ジュ・トゥ・ヴー
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~小野瀬vision~
業平工業の地下で、仕掛けられていた爆弾が爆発した。
捕らえられていた森川を助け出し、明智くんと二人で担いで脱出しようとした途端、背後から、突き上げるような衝撃が来た。
(櫻井さん)
爆風を受けた刹那、俺の脳裏を閃光のように支配したのは、彼女の存在だった。
(……櫻井さん!)
彼女は、俺たちよりさらに後方に、爆発に近い場所にいる!
二人がかりで肩に担いでいた意識の無い森川が重石のようになって、俺たちは、後ろからの爆風に押し潰されるように、前のめりに倒れた。
両手が塞がっていたので、まともに顔や腕が床に擦り付けられて、焼けつくような痛みが走る。
が、確かめる余裕は無い。
小野瀬
「櫻井さん!」
焦って振り返った俺の目に、砂塵の中に横たわる、小さな身体が見えた。
おそらく、爆風に飛ばされて壁に叩きつけられたのだろう。うっすらと開いていた瞼が、力無く閉じてゆくところだった。
小野瀬
「おい!……おい、しっかりしろ!」
森川を放り出しながら、俺は、這うようにして彼女に取りすがった。
頭を打っているのは、一目瞭然だ。近くの壁にはべったりと血痕が付き、それは彼女の髪をも濡らしていた。
小野瀬
「櫻井さん!櫻井さん!櫻井さん!」
明智くんがいなかったら、俺は彼女を抱え上げて、半狂乱で病院を探して走り回っていたかもしれない。
明智
「小野瀬さん、間もなく救急車が来ます!」
小野瀬
「……救急車……」
その言葉で、残っていた理性が、彼女を動かす事を躊躇わせた。
見上げると、膝をついて俺の肩を揺すっていた明智くんも、埃まみれで、あちこち怪我をしている。
明智
「小笠原が手配しました。櫻井は息があります。……落ち着いて下さい」
落ち着いて?何を言ってる?
俺はいつも落ち着いてる。
小野瀬
「……俺が巻き込んだんだ」
明智
「大丈夫です」
小野瀬
「……一緒に死んでくれるって、言った」
明智
「生きてます」
小野瀬
「でも、動かない!」
自分の声だとは思えない、掠れた叫びが地下に響いた。
明智
「頭を打ってます。でも、息をしています。大丈夫です。小野瀬さん、落ち着いてください」
小野瀬
「落ち着いてる!救急車はまだか!早く!頼むから!彼女を助けてくれ!」
救急車のサイレンが響き渡って止まり、救急隊員の靴音が、けたたましく近付いて来た。
小野瀬
「櫻井さん……櫻井さん!」
俺はストレッチャーに乗せられた彼女の手を握り、明智くんや隊員たちと一緒に、通路を走り出した。
彼女が診察室に運び込まれ、治療を受けている間じゅう、俺は廊下をうろうろしていた。
穂積への報告は、明智くんがしてくれた。
後でぶん殴られるだろうが、全面的に俺が悪い。
それよりも、彼女は。
もう一度時計を見るが、三十秒しか経っていない。
俺はベンチに座って、両手で顔を覆った。
俺がついていながら。
痛い思いをさせて。
こんな俺のために。
辛い思いをさせて。
怖い。
失いたくない。
俺はいつの間に、こんなに弱くなったんだろう。
扉が開いて、彼女を乗せたキャスター付きのベッドが出て来た。
急いで飛び付いて見るけど、彼女は目を閉じたままだ。
小野瀬
「……櫻井さん」
俺は彼女の枕元に手を置いて、呼び掛けてみた。
けれど、反応は無い。
小野瀬
「……櫻井さん」
俺は彼女の手を握り、看護師の押すベッドに寄り添って、一緒に個室へ入った。
彼女の眠るベッドの傍らに椅子を引き寄せ、手を繋いだまま腰を下ろす。
自分の腕から血が滲んでいるのが見えたが、痛みを感じない。
彼女が目を覚ましたら。
真っ先に謝ろう。
怪我をさせて悪かった。
外で待たせておくべきだった。
いや、そうじゃない。
失いたくない、と言おう。
あの時、本当にそう思ったから。
本当の気持ちを伝えたいのに、どこか言い訳めいてしまうのは、俺の悪い癖。
好きだ。
他の誰にも渡したくない。
そして、絶対に失いたくない。
好きだ。
今度こそ、きみに打ち明ける。
傷付くのが怖くて、ずっと素直になれなかった想い。
好きだ。
好きだ。
いつの間にか、こんなに、胸が痛くなるほど。