秋の警視庁大運動会
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藤守さんと障害物競走
小笠原
「だから、嫌だって言ったんだ……」
涙目の小笠原さんに同情しながら絆創膏を貼り終えて、私は、念の為に持参していた、捜査室備え付けの救急箱を閉じた。
持って来ておけとは言われていたけど、まさか明智さんや小野瀬さんにまで使う羽目になるとは思っていなかった。
明智
「小野瀬さんが、あそこまで若い男たちに目の敵にされていたとは……不覚だったな」
頬に大きな絆創膏を貼った明智さんが、肩を擦りながら呟いた。
小野瀬
「みんな、ごめん……」
小野瀬さんも傷だらけで、しょんぼりしている。
翼
「小野瀬さんのせいじゃないと思います」
如月
「そうですよ。モテない奴らの逆恨みです!」
穂積
「ま、過ぎた事を言っても仕方ないわ。次の藤守に期待しましょう」
小笠原さんの頭を撫でながら、室長が言った。
みんな怪我をして帰って来たので、さすがの室長も怒る気にならないらしい。
賢史くんが出るのは、障害物競走。
トラックを見ると、ハードルや麻袋、網くぐり、スプーンとピンポン球、三輪車や跳び箱にタイヤ、縄跳びや平均台まで置かれている。
普段ならワクワクするほど盛りだくさんだけど、賢史くんは今、騎馬戦で怪我をしているはず。
運動神経抜群の賢史くんは、責任感も強いから、頑張り過ぎないといいけど。
穂積
「櫻井、ここはもういいから、アンタもそろそろ集合場所に向かいなさい」
室長の声に振り向くと、みんなが私を見て、ニコニコ笑っている。
小野瀬
「俺はナースがいいと思うな」
如月
「幼稚園児なら走り易いんじゃない?」
小笠原
「バレリーナがあるらしいよ」
明智
「前は柔道着もあったな」
穂積
「ウェディングドレスだけはやめてね。走りにくいし、ワタシ泣いてしまうわ」
翼
「……」
みんなが何を言っているのかというと。
私が出場する、コスプレ競走の話をしているのだ。
参加者全員が順位なりに得点をもらえる、オマケみたいな種目だけど、シビアな競技は勘弁してくださいと泣きついたら、室長が選んでくれたのだ。
ちなみに男性部門もあって、これは如月さんに決まっている。
賢史くんの事も心配だったので、私はすぐにハイと返事をした。
観客席から競技場に降りて来ると、急に臨場感が増した。
数万人が集まっている会場は、熱気に包まれている。
観客席は満席だし、見下ろされると凄い威圧感だ。
ううう、やだなあ。
私、自意識過剰なのかなあ。
さっき控え室でウェアを脱いで、Tシャツとショートパンツになったばかりなせいもあるけど、ものすごく恥ずかしい。
こんな雰囲気の中で競技出来るみんなに驚嘆し、改めて、如月さんの凄さを実感した。
ああ、そんな事より、賢史くんを探さなくちゃ。
賢史くんは、ランニングと短パンに着替えて、次にスタートするグループの中に居た。
救護所で手当てを受けたらしく、身体のあちこちに貼られた絆創膏が痛々しい。
私はふと、賢史くんが、観客席に視線を送っている事に気付いた。
もしかして、私を探しているのかな。
こちらを向いたら手を振ろうと身構えながら、私は賢史くんを見つめた。
お願い、こっち向いて。
係官
『コスプレ競走女子の方、こちらに並んでくださーい!』
その瞬間、賢史くんがこっちを見た。
私は急いで手を振る。
藤守
「!」
賢史くんが、ぱあっと笑顔になって、私に手を振ってくれた。
私は口パクで『頑張って』と言って、両手をグッと握り締めた。
賢史くんはこちらに右手を伸ばして、親指を立てて見せた。
それから、呼ばれたらしく立ち上がって、スタートラインに向かう。
同じ高さにいて、競技全体は見渡せないけど、賢史くんの背中には力が漲っている。
タァン、というピストルの音と共に、賢史くんが勢いよく飛び出して行くのが見えた。
コスプレ競走の私たちがトラックに向かうのと入れ替わるように、障害物競走の選手たちが引き上げて来た。
すれ違いざまに探すと、賢史くんは、私に向かって、胸の金メダルを持ち上げて見せてくれた。
私が笑顔になると、賢史くんは口パクで、『好きやで』と言った。
かあっ、と顔が赤くなる。もう!
