夏のイベント大作戦
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小野瀬さんと原宿署
翼
「ええっと……」
どの署へ行こうか。
私が捜査室のみんなの顔を見比べた時、背後で扉が開いた。
小野瀬
「混ーぜーてー♪」
翼
「小野瀬さん?」
小野瀬さんは真っ直ぐ、私に近付いて来た。
小野瀬
「んー。……この感じだと、まだ決定してないね?じゃ、櫻井さんは、俺と原宿署で決まり」
ぽん、と私の両肩に手を置く。
全員
「はあ?!」
小野瀬さんは全く動じず、切ない表情を作って、私の肩を撫でた。
小野瀬
「櫻井さん、聞いて?今年はイベントの日程があちこちで被っちゃったから、人手が足りないんだって。それで俺まで」
穂積
「待ちなさい!」
つかつか歩み寄った室長が、小野瀬さんの手を掴んで捻り上げた。
小野瀬
「痛い、痛い!」
穂積
「アンタに預けるぐらいなら、この子を連れて、ワタシが原宿を歩くわよ!」
室長はそう言って、小野瀬さんを突き飛ばした。
如月
「室長が原宿歩いたら、芸能界にスカウトされちゃいますから!」
藤守
「援交思われるんちゃうか?」
明智
「そもそも原宿の街は歩かないだろう」
小野瀬
「明智くんの言う通りだよ。場所は、千駄ヶ谷駅前交番だから」
藤守さんの頭を拳でグリグリしながら、室長が振り返った。
穂積
「櫻井!こいつは、駅前でも交番の前ででもナンパするわよ!」
小野瀬
「たまたま交番の前だっただけだよ」
小笠原
「……実話なんだ」
翼
「室長、あの、原宿署のイベントは何ですか?」
穂積
「出張相談所よ。たしか、《犯罪等による被害の未然防止に関係する相談》だったかしら」
翼
「……それは、もしかして、ストーカーとか、ですか?」
穂積
「そうね。児童虐待や、DVもあるわよ。法改正で、警察が介入出来る案件も増えたから」
翼
「……私、興味あります」
小野瀬さんが、ぱちぱちと拍手をした。
小野瀬
「はい、決まりー」
穂積
「知らないの?今まさにアンタの目の前にいるのがストーカーよ、櫻井」
小野瀬
「失礼だなあ」
翼
「小野瀬さん、よろしくお願いします」
私が頭を下げると、小野瀬さんはにっこり笑った。
小野瀬
「もちろんだよ。こちらこそ、よろしくね」
こうして私は、小野瀬さんと行く事になった。
今日は白衣じゃない小野瀬さんの座るパイプ椅子の前の席には、行列が出来ていた。
明らかに相談よりも小野瀬さん目当ての女性が多いけど、小野瀬さんは終止笑顔で、話を聞いていた。
小野瀬
「……そうなんだ。辛かったね。でも、浮気は勘違いだったんでしょ?だったら、彼と仲直り出来るよね?」
……小野瀬さん、何の相談受けてるの。
でも、あんな風に親身になって聞いてくれたら、きっと、話し辛い事も、話したくなるよね。
私の前にも、相談者が座った。
一見、今どきの女子高生。でも、表情が硬い。
翼
「ようこそ。私、櫻井翼です」
私は、自分でPCで作って来た、名前と警視庁の番号が入った名刺を差し出した。
それを受け取ってくれた彼女が、バッグから、自分の手作り名刺を私にくれた。
とっても嬉しい。
翼
「どうもありがとうございます。お名前で呼んでもいいかな?」
沙織
「はい」
翼
「ありがとう。沙織さんも、敬語じゃなく普通に話してね」
沙織
「はい。……あの……本当に、雑談、て感じなんですけど……」
翼
「うん」
沙織
「あたしね……五月の始め頃に……彼氏が出来たの。……初めての、彼」
翼
「うん」
私は慎重に頷いた。
よく観察して、でも、先入観を持ってはいけない。そう、室長に言われて出て来た。
沙織
「七月くらいまでは、楽しかった。……でも……段々、『今、あの男と何話してた』とか『帰りが遅い』とか言われるようになって……」
