ジュ・トゥ・ヴー
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~翼vision~
見慣れない天井。
微かな柑橘系の香り。
私が病院で目覚めた時、ベッドの傍らには、小野瀬さんが座っていた。
ベッドに伏すようにして私の手を握り、静かな寝息を立てている。
私……そうか、爆発に巻き込まれたんだっけ。
ところどころ思い出せない。
ただ、意識を失う直前、小野瀬さんの声に呼ばれた気がする。
私はぼんやりと、小野瀬さんの大きな手に握られている、自分の手を見た。
……ずっと、こうして、付いていてくれたのかしら。
小野瀬さんて、不思議。
すごく冷たかったり、意地悪だったり、かと思うと誘惑するようだったり、私はいつも、試されているような気持ちになる。
だから、好きになるのが怖かった。
でも……
何故だろう。試されているのに、いつも、求められている気がした。
例えば飛び石の向こうから、例えば階段の一段上から、小野瀬さんは私を見ている。
それはまるで、ここまで来られる?って尋ねられているようで、私はまたおずおずと一歩踏み出す。
すると、小野瀬さんは別の顔を見せてくれる。
それは魅力的な、新しい顔を。
そして、さらに一歩先の場所へ行って、そこからまた、私を振り返るのだ。
気付けば、私はもう、後戻りが出来ないほど、小野瀬さんを好きになっている。
小野瀬
『一緒に死んでくれる?』
あの時、小野瀬さんは本気だった。でも同時に、私には、違う言葉で聞こえた。
小野瀬
『(一緒に生きてくれる?)』
だから私は頷いた。
翼
『はい。私、小野瀬さんとなら死んでもいいです』
ずっと一緒にいます。
そばにいていいのなら。
小野瀬
「……ん」
小野瀬さんが、目を覚ました。
私の顔を見た途端、小野瀬さんは、悲しそうな顔をした。
小野瀬
「櫻井さん!大丈夫?……ごめん、俺が近くにいたのに、怪我をさせて悪かった」
翼
「……そんな事……」
私は首を横に振ろうとして、頭痛に顔をしかめた。
たちまち小野瀬さんの手が伸びてきて、私の頬を撫でてくれる。
小野瀬
「痛かっただろう……やっぱり、外で待たせておくべきだった……」
翼
「私が、無理矢理ついていったんです」
だから、そんな顔をしないで。
私が言葉を探していると、小野瀬さんが、ぽつりぽつりと話し始めた。
いつだってすらすらと話す小野瀬さんが、迷いながら、躊躇いながら、自分の事を。
今までの、女性との接し方。
自分なりに真剣だった。けれど、それは誠実ではなかったかもしれない、と。
そして、私への想いを。
小野瀬
「好きだ」
それは、ずっと、聞きたかった言葉。
小野瀬
「他の誰にも渡したくない。そして、絶対に失いたくない」
私が腕を伸ばすと、小野瀬さんは私の身体をいたわりながら起こし、そのまま抱き締めてくれた。
小野瀬
「きみを試すような事ばかりしてきた。……許して」
私の頬を、涙が伝った。
ああ、やっと、小野瀬さんに追い付いた。
危うい飛び石の上、捕まえてくれる温かい腕は、もう夢じゃない。
翼
「小野瀬さん……私も……小野瀬さんが、好きです」
小野瀬さんの指先が私の頬を滑り、包み込んだ。
小野瀬
「俺の方が、好きだよ」
小野瀬さんの顔が近付いてきて、私は目を閉じた。
唇が重なった。
普段の小野瀬さんからは想像も出来ないような、強引で、情熱的なキス。
息も出来ないほど求められて、切なくて、胸が苦しい。
小野瀬
「ごめん……怪我人なのに」
ううん、と首を振ると、もう一度、深く口付けられた。
私が、小野瀬さんの背中に腕をまわすと、小野瀬さんは、私を抱く腕に力を込めた。
小野瀬
「本当に……抑え切れなくなるから」
小野瀬さんはそう言って、ようやく私を解放し、ベッドに寝かせてくれた。
小野瀬
「ありがとう。……俺なんかを、好きになってくれて」
頬を撫でてくれるその指が、心地好くてドキドキする。
小野瀬
「毎日、来るよ」
翼
「はい」
小野瀬さんが、私の額にキスをした。
小野瀬
「退院したら、一緒に暮らそう」
翼
「はい……ええっ?」
いきなりの提案にビックリして思わず声を上げると、小野瀬さんは不思議そうな顔をした。
小野瀬
「嫌?」
翼
「い、嫌じゃない、です」
良かった、と、小野瀬さんは微笑んだ。
何だろう、この感じ。
胸の奥が熱くなる。
小野瀬さんを『可愛い』なんて思った事、今まで一度も無かったのに。
やっと辿り着いたと思ったのに、小野瀬さんて、もしかして、まだ何か本性を隠してるの?
小野瀬
「名前で呼んでいい?」
翼
「はい」
小野瀬
「俺の事も名前で呼んで、翼」
翼
「あの」
小野瀬
「うん」
……これは、断れない。
翼
「……あ、葵……」
小野瀬
「なあに?」
……どうしよう。
展開についていけない。
小野瀬
「好きだよ、翼」
小野瀬さんが微笑んで、もう一度、私にキスした。
小野瀬
「翼……これから、一緒に生きてくれる?」
見つめられて、囁かれて、私は頷いた。
展開が急過ぎて、幸せ過ぎて、言葉が想いについていけない。
でも、今、言うからどうか待っていて。
ずっと一緒にいます。
そばにいていいのなら。
あなたが、私でいいのなら。
その答えだけは、準備してあるから。
~END~