秋の警視庁大運動会
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如月さんと100m走
入場門から、列を作って、選手たちが入場してきた。
総勢、およそ60人というところかしら。
明智
「対策本部と警察学校を除く八つの部署から、それぞれ8人出てるからな。8人ずつの予選を8レースやって、各レースの上位1人が、決勝進出だ」
明智さんが解説してくれる。
翼
「みんな速そう……」
私は不安になってきた。
こーちゃんの足が速いのは知ってるけど、他の人と比べた事は無い。
藤守
「如月は第2レースやな」
手を翳してトラックを見た藤守さんが、呟いた。
目を凝らしてみれば、上下のウェアを脱ぎ、ランニングとショートパンツ姿になったこーちゃんが、待機しながらストレッチをしている。
その表情は、真剣だ。
彼の視線の先には、すでにスタートラインに立った、第1レースの選手たちがいる。
その選手たちが身構えると同時に、タァン、と乾いた音が響いた。
うわ。
速い速い速い。あっという間に8人がゴールしてしまった。
翼
「……!」
オリンピックみたい、と、こーちゃんが言った通りだ。
サイドスタンド側に取り付けられた巨大なスクリーンに、さっきのレースのVTRが再現された。
1位と2位の選手が群を抜いていて、判定は分かりやすい。
赤と、緑のゼッケンだ。
穂積
「くそ、刑事部か」
室長が独り舌打ちする。
私は、次のレースにスタンバイしたこーちゃんの姿を探した。
こーちゃんは第7レーン、胸と背には、生活安全部の青いゼッケンをつけている。
手首と足首を回した後、両手でパン、と頬を打って気合いを入れたこーちゃんが、スタートの体勢になった。
頑張って、こーちゃん。
タァン。
私は息を止めて、レースを見つめた。
こーちゃんは……
速い。
後ろの人より三歩ほども速く、こーちゃんは、トップでゴールした。
翼
「きゃー!」
穂積
「よし!」
ゴールを駆け抜けたこーちゃんが、観客席の私たちに手を振った。
私は一生懸命、手を振り返す。
トラックには早くも、次の選手たちがスタンバイしていた。
第8レースが終わり、決勝の8人が決定した。
赤のゼッケン(刑事部)4人、緑のゼッケン(警備部)3人、そして、我らがこーちゃんだ。
さすがのこーちゃんも、緊張しているみたい。
走り出したらたった数秒。
私は身構えた。
スタートラインに立ったこーちゃんは、意外な動きをした。
両手を高く上げ、頭の上で叩き始めたのだ。
私の近くでは、室長と藤守さんが即座に反応した。
2人は同時に立ち上がり、こーちゃんの動きに合わせて、手を叩き始めた。
藤守
「こ・う・へい!」
穂積
「こ・う・へい!」
遅れる事数秒、満員の一般席から、観客が一斉に、手拍子を送り始めた。
観客
「こ・う・へい!こ・う・へい!」
8人の選手の中の、たった一人の青いゼッケンの為に、大観衆が声援を送る。
こーちゃんが手を叩くのを止めても、観客からの手拍子は、もうおさまらなかった。
喧騒の中、選手は準備を整え、そして、ピストルが鳴った。
こーちゃんの名前を呼んでいた声は、すぐに、大歓声に変わった。
如月
「いっやー、気分良かったなあ!」
首から金メダルを提げて帰って来たこーちゃんは、満面の笑み。
翼
「凄かったです!凄かったです!」
私はまだ興奮が冷めない。
小野瀬
「……それにしても心臓が強いねえ、如月くんは」
小野瀬さんは感心しきり。
明智
「完全に、会場を味方につけたな」
明智さんも頷く。
藤守
「世界新は出えへんかったけどな!」
からかいながらも、藤守さんはニコニコしている。
翼
「でも、歴代タイ記録だって放送で言ったじゃないですか!凄いですよ!凄いですよ!」
私が両手を振り回していると、当のこーちゃんが、私に笑顔を向けた。
如月
「そぉ?……んじゃ、翼ちゃんに、ご褒美のキスをもらっちゃおうかな!」
私は固まった。
……そう言えば、そんな約束をさせられたような。
翼
「い、今ですか?!」
助けを求めて見回すけれど、頼みの綱の明智さんは出場の準備に行ってしまったし、藤守さんは温かく見守っているし、室長と小野瀬さんはニヤニヤしている。
穂積
「やってあげなさいよ、櫻井」
小野瀬
「そうだね。その為に頑張ったんだから。ねー如月くん」
如月
「ですよねー」
ううう、四面楚歌。
私は覚悟を決めて、こーちゃんの前に立った。
こーちゃんが、手を膝について、身体を屈めてくれる。
ええい、もう!