翼
「……うん」
沙織
「……学校終わるの待ち伏せしてて、家に連れてかれる」
翼
「待ち伏せされてるんだね」
沙織
「うん。電話で呼び出される時もある。……Hしちゃうんだけど。しないと帰れないから」
翼
「『帰るな』って言うのかな?それとも……」
沙織
「……」
沙織さんが下を向いた隙に、私は小野瀬さんに目配せをした。
自分の前のマダムの手を握っていた小野瀬さんが、私の合図に気付いて、頷いてくれた。
小野瀬
「その場合、亡くなったご主人のご兄弟にも、1/4の権利があるんですよ」
……小野瀬さん、何の相談受けてるの。
翼
「……彼氏って、同級生?……二ヶ月前までは、楽しかったんだよね……?」
沙織さんは頷いた。良かった、続けられる。
沙織
「……1コ上。部活の先輩。八月で引退したけど」
翼
「運動部かな?それなら、力も強いよね」
沙織さんは身体を震わせた。
翼
「その人、あなたのお家に来る事もあるのかしら?」
沙織
「ううん。……あたしのお父さん、同じ高校の先生だから。生徒指導で、柔道部顧問で、怖いし。だから、彼、家には来ない」
私はちょっと安心した。彼女にもそれが伝わったようだ。
沙織
「本当は、ずっと学校か家にいたい。もう、彼に会いたくないんだ」
翼
「気持ちは離れてしまった、って事かな?それとも、まだ少しは好きだけど、怖い?」
私の少し後ろに、小野瀬さんが立った。私は自分の手元の走り書きが、小野瀬さんに見えるようにする。
《メイク、頬骨の下黒ずみ、鎖骨に指の跡、夏に長袖の制服(暴力?)、五月~彼氏、待ち伏せ、呼び出されH、父親教師で強い、彼自宅には来ない》
小野瀬さんが、私の後ろから、沙織さんに話し掛けた。
小野瀬
「こんにちは、俺も聞いてていいかな」
沙織さんは、小野瀬さんを見て身体を縮め、眉をひそめた。
小野瀬さんにこの反応、かなり重度かも。
沙織さんからの視線に応えて、私は微笑んだ。
翼
「この人ね、私の先輩で、小野瀬さん。お医者さんみたいな仕事で、剣道も段持ちなんだよ」
予想通り、小野瀬さんが強いと知ると、彼女の表情がほんの少し、緩んだ。
沙織
「……あたし、お父さんにも、話してないよ。怖いし、恥ずかしいし」
小野瀬
「きみに怖くて恥ずかしい思いをさせているのは、彼氏の方じゃないのかな?きみは、何も、悪くないよ」
沙織
「でも、友達とか、誰にも言えない。だって、話した相手にも、ひどい事するかも。……翼さんとか、小野瀬さんは、警察だから強いよね。怖くないでしょ?だから話せる」
私は、沙織さんの手を握った。我慢してるのに、涙腺が熱くなる。
翼
「私たちの事まで、心配してくれてたんだね。ありがとう」
小野瀬
「正直に言うとね、怖いよ。でも、きみの方が、はるかに怖い思いをしてる。だから、一緒に戦うよ。……考えよう、どうすればいいかを」
沙織さんは私と小野瀬さんを交互に見て、頷いた。
恋人同士のストーカーやDVは、対処がとても難しい。
その場で警視庁のデータに検索をかけたけど、少年にもその家族にも前科はなかった。
未成年で初犯。一番厄介な事例だった。
小野瀬
「……粘着質で、暴力も振るう。……でも、自分より強い相手には弱い」
考えを整理するように、ゆっくりとした口調で小野瀬さんが言った。
沙織さんが頷く。
翼
「あなたから見て、どうだろう。例えばお父さんや、警察の人から、『やめろ』とか言われたら、やめるタイプ?」
沙織
「それは……やめる気がする。気が弱い所あるし、飽きっぽいし。お父さんの事、凄く怖がってるし」
小野瀬
「じゃあ、制服の警官から、直接、彼に、二度とつきまとわないよう言ってもらって……」
小野瀬さんは考えながら、呟いた。
小野瀬
「『この事は沙織さんのお父さんも知ってて、怒ってる』とも言ってもらうのは、どう?」
