夏のイベント大作戦
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如月さんと赤坂署
如月
「ハイ!室長、ハイ!」
いきなり、如月さんが元気よく手を挙げた。
穂積
「はい、如月くん」
如月
「俺、翼ちゃんと組みたいです!」
ニコニコ言う如月さんに、室長も苦笑いだ。
穂積
「如月は……、赤坂署の出張相談所ね。どう?櫻井」
翼
「え、私はもちろん。でもあの、出張相談なんて、出来るかどうか」
如月
「平気へーき!いろんなタイプの相談があるからさ、手続きを教えたり、遺失物の受付なら出来るでしょ」
そう言えば如月さん、さっきも遺失物って言ってたな。
穂積
「じゃあ、櫻井。如月をお願いね」
如月
「ちょっ、室長!逆でしょ?」
穂積
「あらごめんなさい。じゃあ、如月。櫻井を頼んだわよ」
翼
「如月さん、よろしくお願いします」
如月
「ちぇー」
こうして、私と如月さんは、赤坂署に向かった。
赤坂見附交番前。
仮設テントの下、所轄の警察官と共に、私は警察への諸手続きの相談、如月さんは遺失物の相談を引き受けていた。
翼
「はい、それでしたら、この書類に必要事項を書いて頂けますか?……最初に、ここへ、今日の日付をお願いします」
残暑とは言え曇り空が幸いして、本日はなかなかの盛況ぶり。
自分の仕事が一息つくと、傍らの女性警察官が、笑顔でペットボトルを差し入れてくれた。
女性警察官
「櫻井さん、お疲れ様!」
翼
「ありがとうございます」
私はペットボトルを受け取った。ひんやり冷たくて、ホッとする。
女性警察官
「櫻井さんの説明、分かりやすいって。評判いいですよ」
翼
「そう言って頂けて、安心しました」
彼女は笑顔のまま、少し離れた場所で遺失物相談を受けている如月さんに顔を向けた。
如月さんはパイプ椅子に座って身を乗り出し、肘をついて、テーブル越しに向かい合った椅子の男性と話をしていた。
男性は大学生ぐらいだと思うけど、社会人の如月さんの方が若く見えるのは何故だろう。
そして何と言うか……盛り上がってるのは何故だろう。
如月
「マジでー?」
大学生
「マジっすよ!焦りましたよ!」
如月
「今からでもいいからさ、紛失届け出しなよ。カードとか保険証とかさ、悪用されたらヤバイよ」
大学生
「ですよね。……一日経ったら、心配になってきちゃったんすよ。で、通り掛かったら、たまたまこんなのやってっから」
如月
「うんうん。届け出しとけば、これ以降は、例えば免許証で闇金行かれてもさ、被害として認められるから」
大学生
「あ、そっか。怖えー!」
如月さんは、こちらをチラッと見た。
如月
「あそこにさ、グレーのスーツの可愛い子がいるだろ。あの子に書き方教わってさ、紛失届出しといてよ、一応」
大学生
「はい!」
安堵した顔で、今度は私の所に来た大学生に話を聞きながら、私は届出書類の書き方を教えた。
彼は昨日、大学の仲間と海に行き、泳いで帰って来たら、荷物の中に財布がなかった。
海の家の隅に、仲間とまとめて荷物を置いた後、海から出てくるまでの間に、誰かに盗まれたのかも知れない。
朝、友達が車で迎えに来てくれたので、そこまではお金を使っていない。
海の家で焼きそばを買おうとして気付いたので、もしかしたら、家を出る時から持っていなかったのかも知れない。
そう思って帰宅後調べたが、財布はどこにも無い。
となると、やっぱり自分は昨日、財布をバッグに入れて家を出た事になる。
いや、あるいは、さらに前の日、家に帰るまでの間に落として、昨日、気付かないまま海に出掛けたのかも知れない。
そんな風に考えていたら、どこで無くしたのか、分からなくなってしまったと言う。
届けを出したからといって見つかる保証はないが、遺失物届けを出す事で、防げる災難はいくつもある。
私は出来るだけ丁寧に、大学生と記憶を辿りながら、書類を書いて提出させた。
イベントを終え、如月さんと私は、駅に向かって歩いていた。
如月
「あー、疲れたねえ」
翼
「曇りで良かったですね」
如月
「でも翼ちゃん、日に焼けちゃったかもね。帰ったら、ちゃんとケアしてよ」
翼
「はい」
