冬の鉄道捜査線
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1.
~翼vision~
その日、出勤前に寮の部屋で身支度をしていると、TVから、丸の内線沿線で犯罪が多発しているというニュースが流れて来た。
財布をすられる。
痴漢に遭う。
電車の中や駅の構内で、ちょっと目を離した隙に荷物が無くなる。
身体が当たったと因縁をつけられて、金銭を脅し取られる。
どれも昔からある犯罪で、そして、全く途絶えることの無い犯罪でもある。
ニュースの中では、駅周辺の防犯カメラや、一般の方々によって撮影された、犯人と思われる人物の画像が紹介されていた。
今は誰でもカメラ付きの携帯電話を持ち歩いているおかげで、こういう映像や目撃情報が多く提供されるようになった。
もちろん、警視庁に勤め、特にこの手の軽犯罪を扱う事の多い部署にいる私は、被害届が出され、画像が入手されて以来、この犯人たちの画像を繰り返し目にしている。
そう。「犯人たち」。
警視庁は今回の一連の犯罪を、複数の実行犯によるグループ犯行だと考えている。
マスコミに公表されているのは、そのごく一部だけ。
しかも、被害は丸の内線にとどまらない。
千代田線、日比谷線、有楽町線。
犯人グループの行動は、まるで、路線の集まる霞が関に位置する警視庁を嘲笑っているようにも思える。
こう言うと私の思い付きのようだけど、実のところ、これは受け売り。
真っ先にそれを言い出したのは、我が緊急特命捜査室の穂積室長だった。
まだ、誰も複数の沿線での犯行を関連付けしていなかった頃……今から約1か月前に、室長は、小笠原さんと私を自分の机の前に呼んだ。
穂積
「昨日、丸の内線の同一車輌内で、3件の窃盗が発生したわ」
翼
「同一犯でしょうか?」
穂積
「東京メトロから被害届が出されただけ。まだ何も分からないわ」
私の問いに、室長は静かに首を横に振った。
穂積
「……ただ、少し気になったから調べてみたら、最近、霞が関周辺の他の路線でも、この手の犯罪の発生件数が増えているのよ」
小笠原
「うちが担当する事になると思うの?」
穂積
「敬語を使いなさい」
室長に睨まれて、小笠原さんが言い直した。
小笠原
「……室長が、今、その3件の窃盗を気にしておられる理由は何でしょうか」
私と小笠原さんに見つめられて、室長は柳眉をひそめた。
穂積
「電車や駅周辺での窃盗や痴漢、それ自体は珍しい事ではないわ。むしろ、毎日、かなりの数で発生しているわね」
私たちは頷いた。
穂積
「ワタシが懸念するのは、窃盗そのものよりも、『複数の地下鉄』、『組織的犯行の可能性』そして、『霞が関』……」
室長の言葉に、私たちより先に、後ろの席にいた小野瀬さんと明智さんが、ほとんど同時に反応した。
明智
「……地下鉄サリン事件」
明智さんの呟きに、捜査室の空気が一気に緊張した。
正式名称、地下鉄駅構内毒物使用多数殺人事件。
1995年3月20日。13人の死者を出し、6,000人を超える被害者を出した、未曾有の無差別テロだ。
現在捜査室にいる誰も、当時はまだ警察官になっていない。
けれど、この事件の中心地が霞が関であり、その標的が、警視庁を含む国家の中枢機構だった事は、誰もが知っている。
翼
「……」
私は、小さく身震いした。
重くなった空気と、黙り込んだ私たちの雰囲気を敏感に察したのか、小野瀬さんが立ち上がった。
小野瀬
「まあ、最悪の事態を想定しておくのは大事だけどね。……穂積の取り越し苦労である事を祈ろうか」
小野瀬さんはそう言うと、室長の席の後ろにまわって、肩を揉み始めた。
小野瀬
「まずは、今ある事実を正確に把握する事からだね」
そう言ってから、小野瀬さんは、室長の頭を、指先で軽くつついた。
穂積
「……そうね」
室長が頷く。
穂積
「櫻井、丸の内の犯人像が届いたら見せるから、例によって特徴を覚えてちょうだい」
翼
「はい」
穂積
「小笠原は、該当路線の事件発生状況と、目撃情報を、今後いつでも見られるように集めておいてくれるかしら」
小笠原
「分かった。小野瀬さんから依頼されたプログラム修正の後でいいよね」
穂積
「もちろん、通常業務優先でいいわよ。まだ、うちの担当事件じゃないし、ワタシが気にしてるだけだから」
室長はにっこり笑って、小野瀬さんに肩を揉ませたまま、指先で小笠原さんに「ちょっと来い」をした。
小笠原
「?」
内緒話でもあるのかと前屈みになった小笠原さんの額に、腕を伸ばした室長のデコピンが炸裂した。
小笠原
「!」
小笠原さんの頭が、後ろに弾け飛んだ。
穂積
「敬ー語ーをーつーかーえ!」
壁までよろけた小笠原さんに向かって、室長は美しい笑顔のままでそう言った。
それから間もなく、室長の懸念は現実のものになってしまった。
丸の内線で窃盗を繰り返していた犯人とおぼしき人物が、千代田線でも目撃され、また別の人物が、3つの路線を跨いで恐喝を行っているのが明らかになったのだ。
そこからさらに日を重ねるにつれて被害の実態が明らかになり、4つの路線で起きている事件が、組織的かつ計画的なものだという事が分かって来た。
そして、丸の内線の窃盗事件から約1ヶ月。
霞が関周辺路線での連続犯罪は、より大きな事件性を持って、緊急特命捜査室が担当する捜査対象となった。
ニュースを見ながら今日までの経過を思い出しながら、私は、CMに切り替わったTVを消した。
玄関先の姿見で身支度を確認し、扉を開ける。
さあ、新しい捜査が始まる。
《分岐です》※分岐後は恋人設定になります
明智さんと日比谷線………2ページ
藤守さんと千代田線………4ページ
小笠原さんと丸ノ内線……6ページ
如月さんと有楽町線………8ページ
小野瀬さんと東急東横線…10ページ
穂積室長と霞ヶ関駅………12ページ