沙織
「効果、あると思う。……でも、実際は、お父さんには言わないでいてくれる?知られたくない」
私と小野瀬さんは、揃って頷いた。
小野瀬
「もちろん」
翼
「ただし、被害届は出してもらうね。そうしないと、警察も、何も出来ないから」
沙織
「出す」
沙織さんは即答した。
沙織
「今、出す」
小野瀬
「それがいい。俺たちからも、所轄の担当者に頼んでみるよ」
沙織
「うん」
彼女は頷いて、それから、付け足した。
沙織
「ありがとう。元気出てきた」
良かった。
私と小野瀬さんは彼女を車で最寄りの署まで連れていき、担当者に事情を説明して協力を要請した。
彼女はその場で被害届を書くと言うので、私たちは、後を任せて署を出てきた。
翼
「何かあったら、交番か私に連絡してね」
沙織
「ありがとう!」
沙織さんの笑顔に見送られて、私たちは帰路についた。
翼
「私たち、本当に沙織さんを救えるんでしょうか」
小野瀬さんが運転する車の中で、私は呟いた。
小野瀬
「……彼女は、きみに相談する事が出来た。勇気のある子だ。きっと、うまくいくよ」
そう思いたい。
小野瀬
「恋愛って難しいね」
私は、ぷっと噴き出してしまった。
翼
「小野瀬さんの口から、『恋愛は難しい』だなんて」
小野瀬
「……きみの目に、俺はどう映っているのかな」
真面目に言われて、言葉に詰まる。でも、すぐに、小野瀬さんはいつもの笑顔になった。
小野瀬
「せっかくだから、一緒に原宿歩いてみる?」
翼
「だ、駄目です!小野瀬さん、スカウトされちゃう」
小野瀬
「ははは。きみにならスカウトされてもいいけど。いや、むしろ、されたい」
翼
「もう!」
笑う小野瀬さんの横顔を見ながら、私はまた、沙織さんの事を考えていた。
……最初は、お互いに好きだったはずなのにな。
恋愛って難しいね。
小野瀬さんの言葉の意味を考えながら、私はそっと目を閉じた。
~小野瀬編 END~
翼
「ええっと……」
どの署へ行こうか。
私が捜査室のみんなの顔を見比べた時、背後で扉が開いた。
小野瀬
「混ーぜーてー♪」
翼
「小野瀬さん?」
小野瀬さんは真っ直ぐ、私に近付いて来た。
小野瀬
「んー。……この感じだと、まだ決定してないね?じゃ、櫻井さんは、俺と原宿署で決まり」
ぽん、と私の両肩に手を置く。
全員
「はあ?!」
小野瀬さんは全く動じず、切ない表情を作って、私の肩を撫でた。
小野瀬
「櫻井さん、聞いて?今年はイベントの日程があちこちで被っちゃったから、人手が足りないんだって。それで俺まで」
穂積
「待ちなさい!」
つかつか歩み寄った室長が、小野瀬さんの手を掴んで捻り上げた。
小野瀬
「痛い、痛い!」
穂積
「アンタに預けるぐらいなら、この子を連れて、ワタシが原宿を歩くわよ!」
室長はそう言って、小野瀬さんを突き飛ばした。
如月
「室長が原宿歩いたら、芸能界にスカウトされちゃいますから!」
藤守
「援交思われるんちゃうか?」
明智
「そもそも原宿の街は歩かないだろう」
小野瀬
「明智くんの言う通りだよ。場所は、千駄ヶ谷駅前交番だから」
藤守さんの頭を拳でグリグリしながら、室長が振り返った。
穂積
「櫻井!こいつは、駅前でも交番の前ででもナンパするわよ!」
小野瀬
「たまたま交番の前だっただけだよ」
小笠原
「……実話なんだ」
翼
「室長、あの、原宿署のイベントは何ですか?」
穂積
「出張相談所よ。たしか、《犯罪等による被害の未然防止に関係する相談》だったかしら」
翼
「……それは、もしかして、ストーカーとか、ですか?」
穂積
「そうね。児童虐待や、DVもあるわよ。法改正で、警察が介入出来る案件も増えたから」
翼
「……私、興味あります」
小野瀬さんが、ぱちぱちと拍手をした。
