秋の警視庁大運動会
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小笠原さんと騎馬戦
穂積
「あら?小笠原が居ない」
室長に言われて、私はビックリした。
さっきまで、間違いなく隣にいたのに!
振り返った藤守さんと如月さんは、もう立ち上がっている。
藤守
「逃げたな」
如月さんが、座席の下を覗き込む。
如月
「でも、ナナコは明智さんの席の下にそのままありますよ」
小野瀬
「まだ、遠くには行っていないはずだ。探そう」
フィールドでは、鑑識の太田さんも参加してのパン食い競走が行われていて、会場は笑いに包まれている。
この競技が終わるまでに、小野瀬さん、明智さん、藤守さん、そして諒くんは、集合場所に行かなければならないのに。
さっき射撃に出場した明智さんはそのまま向こうで待機しているはずだから、後は諒くんだけ。
穂積
「あの子もしょうがないわねえ」
室長も呆れ顔で、はあ、と溜め息をつく。
翼
「わ、私も探して来ます!」
駆け出そうとした私を呼び止めて、室長はナナコを差し出した。
穂積
「この子を連れて行きなさい」
私はナナコを抱えた。
幸い、諒くんは、すぐに見つかった。
スタンドからフィールドに降りる階段の下、そこにある、ほんの小さな隙間に潜り込んでいたのだ。
藤守
「小笠原、隠れてると罪が重くなるで!」
如月
「出てきて下さい!お母さんが泣いてますよ!」
小野瀬
「……きみたち、TVの刑事モノを見過ぎだよ。なぜ、本物の刑事が、ドラマに影響されてるの」
3人があれこれと声を掛けているところに、私は追いついた。
小野瀬さんたちの様子から、いるらしい場所は分かるけど、諒くんの姿は見えない。
小野瀬
「光を当てたら出てくるかな」
如月
「好物のお豆腐を買って来ましょうか」
翼
「あの、ナナコを連れて来ました」
私が言うと、小野瀬さんはにっこり笑った。
小野瀬
「小笠原くん、聞こえた?ナナコが到着したよ」
小笠原
「ナナコを放せー」
藤守
「放して欲しければ言う事を聞けやー!」
如月
「藤守さん、悪役になってます」
小野瀬
「ねえ、小笠原くん。きみの態度しだいでは、ナナコをアダルト専用機に仕様変更しちゃう事になるかもしれないよ」
如月
「そして、それを室長にオモチャとして差し出しちゃう事に」
小笠原
「やめろー」
何か、ちょっと可哀想。
小野瀬
「俺たちも、きみの大切なナナコを悪魔の生け贄にしたくはないんだ。早く出ておいで」
小笠原
「騎馬戦なんて野蛮だよー。出たくないんだよー」
如月
「まあまあ。とにかく出てきて下さいよぉ」
藤守
「早よせんと、そろそろ室長がキレる頃やでー?」
小笠原
「……」
渋々と嫌々と、諒くんが這い出て来た。
すかさず、藤守さんと如月さんが、両方から諒くんの腕を捕まえる。
小野瀬
「さあさあ、行くよ。明智くんが待ってる」
小野瀬さんが、ぽん、と諒くんの肩を叩いた。
小笠原
「……櫻井さん」
翼
「はいっ。お帰りになるまで、ナナコは私が責任を持ってお預かりします」
元気づけようと思ってわざと明るく言ったけど、諒くんは力無くうなだれた。
小笠原
「ありがとう。……でも、俺は騎馬戦に巻き込まれて、もう二度と君に会えないかも」
翼
「そんな事言わないで……」
目頭が熱くなって、私は諒くんの手を握り締めた。
藤守
「大袈裟やのう」
小笠原
「せめて、先にキスしてくれる?」
如月
「うう……ぐすっ。してあげてよ、翼ちゃん」
如月さんはもらい泣きをしてくれている。
とにかく時間が無いと言われて、私は諒くんの肩に手を置き、背伸びして頬にキスした。
離れる時、眼鏡の奥に潤んだ瞳が見えて、胸がきゅんとした。
小笠原
「ありがとう……、きみの優しさは忘れないよ」
翼
「小笠原さん……」
藤守
「だから大袈裟やって!」
小野瀬さんと藤守さんに連れられて集合場所に向かう諒くんを見送りながら、私の頭の中には『ドナドナ』のメロディが流れていた。