私はにやけてしまう頬を押さえながら、列に並んでトラックに向かった。
コスプレ競走のルールは簡単。
スタートラインから50mの地点にテーブルが置かれ、その上に、1レース8人分の封筒が置かれている。
到着した順に好きな封筒を選べるが、ペーパーナイフで封を切るまで、中に何が入っているかは分からない。
そして、中身を確認したら、さらに10m先に並べられたコスチュームから指定の服を選び、それを身に付けて、40m先のゴールまで走るのだ。
ただし、室長が言っていたように、中には走りづらい服もある。
私は早く終わりたいので、なるべく簡単なコスチュームに当たるよう、天に祈った。
私の順番は、最終組。
ようやくスタートラインに並んで、合図を待った。
ちらりと観客席を見ると、捜査室と鑑識の面々は最前列に並んで、こちらに声援を送ってくれている。
私は両手で拳を作って、ぎゅっと握った。
タァン、という音に、つまずきそうになりながら走り出す。
まずは封筒だ。
私は震える手でペーパーナイフを扱い、中から文字の書かれた紙を取り出した。
『ピンクのベルライン』
ベルライン?
頭の中で繰り返しながら走り、10m先でピンクの服を手にした途端、血の気が引いた。
それは、ウェストの下からふわりと鐘の型に膨らんだ、なんとロングドレス。ご丁寧に、お揃いの、フリルのついたボンネット。
超可愛い、ってそれどころじゃない。
とにかくファスナーを下ろし、足を突っ込んで袖に手を通し、またファスナーを上げる……。
こんな時、背中の半分まで来て引っ掛かるのは万国共通のお約束。
隣のメイドさんが着替え終えるのを見送る目に涙が浮かぶ。
泣かない!それより早く!
ようやくファスナーが上がった。急いでボンネットを被ってリボンを結んで、私は走り出した。
ドレスの裾を踏まないよう、両手で持ち上げて。
ところが、前方にいたメイドさんはまさかの鈍足で、私でも追い抜く事が出来た。
ボンネットが邪魔で前が見えない。
とにかく息を切らして走って走って走って、ゴール!
テープを切って係官に身を委ねると、誘導された場所には、『1位』の旗。
翼
「……」
……嘘。
如月
「ぃやったー、翼ちゃーん!」
明智
「よく頑張った、偉いぞ!」
小笠原
「1位だよ!」
ゴールに近い観客席で待ってくれていたみんなが、上から口々に褒めてくれる。
どうしよう。
夢中で、何も覚えてない。
小野瀬
「可愛いよ、櫻井さん!」
穂積
「櫻井、キスしてあげるわ!」
小野瀬さんと室長の満面の笑顔を見て、ようやく、じわじわと実感が湧いて来た。
翼
「ありがとうございます!」
私が頭を下げると、さっきまであんなに怖かった満員の観客席から、温かいシャワーのように、拍手と歓声が降り注いできた。
裏へ戻り、着替えを終えて、私は上機嫌で控え室を出た。
首から提げた金メダルの重さが心地好い。
通路を抜けて観客席への階段を昇ろうとした時、横から手を引かれた。
翼
「!」
ビックリしてそちらを見ると、笑顔の賢史くんが、自分の唇に人差し指をあてていた。
待っててくれたんだ。
手を引かれるまま、もう一度、通路へ戻る。
いくつかの控え室よりも奥には、さすがに人がいない。
角を曲がったところで、賢史くんは私を抱き締めた。
普段のスーツとは違って、賢史くんの強い鼓動が伝わってくる。
厚い胸、力強い腕。
うっとりしそうになるのを理性で食い止めて、私は賢史くんを見上げた。
翼
「賢史くん、怪我は?」
藤守
「うん?こんなん、何て事ないで」
賢史くんは、膝と肘、それに頬を擦り剥いていた。
翼
「救護所で手当てしてもらえたんだね。でも、痛そう」
賢史くんが笑うと真っ白い歯が見えて、私はそれが好きだった。
藤守
「大丈夫やて。それより」
賢史くんが腕を緩め、代わりに顔を近付けてきた。
藤守
「キスしよ」
優しく言われて、胸が高鳴る。
私は笑顔で、賢史くんの、怪我をしていない方の頬にキスした。
顔を間近に置いたまま、賢史くんはちょっと不満そう。
藤守
「……ま、仕事中やからね」
翼
「ごめ」
離れたと思った刹那、頭を引き寄せられ、唇が重ねられていた。
翼
「……!」
藤守
「これは、俺から、金メダルを獲った翼にご褒美や」
言い終わると、今度こそ賢史くんは私から離れ、先に立って歩き出した。
早歩きで追い掛けても追い付かないし、振り向きもしない。