私は彼の頬に、ちゅ、と唇を押し当てた。
ひゅーひゅー、と周囲から歓声が上がった。
は、恥ずかしい。
しゃがみこんで丸まった私の傍らで、こーちゃんは小躍りしている。
如月
「やったー!」
ううう。
何なのこの罰ゲーム。
しかも。
如月
「ありがとー!翼ちゃん、俺、次も頑張るから、またよろしくね!」
『また』って……もしかして続くのかしら、これ。
でも、こーちゃんの喜ぶ顔に弱い私は、もう、力なく笑いながら頷くしかなかった。
次に登場した捜査室のメンバーは、明智さん。
種目は、『デジタル射撃』。
耳慣れない言葉に首を傾げていると、室長が笑いながら、小笠原さんを呼んでくれた。
明智さんが居ないので空いている私の隣の席に、PCの愛機ナナコを抱えて小笠原さんが座る。
穂積
「不正を疑われたくないから、ナナコは開かないでね」
小笠原
「分かった」
穂積
「敬語!」
室長の言葉に頷いた小笠原さんは、足元にナナコを置いて、眼下のフィールドを指差した。
小笠原
「今、フィールドに、四角い箱みたいなのが並べられただろ」
翼
「はい」
1、2、3……8台ある。
小笠原
「あれが、デジタルターゲット。つまり、標的」
なるほど、巨大スクリーンで確認すると、箱の側面の中央に、黒い円が描かれている。
小笠原
「あの円が、赤外線レーザー光線を受光する構造になっているんだ」
翼
「赤外線レーザー光線、ですか」
私はそのまま繰り返す。
小笠原さんは頷いた。
小笠原
「光線を発射するのは、デジタルピストル。今、用具係がテーブルの上に並べてるだろ」
普通の拳銃より一回り大きい、変わったデザインのピストル。ちょっとSFっぽいと言うか。
小笠原
「10mの距離から、あれで標的を撃つ。標的の機械はパソコンとケーブルで繋がっていて、得点はパソコンに表示されるんだ」
へえ。
小笠原
「最近は国体の種目にもなってる、れっきとした競技だよ。安全で精度も高いからね」
隣の席から、室長がぱちぱちと拍手した。
穂積
「初心者向きの説明が上手になったわね、小笠原」
小笠原さんは口をへの字にして赤くなったけれど、褒められて満更でもないみたい。
そうこうするうちに準備が整ったようで、歓声が大きくなった。
選手入場だ。
楕円形のフィールドの中に並べられた標的から10mの距離をおいて、8人の選手が一列に並んだ。
明智さんは、ほぼ真ん中だ。
競技の説明があり、いよいよ選手がピストルを構えると、会場の声が静まってゆく。
そういう決まりなのか、ピストルを手にした射撃スタイルは、全員が、標的に対して半身で構えた片手撃ち。
明智さんがピストルを持った腕を伸ばし、標的を見据える。
ピー、という電子音が響いて、全員が、最初の射撃を行った。
明智さんの標的が瞬く。命中だ。
二発、三発。
選手の集中力が伝わって来て、会場は徐々に静まり返っていく。見ているこっちの胃が痛くなりそう。
規定の十発を撃ち終え、選手全員がピストルを置いたところで、ようやく、会場も呼吸を取り戻した。
けれど、重要なのはここから。
同じようにして、さらに3組が射撃を行った。
8人ずつ4組、計32人が撃ち終えたところで、係官が数人でパソコンを操作し、得点を集計していく。
もしも上位が同点なら、もう一度十発ずつ撃つのだと、小笠原さんが教えてくれた。
ああ、決まって欲しい。もう、あの空気は耐えられない。
私は胸の前で手を組んだ。
放送
『デジタル射撃の結果を発表致します。8位……7位……、1位、明智誠臣。生活安全部』
小笠原
「やった」
小笠原さんが小さく呟いたのを、私は聞き逃さなかった。
入場門から、列を作って、選手たちが入場してきた。
総勢、およそ60人というところかしら。
明智
「対策本部と警察学校を除く八つの部署から、それぞれ8人出てるからな。8人ずつの予選を8レースやって、各レースの上位1人が、決勝進出だ」
明智さんが解説してくれる。
翼
「みんな速そう……」
私は不安になってきた。
