夏のイベント大作戦
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小笠原さんと街宣
翼
「私、小笠原さんをお手伝いします」
私が答えると、全員の視線が一斉に小笠原さんに集まった。
小笠原さんはちょっとビックリしたような表情をした後、何故か、私ではなく室長を睨む。
そう言えば、小笠原さんが何をするのか、まだ聞いてなかったな。
穂積
「小笠原には、広報から要請のあった、パトカーでの街宣を頼むつもりだったんだけど」
室長は微笑みを浮かべたまま、小笠原さんと私とを交互に見た。
穂積
「アンタが一緒の方が、都合がいいかもね。小笠原、どう?」
小笠原
「……」
しばらく考えた末、小笠原さんは、コクンと頷いた。
小笠原
「……いいけど」
穂積
「敬語」
室長は小笠原さんを軽く小突いてから、きれいな文字で、ホワイトボードに小笠原さんと私の名前を書いた。
街宣。
何かと思えば、パトカーに乗ってイベントの宣伝放送をする仕事だった。
運転席に小笠原さん、助手席に拡声器を持った私、後部座席にナナコ。
パトロールも兼ねているので、パトランプを無音で点滅させながらのんびり走る。
人がいそうな場所を通るとき、開催中のイベントの告知をして参加を呼び掛ける、と言うのが私の仕事だ。
翼
「本日、午後2時より午後4時まで、交通安全江戸川区民の集いを開催致します。
場所は、小岩アーバンプラザホールです。
人気漫才コンビによる漫才、自転車走行の安全教育のほか、小岩**中学校の生徒さんによる演舞などが行われます。
ぜひ、ご近所お誘い合わせのうえ、会場へお越し下さいますよう、よろしくお願い致します」
私は、広報課に渡されたメモを読み終えて、ホッと一息ついた。
すると小笠原さんが車を路肩に寄せて、静かに止まった。
翼
「?」
小笠原さんは黙ってナナコを膝に乗せ、何か操作している。
すると突然、拡声器から、私の声が流れ始めた。
《本日、午後2時より午後4時まで、交通安全江戸川区民の集いを開催致します……》
私はビックリした。
小笠原
「録音してみた」
小笠原さんが、ちょっと微笑んだ。
この頃は、時々見せてくれる表情。笑った、って私が喜ぶとムキになって怒るから、言わないけど。
小笠原
「思ったよりクリアに録れてる。きみ、発音がいいからかな」
私は真っ赤になってしまった。
翼
「もう……そういうのは先に言っておいて下さいよ」
小笠原
「ごめん。でも、この方が後々、楽だと思って」
もしかして、私を心配してくれたのかな?
小笠原
「一定間隔でエンドレスに流すよう設定した」
小笠原さんは作業を終えて、ナナコの画面から顔を上げた。
小笠原
「街宣って聞いた時から、録音でいいのにって思ってた」
小笠原さんは再び車を発進させた。
……今の、私はいらなかった、ていう意味じゃない、よね。
こうして二人でいても、昔みたいに、気まずかったり、刺々しい感じは無い。
だから、私は素直に感謝する事にした。
小笠原さんが本当に嫌なら、最初に「嫌だ」って言うか、パトカーに乗り込む段階で来ないか、どちらかのはず。
小笠原
「……きみって変だよね」
翼
「えっ?」
私は思わず、小笠原さんを振り返ってしまった。
小笠原
「俺なんかと組みたいって言ってみたり……、今みたいな非効率な仕事でも、ちゃんと最後まで声を出そうと考えてたり」
ひ、非効率……。
やっぱり、小笠原さんみたいなタイプの人から見ると不可解に思えるぐらい、私には無駄が多いんだろうな。
翼
「だから室長は、『一緒の方が都合がいいかも』って言ったんでしょうか」
小笠原
「えっ?」
今度は、小笠原さんが私を振り返った。
運転中だから、一瞬だけだったけど。
翼
「私一人だと効率が悪いから、小笠原さんに面倒を見てもらうように」
小笠原
「……きみって、賢いのか馬鹿なのか、時々分からなくなるね」
小笠原さんが、前を向いたままで溜め息をついた。
小笠原
「室長は、俺が一人だとサボるし、絶対にアナウンスなんかしないから、『きみが一緒の方が都合がいい』って言ったんだよ」
私が驚いて小笠原さんを見ると、彼はちょっと唇を尖らせていた。
小笠原
「まあ、威張って言う事じゃないし、室長の思ってる通りだけど」
拗ねたように言う小笠原さんは、ほんの少しだけ、頬を赤くした。
……か……
可愛い。
言わないけど。
私の気持ちを知ってか知らずか、小笠原さんはほんの少し、笑った。
小笠原
「今度は、葛西の方へ行ってみようか」
翼
「はい!」
私は元気よく返事をした。