耳が赤いし、もしかして照れてるのかな。
翼
「賢史くん、好き」
追い掛けながら言ってみる。
藤守
「よせや」
翼
「大好き」
藤守
「やめろて」
翼
「好き好きー」
藤守
「やめてー!!」
賢史くんは全力疾走で、観客席への階段を駆け昇って行ってしまった。
小笠原
「だから、嫌だって言ったんだ……」
涙目の小笠原さんに同情しながら絆創膏を貼り終えて、私は、念の為に持参していた、捜査室備え付けの救急箱を閉じた。
持って来ておけとは言われていたけど、まさか明智さんや小野瀬さんにまで使う羽目になるとは思っていなかった。
明智
「小野瀬さんが、あそこまで若い男たちに目の敵にされていたとは……不覚だったな」
頬に大きな絆創膏を貼った明智さんが、肩を擦りながら呟いた。
小野瀬
「みんな、ごめん……」
小野瀬さんも傷だらけで、しょんぼりしている。
翼
「小野瀬さんのせいじゃないと思います」
如月
「そうですよ。モテない奴らの逆恨みです!」
穂積
「ま、過ぎた事を言っても仕方ないわ。次の藤守に期待しましょう」
小笠原さんの頭を撫でながら、室長が言った。
みんな怪我をして帰って来たので、さすがの室長も怒る気にならないらしい。
賢史くんが出るのは、障害物競走。
トラックを見ると、ハードルや麻袋、網くぐり、スプーンとピンポン球、三輪車や跳び箱にタイヤ、縄跳びや平均台まで置かれている。
普段ならワクワクするほど盛りだくさんだけど、賢史くんは今、騎馬戦で怪我をしているはず。
運動神経抜群の賢史くんは、責任感も強いから、頑張り過ぎないといいけど。
穂積
「櫻井、ここはもういいから、アンタもそろそろ集合場所に向かいなさい」
室長の声に振り向くと、みんなが私を見て、ニコニコ笑っている。
小野瀬
「俺はナースがいいと思うな」
如月
「幼稚園児なら走り易いんじゃない?」
小笠原
「バレリーナがあるらしいよ」
明智
「前は柔道着もあったな」
穂積
「ウェディングドレスだけはやめてね。走りにくいし、ワタシ泣いてしまうわ」
翼
「……」
みんなが何を言っているのかというと。
私が出場する、コスプレ競走の話をしているのだ。
参加者全員が順位なりに得点をもらえる、オマケみたいな種目だけど、シビアな競技は勘弁してくださいと泣きついたら、室長が選んでくれたのだ。
ちなみに男性部門もあって、これは如月さんに決まっている。
賢史くんの事も心配だったので、私はすぐにハイと返事をした。
観客席から競技場に降りて来ると、急に臨場感が増した。
数万人が集まっている会場は、熱気に包まれている。
観客席は満席だし、見下ろされると凄い威圧感だ。
ううう、やだなあ。
私、自意識過剰なのかなあ。
さっき控え室でウェアを脱いで、Tシャツとショートパンツになったばかりなせいもあるけど、ものすごく恥ずかしい。
こんな雰囲気の中で競技出来るみんなに驚嘆し、改めて、如月さんの凄さを実感した。
ああ、そんな事より、賢史くんを探さなくちゃ。
賢史くんは、ランニングと短パンに着替えて、次にスタートするグループの中に居た。
救護所で手当てを受けたらしく、身体のあちこちに貼られた絆創膏が痛々しい。
私はふと、賢史くんが、観客席に視線を送っている事に気付いた。
もしかして、私を探しているのかな。
こちらを向いたら手を振ろうと身構えながら、私は賢史くんを見つめた。
お願い、こっち向いて。
係官
『コスプレ競走女子の方、こちらに並んでくださーい!』
その瞬間、賢史くんがこっちを見た。
私は急いで手を振る。
藤守
「!」
賢史くんが、ぱあっと笑顔になって、私に手を振ってくれた。
私は口パクで『頑張って』と言って、両手をグッと握り締めた。
賢史くんはこちらに右手を伸ばして、親指を立てて見せた。
それから、呼ばれたらしく立ち上がって、スタートラインに向かう。
同じ高さにいて、競技全体は見渡せないけど、賢史くんの背中には力が漲っている。
タァン、というピストルの音と共に、賢史くんが勢いよく飛び出して行くのが見えた。
コスプレ競走の私たちがトラックに向かうのと入れ替わるように、障害物競走の選手たちが引き上げて来た。
すれ違いざまに探すと、賢史くんは、私に向かって、胸の金メダルを持ち上げて見せてくれた。
私が笑顔になると、賢史くんは口パクで、『好きやで』と言った。
かあっ、と顔が赤くなる。もう!