小野瀬
「はい、決まりー」
穂積
「知らないの?今まさにアンタの目の前にいるのがストーカーよ、櫻井」
小野瀬
「失礼だなあ」
翼
「小野瀬さん、よろしくお願いします」
私が頭を下げると、小野瀬さんはにっこり笑った。
小野瀬
「もちろんだよ。こちらこそ、よろしくね」
こうして私は、小野瀬さんと行く事になった。
今日は白衣じゃない小野瀬さんの座るパイプ椅子の前の席には、行列が出来ていた。
明らかに相談よりも小野瀬さん目当ての女性が多いけど、小野瀬さんは終止笑顔で、話を聞いていた。
小野瀬
「……そうなんだ。辛かったね。でも、浮気は勘違いだったんでしょ?だったら、彼と仲直り出来るよね?」
……小野瀬さん、何の相談受けてるの。
でも、あんな風に親身になって聞いてくれたら、きっと、話し辛い事も、話したくなるよね。
私の前にも、相談者が座った。
一見、今どきの女子高生。でも、表情が硬い。
翼
「ようこそ。私、櫻井翼です」
私は、自分でPCで作って来た、名前と警視庁の番号が入った名刺を差し出した。
それを受け取ってくれた彼女が、バッグから、自分の手作り名刺を私にくれた。
とっても嬉しい。
翼
「どうもありがとうございます。お名前で呼んでもいいかな?」
沙織
「はい」
翼
「ありがとう。沙織さんも、敬語じゃなく普通に話してね」
沙織
「はい。……あの……本当に、雑談、て感じなんですけど……」
翼
「うん」
沙織
「あたしね……五月の始め頃に……彼氏が出来たの。……初めての、彼」
翼
「うん」
私は慎重に頷いた。
よく観察して、でも、先入観を持ってはいけない。そう、室長に言われて出て来た。
沙織
「七月くらいまでは、楽しかった。……でも……段々、『今、あの男と何話してた』とか『帰りが遅い』とか言われるようになって……」
翼
「……うん」
沙織
「……学校終わるの待ち伏せしてて、家に連れてかれる」
翼
「待ち伏せされてるんだね」
沙織
「うん。電話で呼び出される時もある。……Hしちゃうんだけど。しないと帰れないから」
翼
「『帰るな』って言うのかな?それとも……」
沙織
「……」
沙織さんが下を向いた隙に、私は小野瀬さんに目配せをした。
自分の前のマダムの手を握っていた小野瀬さんが、私の合図に気付いて、頷いてくれた。
小野瀬
「その場合、亡くなったご主人のご兄弟にも、1/4の権利があるんですよ」
……小野瀬さん、何の相談受けてるの。
翼
「……彼氏って、同級生?……二ヶ月前までは、楽しかったんだよね……?」
沙織さんは頷いた。良かった、続けられる。
沙織
「……1コ上。部活の先輩。八月で引退したけど」
翼
「運動部かな?それなら、力も強いよね」
沙織さんは身体を震わせた。
翼
「その人、あなたのお家に来る事もあるのかしら?」
沙織
「ううん。……あたしのお父さん、同じ高校の先生だから。生徒指導で、柔道部顧問で、怖いし。だから、彼、家には来ない」
私はちょっと安心した。彼女にもそれが伝わったようだ。
沙織
「本当は、ずっと学校か家にいたい。もう、彼に会いたくないんだ」
翼
「気持ちは離れてしまった、って事かな?それとも、まだ少しは好きだけど、怖い?」
私の少し後ろに、小野瀬さんが立った。私は自分の手元の走り書きが、小野瀬さんに見えるようにする。
《メイク、頬骨の下黒ずみ、鎖骨に指の跡、夏に長袖の制服(暴力?)、五月~彼氏、待ち伏せ、呼び出されH、父親教師で強い、彼自宅には来ない》
小野瀬さんが、私の後ろから、沙織さんに話し掛けた。
小野瀬
「こんにちは、俺も聞いてていいかな」
沙織さんは、小野瀬さんを見て身体を縮め、眉をひそめた。
小野瀬さんにこの反応、かなり重度かも。
沙織さんからの視線に応えて、私は微笑んだ。
翼