こーちゃんの足が速いのは知ってるけど、他の人と比べた事は無い。
藤守
「如月は第2レースやな」
手を翳してトラックを見た藤守さんが、呟いた。
目を凝らしてみれば、上下のウェアを脱ぎ、ランニングとショートパンツ姿になったこーちゃんが、待機しながらストレッチをしている。
その表情は、真剣だ。
彼の視線の先には、すでにスタートラインに立った、第1レースの選手たちがいる。
その選手たちが身構えると同時に、タァン、と乾いた音が響いた。
うわ。
速い速い速い。あっという間に8人がゴールしてしまった。
翼
「……!」
オリンピックみたい、と、こーちゃんが言った通りだ。
サイドスタンド側に取り付けられた巨大なスクリーンに、さっきのレースのVTRが再現された。
1位と2位の選手が群を抜いていて、判定は分かりやすい。
赤と、緑のゼッケンだ。
穂積
「くそ、刑事部か」
室長が独り舌打ちする。
私は、次のレースにスタンバイしたこーちゃんの姿を探した。
こーちゃんは第7レーン、胸と背には、生活安全部の青いゼッケンをつけている。
手首と足首を回した後、両手でパン、と頬を打って気合いを入れたこーちゃんが、スタートの体勢になった。
頑張って、こーちゃん。
タァン。
私は息を止めて、レースを見つめた。
こーちゃんは……
速い。
後ろの人より三歩ほども速く、こーちゃんは、トップでゴールした。
翼
「きゃー!」
穂積
「よし!」
ゴールを駆け抜けたこーちゃんが、観客席の私たちに手を振った。
私は一生懸命、手を振り返す。
トラックには早くも、次の選手たちがスタンバイしていた。
第8レースが終わり、決勝の8人が決定した。
赤のゼッケン(刑事部)4人、緑のゼッケン(警備部)3人、そして、我らがこーちゃんだ。
さすがのこーちゃんも、緊張しているみたい。
走り出したらたった数秒。
私は身構えた。
スタートラインに立ったこーちゃんは、意外な動きをした。
両手を高く上げ、頭の上で叩き始めたのだ。
私の近くでは、室長と藤守さんが即座に反応した。
2人は同時に立ち上がり、こーちゃんの動きに合わせて、手を叩き始めた。
藤守
「こ・う・へい!」
穂積
「こ・う・へい!」
遅れる事数秒、満員の一般席から、観客が一斉に、手拍子を送り始めた。
観客
「こ・う・へい!こ・う・へい!」
8人の選手の中の、たった一人の青いゼッケンの為に、大観衆が声援を送る。
こーちゃんが手を叩くのを止めても、観客からの手拍子は、もうおさまらなかった。
喧騒の中、選手は準備を整え、そして、ピストルが鳴った。
こーちゃんの名前を呼んでいた声は、すぐに、大歓声に変わった。
如月
「いっやー、気分良かったなあ!」
首から金メダルを提げて帰って来たこーちゃんは、満面の笑み。
翼
「凄かったです!凄かったです!」
私はまだ興奮が冷めない。
小野瀬
「……それにしても心臓が強いねえ、如月くんは」
小野瀬さんは感心しきり。
明智
「完全に、会場を味方につけたな」
明智さんも頷く。
藤守
「世界新は出えへんかったけどな!」
からかいながらも、藤守さんはニコニコしている。
翼
「でも、歴代タイ記録だって放送で言ったじゃないですか!凄いですよ!凄いですよ!」
私が両手を振り回していると、当のこーちゃんが、私に笑顔を向けた。
如月
「そぉ?……んじゃ、翼ちゃんに、ご褒美のキスをもらっちゃおうかな!」
私は固まった。
……そう言えば、そんな約束をさせられたような。
翼
「い、今ですか?!」
助けを求めて見回すけれど、頼みの綱の明智さんは出場の準備に行ってしまったし、藤守さんは温かく見守っているし、室長と小野瀬さんはニヤニヤしている。
穂積
「やってあげなさいよ、櫻井」
小野瀬
「そうだね。その為に頑張ったんだから。ねー如月くん」
如月
「ですよねー」
ううう、四面楚歌。
私は覚悟を決めて、こーちゃんの前に立った。
こーちゃんが、手を膝について、身体を屈めてくれる。
ええい、もう!
