紅一点、走る
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5.紅一点、走る
~翼vision~
電話が鳴った。
どうにか室長の魔の手を逃れた如月さんが、掻き毟られた髪を必死で直しながら、電話に出る。
「……はい、緊急特命捜査室如月です」
相手の話を聞くうちに、如月さんの顔が、ぱっと明るくなった。
「……はい。了解しました!」
話を終え、受話器を置く。
「翼ちゃん、ビンゴ!!」
「えっ?何の事ですか?」
如月さんはニコニコしているけど、話が見えない。
「今の電話、合田の取り調べ官からだよ。合田が、振り込み詐欺への関与を認めたって!」
「えっ!」
「今、取り調べ中だから、詳しい報告はまた後で。でも」
如月さんは、ニッコリ笑った。
「先に、君に、お礼を言っておいてくれって」
信じられない展開だ。
室長が、羽交い締めにしていた藤守さんを離し、正座を命じていた明智さんを解放した。
すぐに、二人がすっ飛んできた。
「櫻井、お手柄やな!」
「毎日の積み重ねが役に立ったな」
「櫻井、アンタ本当に凄いわ」
歩み寄って来た室長が、私の頭を撫でてくれた。
「偉い、偉い」
「室長のお陰です!」
私は大きな声で言った。室長は、少し驚いた顔で私を見つめている。
「私を、この捜査室の一員に選んで下さったお陰です。私のやるべき事を教えて下さったお陰です。本当に、ありがとうございました!」
ぺこりと頭を下げると、室長が笑った。
「櫻井」
私を見つめる室長は、いつもの優しい表情だ。
「礼を言うのは、ワタシの方よ」
「……?」
「後ろをご覧なさい」
室長に促されて、私は振り向いてみた。
そこには明智さんがいた。
藤守さん、如月さん、いつの間にか小笠原さんも立っている。
皆、笑顔で私を見つめていた。
「彼らは、アンタの仲間よ」
不意に室長の声がして、私は顔を上げた。
「アンタが来るまで、ここはただ、優秀な人材が集まっただけの場所だった」
「室長……」
「アンタが来て、一生懸命な姿を見せてくれて、みんながアンタの事を考えるようになった。そうして、ここはまとまってきたの」
涙が溢れて、みんなの姿が滲んだ。
「女の子だから、だけじゃない。アンタの姿が、才能が、行動が、ここにいる全員の意識を変えたのよ」
そう言って、室長は私の髪をくしゃっと撫でてから、顔を捜査室のメンバーに向けた。
「もー。この子につられて、恥ずかしいセリフを言っちゃったわー」
みんなが、どっと笑った。
「ありがとう、櫻井」
室長は、私だけに聴こえるように囁いた。
「……室長……」
「さーて、今夜は櫻井の為に、居酒屋で乾杯しましょうか!」
「賛成!」
室長の言葉に、みんなが声を揃える。
でも、私は咄嗟に声が出なかった。
胸がいっぱいで。
パンパン、と室長が手を打つ。
「そうと決まれば、アンタたち。急いで残務処理よ!」
「了解!」
みんなが一斉に、それぞれの仕事に戻る。
ふと、室長の大きな掌が、私の背中を押した。
そこには藤守さんが来ている。
「ほな櫻井、急いで証拠品の返却終わらせるで!」
私は急いで、涙を拭いた。
「はいっ!」
「よっしゃ!ついて来ーい!」
飛び出す藤守さんに続いて、私は捜査室を出る。
「行ってきます!」
行ってこい、気をつけて、と、仲間の声が送り出してくれる。
仲間。
ちょっとくすぐったくて、でも、胸が温かくなる響き。
これからたくさんの事件を経験するたび、私も強くなれるだろうか。
捜査室のみんなのように。
少しでも、被害者の無念を晴らせるように。加害者の真実に迫れるように。
そして、いつか、犯罪を未然に防ぐ事が出来るように。
頑張ろう。
今は、私に出来る事から、精いっぱい。
私は、そう胸に誓いを抱きながら、走り出した。
~END~
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