恋とはどんなものかしら
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
~翼vision~
捜査室を出て総務課に行く途中、休憩スペースで、小野瀬さんが数人の女性に囲まれているのを見掛けた。
相変わらずだな。
私はつい笑いそうになってしまった口元を押さえて、階段に向かった。
小野瀬さんは、自他共に認める鑑識のスペシャリスト。
その上とてもキレイな男の人だから、女の子に人気があるのも頷ける。
でも、実は私、小野瀬さんってちょっぴり苦手。
最初は、怖かった。
なかなか名前で呼んでもらえなかったし、役に立たない私が現場にいる事を迷惑そうにしていた。
それに、いつも女の人の噂が絶えなくて。
自宅に何人も女の人を入れてトラブルになって、マンションを追い出されたとか(これは室長と本人の会話から)。
庁内には小野瀬さんを崇拝している女性信者が多数いるから、近付く時には気をつけろとか(これはいろんな人から)。
実際、捜査室に異動になって以来、全然知らない女の子たちから声を掛けられるようになった。
みんな、小野瀬さんの普段の様子やメールアドレスや今日の下着の色なんかを、私が知っていると思っているみたい。
そんな熱狂的な信者さんたちや、いつも小野瀬さんを取り巻いている女性たちを見ていると、私は醒めた気持ちになってしまう。
そして反対に、小野瀬さんの気持ちを考えてしまう。
毎日毎日、あの熱気にさらされて、小野瀬さんは何を思っているんだろう。
私の顔を一目見ただけで、その時の気分を見抜いてしまうほど、小野瀬さんは人の気持ちに敏感だ。
そんな人が、自分に好意を持って寄って来るみんなの気持ちに、気が付いていないはずがない。
嬉しいけれど多すぎて一人は選べないから、みんなに優しくしているのかな。
それとも、もういちいち面倒臭いから、愛想笑いで上手にあしらっているのかな。
もしかして、得意のプロファイリングをするように、冷静に分析していたりして。
私が小野瀬さんを怖いと感じるのは、きっと、何を考えているのか分からないから。
君だけは特別だよ、なんて言われると、身構えてしまう。
よく、肩を抱いたり頭を撫でたりして来るけれど、どういう意味かと勘繰ってしまう。
小野瀬さんの事をもっと知りたいような、知りたくないような。
今は、知りたくない気持ちが勝っている。
総務から帰ってくると、もう、休憩スペースに小野瀬さんはいなかった。
何となくホッとしながら廊下に顔を戻すと、急に後ろから、緩く目隠しされた。
小野瀬
「だーれだ」
大きな手、柑橘系の香り。
翼
「小野瀬さん?」
小野瀬
「当たり」
小野瀬さんは手を外して、私の前に廻った。
いつもの笑顔。
でも私に向けられるその眼差しは、最初とは比べ物にならないほど、温かい気がする。
小野瀬
「櫻井さん、鑑識でコーヒー淹れてくれる?」
さっき、休憩スペースで何も飲まなかったのかな。
小野瀬
「きみを見掛けたから、美味しいコーヒー飲ませてもらおうと思って待ってたんだよ」
私はクスッと笑った。
小野瀬
「あれ?その笑いは何?」
翼
「教えません」
小野瀬さんはきょとんとして、それから甘く微笑んだ。
小野瀬
「俺はきみの事、何でも知りたいのに」
囁くように言われて、私は笑ってしまう。
翼
「ふふ。からかうとコーヒー淹れてあげませんよ」
小野瀬さんは両手を『降参』の形に挙げた。
小野瀬
「きみにはかなわない」
私たちは並んで、歩き出した。
さっき笑ってしまったのはね。
小野瀬さんに「きみを待ってた」って言われて、嬉しい自分に気付いたから。
この気持ちはきっと、まだ恋ではないけれど。
~END~