ナナコを抱え、如月さんと共に席に戻ると、室長は心配そうな顔で立っていた。
穂積
「うちのヒッキーは?」
如月
「ベッキーみたいに呼ばないで下さい!小笠原さんなら、連れられて行きましたよ」
翼
「悲しそうな瞳で……」
穂積
「何で歌ってるの?……まあ、とにかく、間に合ったのならいいわ」
眼下のフィールドでは、パン食い競走の片付けが急ピッチで行われている。
明智さんの席には如月さんが来て座り、室長、私、如月さんが並ぶ形になった。
如月
「そう言えば、ここまでの得点はどうなってますかねー?」
穂積
「ガリガリくーん、途中経過お願い」
室長が呼ぶと、鑑識の細野さんが答えた。
細野
「はい穂積さん。現在は、警備、刑事、生活安全部の三強の戦いになっています。2種目続けて負けると順位が入れ替わる、混戦です」
穂積
「良く分かったわ、どうもありがとう」
室長が微笑むと、細野さんは一礼して、席に戻って行った。
何だろう、この人間関係。
会場のBGMが、和太鼓の音に変わった。
それと共に、左右にある入り口から、騎馬戦の騎馬たちがぞろぞろと登場して来る。
騎馬と言っても馬ではない。
4人一組で、1人が騎手、3人が騎馬役だ。
騎馬役の1人を先頭とし、後の2人はちょうど三角形になるように、それぞれ先頭の斜め後ろに立つ。
横に並んだ後ろの2人は、内側の手を先頭の肩にかける。そして外側の手を、先頭の人の手としっかり握り合う。
騎手は、騎馬役がしっかり握り合ったその手を馬具の鐙(あぶみ)にして足を乗せ、後方の2人が先頭の肩に置いた手を鞍(くら)に見立てて、騎乗するのだ。
全部、如月さんからの受け売りの知識だけど。
私は、諒くんが騎乗している騎馬を見つけた。
小野瀬さんが先頭、後ろの左右に藤守さんと明智さんだ。
全騎馬が入場し、放送席から説明が入った。
放送
『騎馬戦のルールをご説明します。八つの部署から、各4組ずつ、計、32組の騎馬が出場しております』
騎馬戦の選手は全員が裸足で、中には、馬が上半身を脱いでいる組もある。みんな、気合い充分だ。
放送
『これより、全組一斉に参戦しての大乱戦を、5分ずつ、3戦行います』
おおっ、と喚声が上がったのは参加者たちから。
放送
『1戦ごと、部署ごとに、生存している騎馬を数え、その数がそのまま、各部署の得点になります』
わあっ、という歓声は、観客がルールを理解した証拠。
放送
『では、開戦!』
地響きのような声と共に、騎馬が一斉に動き出した。
諒くんの騎馬は……逃げてる。
如月
「おおっとー、生活安全部小笠原チーム、ここは逃げる作戦に出ましたかあ?」
隣から、如月さんの実況が聞こえて来た。
なるほど、要は生き残ればいいんだから、そういう作戦もあるのね。
でも、……何か、変だな?
じっと見ていると、我らが生活安全部の騎馬は、赤いゼッケンの刑事部の騎馬ばかり追っている。
あれはきっと、刑事部を敵と見なしている室長の意志が、彼らに行き届いているからだろう。
おかしいのは、他の部署の騎馬が、諒くんの騎馬に向かって四方八方から攻めて来る事だ。
穂積
「狙われてる」
室長も気付いたらしい。
如月さんが立ち上がって、観客席の一番前まで駆け降りた。
しばらく身を乗り出していたかと思うと、また、駆け戻って来る。
如月
「室長!狙われてるのは、小野瀬さんです!」
穂積
「はあ?!」
如月
「『あいつモテやがって』とか、『女を全部独り占めしやがって』とか……みんな、日頃の恨みがあるらしくて、『小野瀬を倒せ、小野瀬を倒せ』って!」
室長は深々と溜め息をついた。
穂積
「人選ミスか……」
室長が言い終わる前に、諒くんの騎馬が、横からのタックルに弾き飛ばされて崩れ落ちる。
私は両手で顔を覆った。
穂積
「あら?小笠原が居ない」
室長に言われて、私はビックリした。
さっきまで、間違いなく隣にいたのに!