「この人ね、私の先輩で、小野瀬さん。お医者さんみたいな仕事で、剣道も段持ちなんだよ」
予想通り、小野瀬さんが強いと知ると、彼女の表情がほんの少し、緩んだ。
沙織
「……あたし、お父さんにも、話してないよ。怖いし、恥ずかしいし」
小野瀬
「きみに怖くて恥ずかしい思いをさせているのは、彼氏の方じゃないのかな?きみは、何も、悪くないよ」
沙織
「でも、友達とか、誰にも言えない。だって、話した相手にも、ひどい事するかも。……翼さんとか、小野瀬さんは、警察だから強いよね。怖くないでしょ?だから話せる」
私は、沙織さんの手を握った。我慢してるのに、涙腺が熱くなる。
翼
「私たちの事まで、心配してくれてたんだね。ありがとう」
小野瀬
「正直に言うとね、怖いよ。でも、きみの方が、はるかに怖い思いをしてる。だから、一緒に戦うよ。……考えよう、どうすればいいかを」
沙織さんは私と小野瀬さんを交互に見て、頷いた。
恋人同士のストーカーやDVは、対処がとても難しい。
その場で警視庁のデータに検索をかけたけど、少年にもその家族にも前科はなかった。
未成年で初犯。一番厄介な事例だった。
小野瀬
「……粘着質で、暴力も振るう。……でも、自分より強い相手には弱い」
考えを整理するように、ゆっくりとした口調で小野瀬さんが言った。
沙織さんが頷く。
翼
「あなたから見て、どうだろう。例えばお父さんや、警察の人から、『やめろ』とか言われたら、やめるタイプ?」
沙織
「それは……やめる気がする。気が弱い所あるし、飽きっぽいし。お父さんの事、凄く怖がってるし」
小野瀬
「じゃあ、制服の警官から、直接、彼に、二度とつきまとわないよう言ってもらって……」
小野瀬さんは考えながら、呟いた。
小野瀬
「『この事は沙織さんのお父さんも知ってて、怒ってる』とも言ってもらうのは、どう?」
沙織
「効果、あると思う。……でも、実際は、お父さんには言わないでいてくれる?知られたくない」
私と小野瀬さんは、揃って頷いた。
小野瀬
「もちろん」
翼
「ただし、被害届は出してもらうね。そうしないと、警察も、何も出来ないから」
沙織
「出す」
沙織さんは即答した。
沙織
「今、出す」
小野瀬
「それがいい。俺たちからも、所轄の担当者に頼んでみるよ」
沙織
「うん」
彼女は頷いて、それから、付け足した。
沙織
「ありがとう。元気出てきた」
良かった。
私と小野瀬さんは彼女を車で最寄りの署まで連れていき、担当者に事情を説明して協力を要請した。
彼女はその場で被害届を書くと言うので、私たちは、後を任せて署を出てきた。
翼
「何かあったら、交番か私に連絡してね」
沙織
「ありがとう!」
沙織さんの笑顔に見送られて、私たちは帰路についた。
翼
「私たち、本当に沙織さんを救えるんでしょうか」
小野瀬さんが運転する車の中で、私は呟いた。
小野瀬
「……彼女は、きみに相談する事が出来た。勇気のある子だ。きっと、うまくいくよ」
そう思いたい。
小野瀬
「恋愛って難しいね」
私は、ぷっと噴き出してしまった。
翼
「小野瀬さんの口から、『恋愛は難しい』だなんて」
小野瀬
「……きみの目に、俺はどう映っているのかな」
真面目に言われて、言葉に詰まる。でも、すぐに、小野瀬さんはいつもの笑顔になった。
小野瀬
「せっかくだから、一緒に原宿歩いてみる?」
翼
「だ、駄目です!小野瀬さん、スカウトされちゃう」
小野瀬
「ははは。きみにならスカウトされてもいいけど。いや、むしろ、されたい」
翼
「もう!」
笑う小野瀬さんの横顔を見ながら、私はまた、沙織さんの事を考えていた。
……最初は、お互いに好きだったはずなのにな。
恋愛って難しいね。
小野瀬さんの言葉の意味を考えながら、私はそっと目を閉じた。
~小野瀬編 END~