両手に花 *せつな様のリクエスト
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~小野瀬とシングルベッド~
~翼vision~
小野瀬さんが苦笑いした。
小野瀬
「穂積が茶化すから、彼女が混乱するんだよ。……ごめんね。つまり、部屋を交換して欲しい、っていう事」
あ、ああ、やっぱり。
小野瀬
「こいつとシングルベッドで寝るなんて、真っ平だからね」
小野瀬さんの視線の先では、なぜか、室長がニヤニヤ笑っている。
翼
「私もそのつもりでしたから、いいですよ。お二人で、ツインを使って下さい」
その瞬間、室長が噴き出した。
穂積
「ほら、予想通り!」
そのまま大笑いするのを、呆気にとられて見つめる私。
そして、睨みつける小野瀬さん。
室長は満足そうに笑いながら、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
穂積
「お前は本当に可愛いな!」
ぎゅうと抱き締められた腕の中から、私はギブアップのしるしに室長の手をぺちぺち叩いた。
翼
「室長、意味が分かりません!」
ごほん、と小野瀬さんが咳払いをした。
小野瀬
「櫻井さん」
翼
「は、はい」
小野瀬
「俺は、きみとツインを使いたいんだけど!」
あ。
翼
「ご、ごめんなさい」
小野瀬さんの顔が赤い。
そして、珍しく、ちょっぴりだけどイライラしている様子。
それは、そうよね。
石原事件で爆発に巻き込まれた私が入院した時、小野瀬さんは凄く心配してくれ、私を失いたくない、と言ってくれた。
退院したその日に連れられて行った彼の部屋で、私たちは結ばれた。
それ以来、小野瀬さんは私を恋人として扱ってくれている。
だとしたら今の場合、私は、迷わず小野瀬さんを選択しなければいけなかったわけで。
翼
「ごめんなさい、小野瀬さん……」
穂積
「謝る事は無いぞー」
後ろから私の身体を包むように腕をまわし、私の頭の上に顎を乗せている室長が言う。
穂積
「ハッキリ言わない小野瀬が悪いー」
小野瀬
「……お前が邪魔してるんだけどね」
私は慌てて室長の腕をすり抜け、小野瀬さんに駆け寄った。
翼
「わ、私、小野瀬さんと一緒にいます」
私に向けられた小野瀬さんの表情が和らいで、私は少しホッとする。
小野瀬
「良かった。ごめんね。勝手に部屋割りを決めて」
翼
「ううん、私こそ、ごめんなさい」
見つめ合う小野瀬さんと私。
穂積
「櫻井、俺はー?」
小野瀬
「喋るな!話が進まない!」
それからも低レベルな口喧嘩を続けながら、私たちは、ようやく、紹介されたレストランに着いた。
店に入ろうと段差を昇っていくと、入り口の横にもうひとつ、ガラス張りの入り口が並んでいるのに気付く。
そちらは、ちょっとしたジュエリーショップになっていた。
翼
「わあ。素敵」
ショーウィンドウを見つめた私の後ろから、室長と小野瀬さんが覗き込む。
穂積
「ふーん?」
小野瀬
「手作りかな。どれも上品だね」
ウィンドウに引かれながらも進んでいくと、レストランは満席。
室長が順番待ちしていてくれると言うので、私と小野瀬さんは、先にジュエリーショップの方を見に行った。
何となく足を踏み入れたお店だったけど、素敵な物がたくさんあって、私はすっかり夢中。
その中でも特に目を引いたのは、プラチナのネームリング。
表はシンプルなのだけど、リングの裏側に刻印された名前の部分に、様々な色の石が象嵌されていて、とても綺麗。
小野瀬
「控え目な色使いが絶妙で、いいね」
店員
「レストランでお食事をされている間に、お作りしておく事が出来ますよ」
へえ……。
小野瀬
「頼んでみる?二人の名前で」
翼
「えっ」
実は今、私も同じ事を考えたけど……
指輪に名前なんて、重いと思って言わなかったのに。
私が正直に打ち明けると、小野瀬さんは微笑んだ。
小野瀬
「そう聞いたら、尚更作ってみたくなったな。いっそ、ペアにしようか」
この距離で、その顔で、「きみは嫌?」なんて聞かれて、断るなんて無理です。
私は反射的に、小野瀬さんの笑顔に頷いていた。
そこへ、室長が呼びに来てくれたので、私はまだドキドキしながら、レストランに向かった。
指輪の注文を終えた小野瀬さんもすぐに来てくれての三人の食事は、楽しかった。
一人ぼっちの食事だったら、コンビニで済ませたかもしれない。
それなのに、室長と小野瀬さんがいる食卓で、声を立てて笑いながらの美味しいお料理と美味しいワイン。
私は幸せな気持ちで、食事を終えた。
翼
「すごーく美味しかったです!」
私はほろ酔いでお店を出た。
外へ出ると、吐く息は真っ白。
翼
「小野瀬さん、ご馳走様でした!」
小野瀬
「どういたしまして」
昼間、室長とのF-1スキー対決に敗れ、夕食をおごる約束になっていたという小野瀬さん。
私まで便乗してご馳走になってしまって、何だか申し訳ない。
小野瀬
「きみが満足してくれたのなら、良かったよ」
翼
「はい、大満足です!」
そう言いながら、私はふと、一歩後ろを歩く室長を振り返った。
翼
「室長?」
穂積
「ん?」
翼
「……行きと比べて、元気無いですね?」
穂積
「そうか?」
室長は、そんな事ないぞ、と笑ってくれた。
穂積
「俺は、後ろからお前らを見てるのが楽しいんだ。気にするな」
……変な室長。
小野瀬
「穂積は寂しいんだよ」
私と腕を組んで歩いている小野瀬さんが、私の耳に、そっと囁いた。
小野瀬
「ホテルに帰ったら、一人になるから」
ちくん、と胸が痛んだ。
本当なら、一人になるのは私のはずだったのに。
私は少し考えてから、思い切って振り返った。
翼
「……室長、今夜は、私が寝るまで一緒の部屋にいて下さいね!」
私が言うと、室長はよほど驚いたのか、足が止まった。
けれど、すぐに、少し怒ったような顔をして、再び歩き出す。
穂積
「そんな野暮じゃねえよ。バーカ」
私は、室長から見えないように、小野瀬さんの袖をそっと引いた。
小野瀬さんは苦笑したけど、私の気持ちを察してくれたみたい。
小野瀬
「俺は構わないよ、穂積。彼女とはいつでも寝られるから」
穂積
「……何か、ムカつく」
私と小野瀬さんは笑いながら、ぶつぶつ言う室長を引っ張るようにして、ホテルに帰った。