振り返った藤守さんと如月さんは、もう立ち上がっている。
藤守
「逃げたな」
如月さんが、座席の下を覗き込む。
如月
「でも、ナナコは明智さんの席の下にそのままありますよ」
小野瀬
「まだ、遠くには行っていないはずだ。探そう」
フィールドでは、鑑識の太田さんも参加してのパン食い競走が行われていて、会場は笑いに包まれている。
この競技が終わるまでに、小野瀬さん、明智さん、藤守さん、そして諒くんは、集合場所に行かなければならないのに。
さっき射撃に出場した明智さんはそのまま向こうで待機しているはずだから、後は諒くんだけ。
穂積
「あの子もしょうがないわねえ」
室長も呆れ顔で、はあ、と溜め息をつく。
翼
「わ、私も探して来ます!」
駆け出そうとした私を呼び止めて、室長はナナコを差し出した。
穂積
「この子を連れて行きなさい」
私はナナコを抱えた。
幸い、諒くんは、すぐに見つかった。
スタンドからフィールドに降りる階段の下、そこにある、ほんの小さな隙間に潜り込んでいたのだ。
藤守
「小笠原、隠れてると罪が重くなるで!」
如月
「出てきて下さい!お母さんが泣いてますよ!」
小野瀬
「……きみたち、TVの刑事モノを見過ぎだよ。なぜ、本物の刑事が、ドラマに影響されてるの」
3人があれこれと声を掛けているところに、私は追いついた。
小野瀬さんたちの様子から、いるらしい場所は分かるけど、諒くんの姿は見えない。
小野瀬
「光を当てたら出てくるかな」
如月
「好物のお豆腐を買って来ましょうか」
翼
「あの、ナナコを連れて来ました」
私が言うと、小野瀬さんはにっこり笑った。
小野瀬
「小笠原くん、聞こえた?ナナコが到着したよ」
小笠原
「ナナコを放せー」
藤守
「放して欲しければ言う事を聞けやー!」
如月
「藤守さん、悪役になってます」
小野瀬
「ねえ、小笠原くん。きみの態度しだいでは、ナナコをアダルト専用機に仕様変更しちゃう事になるかもしれないよ」
如月
「そして、それを室長にオモチャとして差し出しちゃう事に」
小笠原
「やめろー」
何か、ちょっと可哀想。
小野瀬
「俺たちも、きみの大切なナナコを悪魔の生け贄にしたくはないんだ。早く出ておいで」
小笠原
「騎馬戦なんて野蛮だよー。出たくないんだよー」
如月
「まあまあ。とにかく出てきて下さいよぉ」
藤守
「早よせんと、そろそろ室長がキレる頃やでー?」
小笠原
「……」
渋々と嫌々と、諒くんが這い出て来た。
すかさず、藤守さんと如月さんが、両方から諒くんの腕を捕まえる。
小野瀬
「さあさあ、行くよ。明智くんが待ってる」
小野瀬さんが、ぽん、と諒くんの肩を叩いた。
小笠原
「……櫻井さん」
翼
「はいっ。お帰りになるまで、ナナコは私が責任を持ってお預かりします」
元気づけようと思ってわざと明るく言ったけど、諒くんは力無くうなだれた。
小笠原
「ありがとう。……でも、俺は騎馬戦に巻き込まれて、もう二度と君に会えないかも」
翼
「そんな事言わないで……」
目頭が熱くなって、私は諒くんの手を握り締めた。
藤守
「大袈裟やのう」
小笠原
「せめて、先にキスしてくれる?」
如月
「うう……ぐすっ。してあげてよ、翼ちゃん」
如月さんはもらい泣きをしてくれている。
とにかく時間が無いと言われて、私は諒くんの肩に手を置き、背伸びして頬にキスした。
離れる時、眼鏡の奥に潤んだ瞳が見えて、胸がきゅんとした。
小笠原
「ありがとう……、きみの優しさは忘れないよ」
翼
「小笠原さん……」
藤守
「だから大袈裟やって!」
小野瀬さんと藤守さんに連れられて集合場所に向かう諒くんを見送りながら、私の頭の中には『ドナドナ』のメロディが流れていた。
