冬の鉄道捜査線
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藤守さんと千代田線
~翼vision~
本日、私と組んでくれるのは、藤守さん。
藤守
「あー、櫻井。とりあえず北千住まで行って、9:56の電車に乗ってみいひん?」
時刻表を片手にそわそわしている藤守さんに、私は冷たい視線を送った。
翼
「藤守さん」
藤守
「な、何?」
翼
「まさか、いきなり箱根湯本まで行くつもりじゃないですよね?」
私が静かに呟くと、藤守さんは、一瞬、ぎくりとした表情をした。
翼
「私、さっき、改札の時刻表を見たんです」
私は藤守さんの手から、彼の愛用の時刻表を取り、付箋のついたページをめくって、その一点を指差した。
翼
「その時刻に北千住を出るのは、小田急が乗り入れてるロマンスカーですから」
藤守さんは、内心の動揺を隠すかのように、満面の笑顔になった。
藤守
「おおっ。ホンマや。お前、よお気付いたなあ。女の子でそこまで時刻表を読み込めるなんて、大したもんやで」
翼
「お陰様で」
しっかり付箋まで付けておいて、何が「ホンマや」ですか。
翼
「それに、その電車なら、霞ヶ関にも停まるじゃないですか」
私はまた時刻表を指差す。
藤守
「分かってるけど、北千住から乗りたいねん」
藤守さんは普段とても真面目に仕事をするけれど、電車が絡むと話は別だ。
藤守
「始発から乗りたいねーん。分からへんかなあ、この気持ち」
身を捩る彼に、私は溜め息をついた。
分かります。
と言うか、分かるようになってきました。あなたとお付き合いを始めてから。
鉄道オタクをカミングアウトしてから、藤守さんは積極的に、私に電車の魅力を教えてくれる。
電車の話をしている時の藤守さんは子供のように無邪気で、目なんかキラキラ輝いてて、それはもう……可愛い。
私は、そんな時の彼が大好き。
でも、仕事中は話が別。
翼
「千代田線で多発しているのは、ホームなど構内での恐喝です。しかも、東京メトロの駅でのみ、事件が起きてるんですよ」
藤守
「そうなんやけどな……」
藤守さんは、がっくりと肩を落とした。
ちょっと厳しく言い過ぎたかな。
ほとんど「電車に乗る必要はないです」って言ってるようなものだもんね。
藤守
「……俺、翼とロマンスカー乗りたかってん……」
きゅーん。
上目遣いに見つめられて、胸が痛んだ。
乗りたい!乗りたいよ!
私だって、賢史くんと電車に乗って、箱根の温泉旅館に泊まりに行きたいよ!
でも……!
翼
「でも、今はお仕事に集中しましょうよ。ロマンスカーは……またの機会にして」
藤守さんは、じっと私を見つめてから、深々と溜め息をついた。
藤守
「……お前も『乗りたい』言うてくれるかと思てたんやけど……」
それから、掛ける言葉を探していた私に向き直ると、「行こか」と言って、歩き出した。
藤守
「しゃあないな。真面目に捜査せんと、お前まで、ルイルイにしばかれてまうからな」
私の顔は、引きつっていたと思う。
そうじゃない。
室長に叱られるのが怖いんじゃない(怖いけど)よ。
うまく言えないけど、私はただ……早く、犯人を捕まえたいと思うだけ。
結局、北千住までは行ったものの、私たちは特急には乗らず、普通列車で犯行のあった西日暮里や新御茶ノ水、国会議事堂前などの駅へ行き、聞き込みを行った。
藤守さんは終始元気がない。
私の方を見ようともしないし、話しかけても生返事するだけだし、気まずい事この上ない。
こんな事なら、やっぱり、最初から素直に、「私もロマンスカーに乗りたい」と言った方が良かったのだろうか。
悶々としたまま歩いていると、前から来た人にぶつかってしまった。
翼
「すみません」
会釈して擦り抜けようとした時、肩を掴まれた。