私は彼の頬に、ちゅ、と唇を押し当てた。
ひゅーひゅー、と周囲から歓声が上がった。
は、恥ずかしい。
しゃがみこんで丸まった私の傍らで、こーちゃんは小躍りしている。
如月
「やったー!」
ううう。
何なのこの罰ゲーム。
しかも。
如月
「ありがとー!翼ちゃん、俺、次も頑張るから、またよろしくね!」
『また』って……もしかして続くのかしら、これ。
でも、こーちゃんの喜ぶ顔に弱い私は、もう、力なく笑いながら頷くしかなかった。
次に登場した捜査室のメンバーは、明智さん。
種目は、『デジタル射撃』。
耳慣れない言葉に首を傾げていると、室長が笑いながら、小笠原さんを呼んでくれた。
明智さんが居ないので空いている私の隣の席に、PCの愛機ナナコを抱えて小笠原さんが座る。
穂積
「不正を疑われたくないから、ナナコは開かないでね」
小笠原
「分かった」
穂積
「敬語!」
室長の言葉に頷いた小笠原さんは、足元にナナコを置いて、眼下のフィールドを指差した。
小笠原
「今、フィールドに、四角い箱みたいなのが並べられただろ」
翼
「はい」
1、2、3……8台ある。
小笠原
「あれが、デジタルターゲット。つまり、標的」
なるほど、巨大スクリーンで確認すると、箱の側面の中央に、黒い円が描かれている。
小笠原
「あの円が、赤外線レーザー光線を受光する構造になっているんだ」
翼
「赤外線レーザー光線、ですか」
私はそのまま繰り返す。
小笠原さんは頷いた。
小笠原
「光線を発射するのは、デジタルピストル。今、用具係がテーブルの上に並べてるだろ」
普通の拳銃より一回り大きい、変わったデザインのピストル。ちょっとSFっぽいと言うか。
小笠原
「10mの距離から、あれで標的を撃つ。標的の機械はパソコンとケーブルで繋がっていて、得点はパソコンに表示されるんだ」
へえ。
小笠原
「最近は国体の種目にもなってる、れっきとした競技だよ。安全で精度も高いからね」
隣の席から、室長がぱちぱちと拍手した。
穂積
「初心者向きの説明が上手になったわね、小笠原」
小笠原さんは口をへの字にして赤くなったけれど、褒められて満更でもないみたい。
そうこうするうちに準備が整ったようで、歓声が大きくなった。
選手入場だ。
楕円形のフィールドの中に並べられた標的から10mの距離をおいて、8人の選手が一列に並んだ。
明智さんは、ほぼ真ん中だ。
競技の説明があり、いよいよ選手がピストルを構えると、会場の声が静まってゆく。
そういう決まりなのか、ピストルを手にした射撃スタイルは、全員が、標的に対して半身で構えた片手撃ち。
明智さんがピストルを持った腕を伸ばし、標的を見据える。
ピー、という電子音が響いて、全員が、最初の射撃を行った。
明智さんの標的が瞬く。命中だ。
二発、三発。
選手の集中力が伝わって来て、会場は徐々に静まり返っていく。見ているこっちの胃が痛くなりそう。
規定の十発を撃ち終え、選手全員がピストルを置いたところで、ようやく、会場も呼吸を取り戻した。
けれど、重要なのはここから。
同じようにして、さらに3組が射撃を行った。
8人ずつ4組、計32人が撃ち終えたところで、係官が数人でパソコンを操作し、得点を集計していく。
もしも上位が同点なら、もう一度十発ずつ撃つのだと、小笠原さんが教えてくれた。
ああ、決まって欲しい。もう、あの空気は耐えられない。
私は胸の前で手を組んだ。
放送
『デジタル射撃の結果を発表致します。8位……7位……、1位、明智誠臣。生活安全部』
小笠原
「やった」
小笠原さんが小さく呟いたのを、私は聞き逃さなかった。