冬の鉄道捜査線
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如月さんと有楽町線
~翼vision~
改札を警察手帳で抜けてホームへ向かいながら、如月さんが鼻歌を歌っている。
如月
「ふふふふん、ふふん、ふふふふん、ふふん……」
短いメロディを繰り返しているように聴こえるけど、何の曲か私には分からない。
翼
「ご機嫌ですね、如月さん?」
如月
「そりゃあね、翼ちゃんと組んで捜査だもん」
いつものようにニコニコ笑って、如月さんが嬉しい事を言ってくれる。
彼とお付き合いを始めてもうかなり経つけど、ずっと変わらずに、こうして好きだとアピールしてくれるのが幸せ。
また鼻歌が始まったので、私も真似をしてみた。
「ふふふふん、ふふん、ふふふふん、ふふん……」
如月
「翼ちゃん、これ、何の曲か分かる?」
翼
「え?いいえ」
私が首を横に振ると、如月さんは一瞬、悲しそうな顔をした。
如月
「やっぱり?今朝、明智さんも、小笠原さんも、藤守さんまで分かってくれなかったんだよなあ」
翼
「ごめんなさい。有名な曲?」
如月
「いいよ、もう。それより、行こっ」
歩く速度を速めた如月さんにぎゅっ、と手を引かれて、それで、この話は終わりになってしまった。
桜田門駅の乗客は、圧倒的にスーツ姿が多い。
そしてここで最近多発している犯罪は、刃物による傷害だった。
手のひらに収まるほどの小さな刃物で、通りすがりに手や脚に傷を付けられる。
犯人らしき人物が何人か、駅の出入り口付近で防犯カメラに捉えられているが、まだ絞りこまれていない。
私と如月さんは今朝も、疑いのある数人の男女の映像を、そっくり頭の中にインプットしてきた。
翼
「通勤、帰宅のラッシュ時からは、微妙に外れた時間帯なんですよね」
如月
「犯行時刻からは、犯人の狙いは分からないな。でも、先に捕まえた、スリや恐喝の連中は、過去に警察に捕まった事を逆恨みしての犯行だった」
如月さんは真剣な顔になった。
如月
「今回は刃物を持った相手だよ。翼ちゃん、想定訓練は受けているよね?」
翼
「はい」
私が緊張した面持ちで返事をすると、如月さんは、いつもの柔らかい表情に戻った。
如月
「大丈夫。翼ちゃんは俺が守るから。絶対」
私は胸が苦しくなった。
そんな事を言われたら、かえって不安になってしまう。
翼
「如月さんの柔道には及びませんけど、私も護身術は教わってます。だから、いざという時は、犯人の確保を優先してくださいね」
真剣に訴えると、如月さんは、うんと頷いた。
直後、通路に背を向けるようにした如月さんの唇が一瞬、私のそれに重なった。
翼
「!」
如月
「もーらい」
……け、警察関係者もたくさん乗り降りする駅なのに。
翼
「こーちゃんっ!」
如月
「えへへ」
真っ赤になって怒る私に笑顔を向けてから、如月さんは、ホームへと駆け出して行った。
ちょうど入って来た和光方面への電車に乗って、中をのんびりと歩いてみたり、時々ふらりと駅に降りてみたりしたけれど、特に新しい情報は得られなかった。
人当たりの良い如月さんは職務質問にも長けていて、知りたい事を上手に聞き出せているにも関わらず、だ。
ただ、その中に、気になるものがあった。
乗客の女性
「関係無いかもしれないけど」
出版社に勤務しているという女性はそう前置きをしてから、話し始めた。
乗客の女性
「傷害事件のあった日のうち、2回、黒いスーツの女性を見掛けました」
彼女の話はこうだった。