ナナコを抱え、如月さんと共に席に戻ると、室長は心配そうな顔で立っていた。
穂積
「うちのヒッキーは?」
如月
「ベッキーみたいに呼ばないで下さい!小笠原さんなら、連れられて行きましたよ」
翼
「悲しそうな瞳で……」
穂積
「何で歌ってるの?……まあ、とにかく、間に合ったのならいいわ」
眼下のフィールドでは、パン食い競走の片付けが急ピッチで行われている。
明智さんの席には如月さんが来て座り、室長、私、如月さんが並ぶ形になった。
如月
「そう言えば、ここまでの得点はどうなってますかねー?」
穂積
「ガリガリくーん、途中経過お願い」
室長が呼ぶと、鑑識の細野さんが答えた。
細野
「はい穂積さん。現在は、警備、刑事、生活安全部の三強の戦いになっています。2種目続けて負けると順位が入れ替わる、混戦です」
穂積
「良く分かったわ、どうもありがとう」
室長が微笑むと、細野さんは一礼して、席に戻って行った。
何だろう、この人間関係。
会場のBGMが、和太鼓の音に変わった。
それと共に、左右にある入り口から、騎馬戦の騎馬たちがぞろぞろと登場して来る。
騎馬と言っても馬ではない。
4人一組で、1人が騎手、3人が騎馬役だ。
騎馬役の1人を先頭とし、後の2人はちょうど三角形になるように、それぞれ先頭の斜め後ろに立つ。
横に並んだ後ろの2人は、内側の手を先頭の肩にかける。そして外側の手を、先頭の人の手としっかり握り合う。
騎手は、騎馬役がしっかり握り合ったその手を馬具の鐙(あぶみ)にして足を乗せ、後方の2人が先頭の肩に置いた手を鞍(くら)に見立てて、騎乗するのだ。
全部、如月さんからの受け売りの知識だけど。
私は、諒くんが騎乗している騎馬を見つけた。
小野瀬さんが先頭、後ろの左右に藤守さんと明智さんだ。
全騎馬が入場し、放送席から説明が入った。
放送
『騎馬戦のルールをご説明します。八つの部署から、各4組ずつ、計、32組の騎馬が出場しております』
騎馬戦の選手は全員が裸足で、中には、馬が上半身を脱いでいる組もある。みんな、気合い充分だ。
放送
『これより、全組一斉に参戦しての大乱戦を、5分ずつ、3戦行います』
おおっ、と喚声が上がったのは参加者たちから。
放送
『1戦ごと、部署ごとに、生存している騎馬を数え、その数がそのまま、各部署の得点になります』
わあっ、という歓声は、観客がルールを理解した証拠。
放送
『では、開戦!』
地響きのような声と共に、騎馬が一斉に動き出した。
諒くんの騎馬は……逃げてる。
如月
「おおっとー、生活安全部小笠原チーム、ここは逃げる作戦に出ましたかあ?」
隣から、如月さんの実況が聞こえて来た。
なるほど、要は生き残ればいいんだから、そういう作戦もあるのね。
でも、……何か、変だな?
じっと見ていると、我らが生活安全部の騎馬は、赤いゼッケンの刑事部の騎馬ばかり追っている。
あれはきっと、刑事部を敵と見なしている室長の意志が、彼らに行き届いているからだろう。
おかしいのは、他の部署の騎馬が、諒くんの騎馬に向かって四方八方から攻めて来る事だ。
穂積
「狙われてる」
室長も気付いたらしい。
如月さんが立ち上がって、観客席の一番前まで駆け降りた。
しばらく身を乗り出していたかと思うと、また、駆け戻って来る。
如月
「室長!狙われてるのは、小野瀬さんです!」
穂積
「はあ?!」
如月
「『あいつモテやがって』とか、『女を全部独り占めしやがって』とか……みんな、日頃の恨みがあるらしくて、『小野瀬を倒せ、小野瀬を倒せ』って!」
室長は深々と溜め息をついた。
穂積
「人選ミスか……」
室長が言い終わる前に、諒くんの騎馬が、横からのタックルに弾き飛ばされて崩れ落ちる。
私は両手で顔を覆った。