私はにやけてしまう頬を押さえながら、列に並んでトラックに向かった。
コスプレ競走のルールは簡単。
スタートラインから50mの地点にテーブルが置かれ、その上に、1レース8人分の封筒が置かれている。
到着した順に好きな封筒を選べるが、ペーパーナイフで封を切るまで、中に何が入っているかは分からない。
そして、中身を確認したら、さらに10m先に並べられたコスチュームから指定の服を選び、それを身に付けて、40m先のゴールまで走るのだ。
ただし、室長が言っていたように、中には走りづらい服もある。
私は早く終わりたいので、なるべく簡単なコスチュームに当たるよう、天に祈った。
私の順番は、最終組。
ようやくスタートラインに並んで、合図を待った。
ちらりと観客席を見ると、捜査室と鑑識の面々は最前列に並んで、こちらに声援を送ってくれている。
私は両手で拳を作って、ぎゅっと握った。
タァン、という音に、つまずきそうになりながら走り出す。
まずは封筒だ。
私は震える手でペーパーナイフを扱い、中から文字の書かれた紙を取り出した。
『ピンクのベルライン』
ベルライン?
頭の中で繰り返しながら走り、10m先でピンクの服を手にした途端、血の気が引いた。
それは、ウェストの下からふわりと鐘の型に膨らんだ、なんとロングドレス。ご丁寧に、お揃いの、フリルのついたボンネット。
超可愛い、ってそれどころじゃない。
とにかくファスナーを下ろし、足を突っ込んで袖に手を通し、またファスナーを上げる……。
こんな時、背中の半分まで来て引っ掛かるのは万国共通のお約束。
隣のメイドさんが着替え終えるのを見送る目に涙が浮かぶ。
泣かない!それより早く!
ようやくファスナーが上がった。急いでボンネットを被ってリボンを結んで、私は走り出した。
ドレスの裾を踏まないよう、両手で持ち上げて。
ところが、前方にいたメイドさんはまさかの鈍足で、私でも追い抜く事が出来た。
ボンネットが邪魔で前が見えない。
とにかく息を切らして走って走って走って、ゴール!
テープを切って係官に身を委ねると、誘導された場所には、『1位』の旗。
翼
「……」
……嘘。
如月
「ぃやったー、翼ちゃーん!」
明智
「よく頑張った、偉いぞ!」
小笠原
「1位だよ!」
ゴールに近い観客席で待ってくれていたみんなが、上から口々に褒めてくれる。
どうしよう。
夢中で、何も覚えてない。
小野瀬
「可愛いよ、櫻井さん!」
穂積
「櫻井、キスしてあげるわ!」
小野瀬さんと室長の満面の笑顔を見て、ようやく、じわじわと実感が湧いて来た。
翼
「ありがとうございます!」
私が頭を下げると、さっきまであんなに怖かった満員の観客席から、温かいシャワーのように、拍手と歓声が降り注いできた。
裏へ戻り、着替えを終えて、私は上機嫌で控え室を出た。
首から提げた金メダルの重さが心地好い。
通路を抜けて観客席への階段を昇ろうとした時、横から手を引かれた。
翼
「!」
ビックリしてそちらを見ると、笑顔の賢史くんが、自分の唇に人差し指をあてていた。
待っててくれたんだ。
手を引かれるまま、もう一度、通路へ戻る。
いくつかの控え室よりも奥には、さすがに人がいない。
角を曲がったところで、賢史くんは私を抱き締めた。
普段のスーツとは違って、賢史くんの強い鼓動が伝わってくる。
厚い胸、力強い腕。
うっとりしそうになるのを理性で食い止めて、私は賢史くんを見上げた。
翼
「賢史くん、怪我は?」
藤守
「うん?こんなん、何て事ないで」
賢史くんは、膝と肘、それに頬を擦り剥いていた。
翼
「救護所で手当てしてもらえたんだね。でも、痛そう」
賢史くんが笑うと真っ白い歯が見えて、私はそれが好きだった。
藤守
「大丈夫やて。それより」
賢史くんが腕を緩め、代わりに顔を近付けてきた。
藤守
「キスしよ」
優しく言われて、胸が高鳴る。
私は笑顔で、賢史くんの、怪我をしていない方の頬にキスした。
顔を間近に置いたまま、賢史くんはちょっと不満そう。
藤守
「……ま、仕事中やからね」
翼
「ごめ」
離れたと思った刹那、頭を引き寄せられ、唇が重ねられていた。
翼
「……!」
藤守
「これは、俺から、金メダルを獲った翼にご褒美や」
言い終わると、今度こそ賢史くんは私から離れ、先に立って歩き出した。
早歩きで追い掛けても追い付かないし、振り向きもしない。
耳が赤いし、もしかして照れてるのかな。
翼
「賢史くん、好き」
追い掛けながら言ってみる。
藤守
「よせや」
翼
「大好き」
藤守
「やめろて」
翼
「好き好きー」
藤守
「やめてー!!」
賢史くんは全力疾走で、観客席への階段を駆け昇って行ってしまった。