い物に行く母に手を引かれて見た駅の光景は、一瞬にして別の世界のようになっていた。
数えきれないほどの緊急車輌、完全に麻痺した交通網。道路にまで溢れた負傷者。
なかなか連絡のとれない父。
怖くて怖くて、ひたすら母にしがみついている事しか出来なかった。
あの時とは違い、今の私は、警察官として、人々を守る側になった。
でも、もしも、今、この瞬間に同じ事が起きたとしたら、いったい何が出来るだろうか。
無差別の狂気と向かい合った時、私はこの殉職した駅員の方々のように、命をかけて職務を全う出来るのだろうか。
そんな事を思いながら目を開くと、室長はまだ合掌し、瞑目していた。
私が動いたのに気付いたのか室長は瞼を開き、慰霊碑に深く一礼すると、半歩足を引いてから、身体の向きを変えた。
穂積
「戻るか」
翼
「はい」
室長は私よりも年上で、事件当時の記憶もより鮮明なのだろうと思った。
警察官としての立場も上だし、私とはまた違う思いで、あの場所に手を合わせたに違いなかった。
さっきまでの自分自身への問いかけに答えの出なかった私は、だからつい、彼に訊いてしまったのだった。
翼
「もしも、今この瞬間に同じ事件が起きたら、室長はどうしますか?」
室長は答えなかった。
ただ足を止め、私を見た。
その顔は真剣で、悲しげで、怒りを含んでさえいるように見えた。
長い沈黙の後、室長は私を睨んだまま、絞り出すように呟いた。
穂積
「二度と、俺に、その質問をするな」
それ以上の会話を拒むように、室長は私に背を向けた。
置き去りにされて、私は、謝る事も後を追う事も忘れて、立ち尽くした。
いつもなら私に歩調を合わせ、居場所を確かめながら歩いてくれる室長が、今は振り向きもしなかった。
どうして、怒らせてしまったんだろう。
何がそんなに、気に障ったんだろう。
いつも優しい室長の逆鱗に触れてしまった、その理由が分からず、私は途方に暮れるしかなかった。
泣き出してしまいたかったけれど、午後の仕事がある。
私は室長の姿の消えた通路に、引き摺るようにして、足を踏み出した。