如月さんは、あの大学生の事を思い出しているようだった。
如月
「……俺さ、警視庁に入ったばかりの非番の日に、電車で財布を無くしたんだ。ポケットに入れたまま、いつの間にか寝ちゃってさ。電車を降りたら財布が無かった」
私は眉をひそめた。
翼
「……それって」
如月
「うん、もしかしたら、スられちゃったのかもね。いまだに見つからないんだよ」
如月さんは、ちょっと悔しそうな表情をした。
如月
「俺、別のポケットの切符とケータイ以外、何も持ってなかった。その場で駅員に言って車両を調べてもらったけど無くて、駅前交番で紛失届け出したよ。でもさ、お金は貸してもらえないし、身分証明出来るものは何も無いし。警察官なのに」
私はその状況を想像してみた。
何もかも不安で、どうすればいいか分からなくなってしまいそうだった。
如月
「幸い、ケータイは使えたからさ。当時の上司に電話して、迎えに来てもらった」
翼
「……」
如月
「帰ってからがまた大変。家の鍵は無い、銀行やクレジットのカードは止めなきゃならない、保険証を再発行しないと、免許証も再発行出来ない」
翼
「悪用はされませんでしたか?」
如月
「うん。多分、現金だけ抜いて、財布やカードは捨てたんじゃないかな。使われた形跡は無かった」
翼
「不幸中の幸いですね」
如月さんは微笑んで、頷いた。
如月
「だからさ、遺失物相談て聞くと、じっとしていられないんだよね」
それで、最初から遺失物にこだわっていたんだ。
翼
「今日の大学生、如月さんに感謝してますよ。きっと」
如月
「そうかなあ」
翼
「はい」
私が言うと、如月さんは嬉しそうに笑ってくれた。
如月
「やっぱり今日、翼ちゃんと一緒で良かったよ」
翼
「えっ?」
だってさ、と如月さんが続けた。
如月
「翼ちゃん、俺の財布の話、笑ったり、馬鹿にしたりしなかったじゃん」
私はうろたえてしまった。
翼
「そんな事……当たり前です」
如月
「うん。そういう子なんだなあって、分かった」
如月さんは少し照れたように、笑った。
それから急に、私と手を繋いだ。
如月
「さ、帰ろ」
もう、駅はすぐそこだった。
~如月編 END~
如月
「ハイ!室長、ハイ!」
いきなり、如月さんが元気よく手を挙げた。
穂積
「はい、如月くん」
如月
「俺、翼ちゃんと組みたいです!」
ニコニコ言う如月さんに、室長も苦笑いだ。
穂積
「如月は……、赤坂署の出張相談所ね。どう?櫻井」
翼
「え、私はもちろん。でもあの、出張相談なんて、出来るかどうか」
如月
「平気へーき!いろんなタイプの相談があるからさ、手続きを教えたり、遺失物の受付なら出来るでしょ」
そう言えば如月さん、さっきも遺失物って言ってたな。
穂積
「じゃあ、櫻井。如月をお願いね」
如月
「ちょっ、室長!逆でしょ?」
穂積
「あらごめんなさい。じゃあ、如月。櫻井を頼んだわよ」
翼
「如月さん、よろしくお願いします」
如月
「ちぇー」
こうして、私と如月さんは、赤坂署に向かった。
赤坂見附交番前。
仮設テントの下、所轄の警察官と共に、私は警察への諸手続きの相談、如月さんは遺失物の相談を引き受けていた。
翼
「はい、それでしたら、この書類に必要事項を書いて頂けますか?……最初に、ここへ、今日の日付をお願いします」
残暑とは言え曇り空が幸いして、本日はなかなかの盛況ぶり。
自分の仕事が一息つくと、傍らの女性警察官が、笑顔でペットボトルを差し入れてくれた。
女性警察官
「櫻井さん、お疲れ様!」
翼
「ありがとうございます」
私はペットボトルを受け取った。ひんやり冷たくて、ホッとする。
女性警察官
「櫻井さんの説明、分かりやすいって。評判いいですよ」
翼
「そう言って頂けて、安心しました」
彼女は笑顔のまま、少し離れた場所で遺失物相談を受けている如月さんに顔を向けた。
如月さんはパイプ椅子に座って身を乗り出し、肘をついて、テーブル越しに向かい合った椅子の男性と話をしていた。
男性は大学生ぐらいだと思うけど、社会人の如月さんの方が若く見えるのは何故だろう。
そして何と言うか……盛り上がってるのは何故だろう。
如月
「マジでー?」
大学生