傍らで、小笠原さんの録音した私の声が、拡声器から、青い空に向かって広がっていった。
~小笠原編 END~
翼
「私、小笠原さんをお手伝いします」
私が答えると、全員の視線が一斉に小笠原さんに集まった。
小笠原さんはちょっとビックリしたような表情をした後、何故か、私ではなく室長を睨む。
そう言えば、小笠原さんが何をするのか、まだ聞いてなかったな。
穂積
「小笠原には、広報から要請のあった、パトカーでの街宣を頼むつもりだったんだけど」
室長は微笑みを浮かべたまま、小笠原さんと私とを交互に見た。
穂積
「アンタが一緒の方が、都合がいいかもね。小笠原、どう?」
小笠原
「……」
しばらく考えた末、小笠原さんは、コクンと頷いた。
小笠原
「……いいけど」
穂積
「敬語」
室長は小笠原さんを軽く小突いてから、きれいな文字で、ホワイトボードに小笠原さんと私の名前を書いた。
街宣。
何かと思えば、パトカーに乗ってイベントの宣伝放送をする仕事だった。
運転席に小笠原さん、助手席に拡声器を持った私、後部座席にナナコ。
パトロールも兼ねているので、パトランプを無音で点滅させながらのんびり走る。
人がいそうな場所を通るとき、開催中のイベントの告知をして参加を呼び掛ける、と言うのが私の仕事だ。
翼
「本日、午後2時より午後4時まで、交通安全江戸川区民の集いを開催致します。
場所は、小岩アーバンプラザホールです。
人気漫才コンビによる漫才、自転車走行の安全教育のほか、小岩**中学校の生徒さんによる演舞などが行われます。
ぜひ、ご近所お誘い合わせのうえ、会場へお越し下さいますよう、よろしくお願い致します」
私は、広報課に渡されたメモを読み終えて、ホッと一息ついた。
すると小笠原さんが車を路肩に寄せて、静かに止まった。
翼
「?」
小笠原さんは黙ってナナコを膝に乗せ、何か操作している。
すると突然、拡声器から、私の声が流れ始めた。
《本日、午後2時より午後4時まで、交通安全江戸川区民の集いを開催致します……》
私はビックリした。
小笠原
「録音してみた」
小笠原さんが、ちょっと微笑んだ。
この頃は、時々見せてくれる表情。笑った、って私が喜ぶとムキになって怒るから、言わないけど。
小笠原
「思ったよりクリアに録れてる。きみ、発音がいいからかな」
私は真っ赤になってしまった。
翼
「もう……そういうのは先に言っておいて下さいよ」
小笠原
「ごめん。でも、この方が後々、楽だと思って」
もしかして、私を心配してくれたのかな?
小笠原
「一定間隔でエンドレスに流すよう設定した」
小笠原さんは作業を終えて、ナナコの画面から顔を上げた。
小笠原
「街宣って聞いた時から、録音でいいのにって思ってた」
小笠原さんは再び車を発進させた。
……今の、私はいらなかった、ていう意味じゃない、よね。
こうして二人でいても、昔みたいに、気まずかったり、刺々しい感じは無い。
だから、私は素直に感謝する事にした。
小笠原さんが本当に嫌なら、最初に「嫌だ」って言うか、パトカーに乗り込む段階で来ないか、どちらかのはず。
小笠原
「……きみって変だよね」
翼
「えっ?」
私は思わず、小笠原さんを振り返ってしまった。
小笠原
「俺なんかと組みたいって言ってみたり……、今みたいな非効率な仕事でも、ちゃんと最後まで声を出そうと考えてたり」
ひ、非効率……。
やっぱり、小笠原さんみたいなタイプの人から見ると不可解に思えるぐらい、私には無駄が多いんだろうな。
翼
「だから室長は、『一緒の方が都合がいいかも』って言ったんでしょうか」
小笠原
「えっ?」
今度は、小笠原さんが私を振り返った。
運転中だから、一瞬だけだったけど。
翼
「私一人だと効率が悪いから、小笠原さんに面倒を見てもらうように」
小笠原
「……きみって、賢いのか馬鹿なのか、時々分からなくなるね」
小笠原さんが、前を向いたままで溜め息をついた。
小笠原
「室長は、俺が一人だとサボるし、絶対にアナウンスなんかしないから、『きみが一緒の方が都合がいい』って言ったんだよ」
私が驚いて小笠原さんを見ると、彼はちょっと唇を尖らせていた。
小笠原
「まあ、威張って言う事じゃないし、室長の思ってる通りだけど」
拗ねたように言う小笠原さんは、ほんの少しだけ、頬を赤くした。
……か……
可愛い。
言わないけど。
私の気持ちを知ってか知らずか、小笠原さんはほんの少し、笑った。
小笠原
「今度は、葛西の方へ行ってみようか」
翼
「はい!」
私は元気よく返事をした。
傍らで、小笠原さんの録音した私の声が、拡声器から、青い空に向かって広がっていった。
~小笠原編 END~