親愛な森よ
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藤守さんたちが張ってくれた女性専用のテントで眠ろうと歩き出しながら、私はふと夜空を見た。
見上げれば満天の星。
翼
「うわあ……」
思わず声を漏らした私の背後で、誰かが笑った。
それは、室長。隣には葵。
私は慌てて顔を戻した。
穂積
「遠慮しないで、星を見ろ。俺が支えててやる」
室長が私の後頭部に手を当てて、反対の手で強引に上を向かせる。
私の目には再び星空と、間近にある室長の笑顔。
頭と首は楽だけど、心臓がもたない。
穂積
「何だ?赤い顔して俺を見るな。チューしちまうぞ」
近い!近いです!
小野瀬
「はいはい、穂積、そこまでー」
後頭部の手が、葵に代わる。
小野瀬
「ここからの時間、彼女は俺の貸し切りだから」
室長は、ち、と舌打ちした。
穂積
「他の連中もいるんだから遠慮しろよ。見境なしかよ。俺も交ぜろよ」
小野瀬
「最後がおかしいよ」
葵は私の頭を起こして、肩を抱いた。
離れ際、室長は私の鼻先で妖艶に微笑む。
穂積
「櫻井、朝までには俺のテントにも来いよな……あ痛!」
室長の額に炸裂したのは葵のデコピン。
小野瀬
「目の前で人の彼女を誘惑しないでくれる?」
室長は額を自分の手で撫でながら、なお睨む。
穂積
「忘れられない夜にしてやるのに」
小野瀬
「その台詞は、俺がこれから彼女に言うんだよ!」
翼
「ぷ」
私はとうとう、噴き出してしまった。
翼
「あはははは!」
室長と葵は、互いに、きょとんとした顔を見合わせている。
私は笑いすぎの涙を拭きながら、二人の顔を見比べた。
翼
「せっかくですから、三人で寝ませんか?」
小野瀬
「……」
穂積
「……」
小野瀬・穂積
「はあ?!」
こうして今、私たちは三人で、同じテントの中にいる。
私を真ん中に、左右に室長と葵。
葵はずっとブツブツ言っているけど、室長は上機嫌だ。
穂積
「櫻井、寒くない?もっとこっちにいらっしゃい」
翼
「はーい」
小野瀬
「穂積、抱き寄せない!翼も素直にくっつかない!」
穂積
「男の嫉妬は見苦しいわよ、ねえ櫻井」
翼
「ねー」
小野瀬
「どうしてきみは平気なの……」
私は、私を腕に抱いて満足そうに目を閉じている、室長の顔を見上げた。
翼
「だって、室長はもう、お父さんモードですもん。私、これ大好きなんです」
穂積
「くくっ」
室長は含み笑い。
穂積
「うちの娘はファザコンなのよ、小野瀬。諦めて寝なさい」
小野瀬
「……何で、彼女が他の奴に抱かれている背中を見ながら寝ないといけないのかな……」
翼
「ごめんね、葵……」
でも、体温の高い室長の腕の中はとても気持ちが良くて、私は、もう、うとうとしている。
穂積
「おやすみ、櫻井」
室長の声が、耳を当てた胸から聞こえる。
翼
「……おやすみ、なさい……」
その後に聞こえたのは、溜め息混じりにやれやれと苦笑した、葵の声。
小野瀬
「おやすみ、翼。いい夢を」
頬にそっと、唇が触れて、離れた。
残ったのは、柑橘系の香り。
翼
「……お……すみ……」
ふっ、とランタンの灯りが消えて、闇が降りる。
けれど、少しも怖くない。
大好きな二人の温もりに包まれて、私は眠りに落ちていく。
これは、この後の人生で何度も思い返した、大切な一日。
私にとって忘れられない、そんな夜のお話。
~END~