「マジっすよ!焦りましたよ!」
如月
「今からでもいいからさ、紛失届け出しなよ。カードとか保険証とかさ、悪用されたらヤバイよ」
大学生
「ですよね。……一日経ったら、心配になってきちゃったんすよ。で、通り掛かったら、たまたまこんなのやってっから」
如月
「うんうん。届け出しとけば、これ以降は、例えば免許証で闇金行かれてもさ、被害として認められるから」
大学生
「あ、そっか。怖えー!」
如月さんは、こちらをチラッと見た。
如月
「あそこにさ、グレーのスーツの可愛い子がいるだろ。あの子に書き方教わってさ、紛失届出しといてよ、一応」
大学生
「はい!」
安堵した顔で、今度は私の所に来た大学生に話を聞きながら、私は届出書類の書き方を教えた。
彼は昨日、大学の仲間と海に行き、泳いで帰って来たら、荷物の中に財布がなかった。
海の家の隅に、仲間とまとめて荷物を置いた後、海から出てくるまでの間に、誰かに盗まれたのかも知れない。
朝、友達が車で迎えに来てくれたので、そこまではお金を使っていない。
海の家で焼きそばを買おうとして気付いたので、もしかしたら、家を出る時から持っていなかったのかも知れない。
そう思って帰宅後調べたが、財布はどこにも無い。
となると、やっぱり自分は昨日、財布をバッグに入れて家を出た事になる。
いや、あるいは、さらに前の日、家に帰るまでの間に落として、昨日、気付かないまま海に出掛けたのかも知れない。
そんな風に考えていたら、どこで無くしたのか、分からなくなってしまったと言う。
届けを出したからといって見つかる保証はないが、遺失物届けを出す事で、防げる災難はいくつもある。
私は出来るだけ丁寧に、大学生と記憶を辿りながら、書類を書いて提出させた。
イベントを終え、如月さんと私は、駅に向かって歩いていた。
如月
「あー、疲れたねえ」
翼
「曇りで良かったですね」
如月
「でも翼ちゃん、日に焼けちゃったかもね。帰ったら、ちゃんとケアしてよ」
翼
「はい」
如月さんは、あの大学生の事を思い出しているようだった。
如月
「……俺さ、警視庁に入ったばかりの非番の日に、電車で財布を無くしたんだ。ポケットに入れたまま、いつの間にか寝ちゃってさ。電車を降りたら財布が無かった」
私は眉をひそめた。
翼
「……それって」
如月
「うん、もしかしたら、スられちゃったのかもね。いまだに見つからないんだよ」
如月さんは、ちょっと悔しそうな表情をした。
如月
「俺、別のポケットの切符とケータイ以外、何も持ってなかった。その場で駅員に言って車両を調べてもらったけど無くて、駅前交番で紛失届け出したよ。でもさ、お金は貸してもらえないし、身分証明出来るものは何も無いし。警察官なのに」
私はその状況を想像してみた。
何もかも不安で、どうすればいいか分からなくなってしまいそうだった。
如月
「幸い、ケータイは使えたからさ。当時の上司に電話して、迎えに来てもらった」
翼
「……」
如月
「帰ってからがまた大変。家の鍵は無い、銀行やクレジットのカードは止めなきゃならない、保険証を再発行しないと、免許証も再発行出来ない」
翼
「悪用はされませんでしたか?」
如月
「うん。多分、現金だけ抜いて、財布やカードは捨てたんじゃないかな。使われた形跡は無かった」
翼
「不幸中の幸いですね」
如月さんは微笑んで、頷いた。
如月
「だからさ、遺失物相談て聞くと、じっとしていられないんだよね」
それで、最初から遺失物にこだわっていたんだ。
翼
「今日の大学生、如月さんに感謝してますよ。きっと」
如月
「そうかなあ」
翼
「はい」
私が言うと、如月さんは嬉しそうに笑ってくれた。
如月
「やっぱり今日、翼ちゃんと一緒で良かったよ」
翼
「えっ?」
だってさ、と如月さんが続けた。
如月
「翼ちゃん、俺の財布の話、笑ったり、馬鹿にしたりしなかったじゃん」
私はうろたえてしまった。
翼
「そんな事……当たり前です」
如月
「うん。そういう子なんだなあって、分かった」
如月さんは少し照れたように、笑った。
それから急に、私と手を繋いだ。
如月
「さ、帰ろ」
もう、駅はすぐそこだった。
~如月編 END~