両手に花 *せつな様のリクエスト
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~穂積とシングルベッド.2~
小野瀬
「それ、着けて寝るの?」
ツインベッドの一つから、小野瀬さんが私に訊いてくる。
結局、三人で、私の二人部屋に泊まる事になってしまった。
室長が約束を守るよう監視する、というのが、小野瀬さんの同室する理由だ。
……面白がっているとしか思えないけど。
私は、室長にもらったペンダントの花を、手の平に載せた。
翼
「はい。今日は、着けていたいんです」
小野瀬
「可愛い事言うなあ。ねえ、こっちにおいで?」
穂積
「行かせねえから」
シャワーを終えて出て来た室長が、私の寝ているベッドにどかりと座った。
まだ、髪が濡れている。
小野瀬
「ちゃんと乾かさないと、髪が傷むよ?」
翼
「そうですよ」
私は起き上がって、タオルで丁寧に室長の髪を拭いた。
室長は私が髪を拭くのに任せながら、親指で、後ろにいる私を小野瀬さんに示す。
穂積
「こいつを、お前と二人きりにはしておけないんだよ」
小野瀬
「たぶん、今は穂積の方が危険だと思うけどなあ」
穂積
「……お前、出てけ!」
室長が投げつけた枕を、小野瀬さんが受け止めて笑う。
小野瀬
「四十五分間くらい?」
穂積
「一時間十分くらい」
男性二人はどっと笑ったけど、今の会話の何が面白かったのか、私には分からない。
小野瀬
「ま、そこまでは無理だけど、なるべく時間をかけてシャワーを浴びてくる」
穂積
「そのまま帰って来るな」
小野瀬さんは笑いながら、シャワールームに消えた。
穂積
「ありがとう、もういい」
室長が、私を振り返った。
室長の細く柔らかい髪はほとんど乾いて、もうさらさら。
翼
「はい」
私が笑顔でタオルを畳むと、室長は首を傾げた。
穂積
「元気無いな」
真剣な顔で見つめられると、私には嘘がつけない。
穂積
「……ごめんな。さっき、あんな事したから不安になったか?」
室長は、私が怯えていると思ってるのかな。
髪を撫でてくれる室長に、私は首を振った。室長を疑ったりはしていない。
翼
「違うんです。むしろ……」
穂積
「むしろ?」
翼
「もっと、強く、繋がりたい……です」
言ってしまった。
ものすごく恥ずかしい。
私は俯いて、それでも、続きを口にした。
翼
「さっき、ペンダントを落としそうになった時、掴んだ鎖があまりに細くて、そしたら急に不安になって」
穂積
「……」
翼
「……心だけで繋がってる、今の室長と私の関係が、急に不安になって」
たどたどしく言ううちに、涙が込み上げてくる。
翼
「身体の繋がりを拒んで、室長と、切れてしまう方が、今は、怖いです……」
涙が零れた。
穂積
「……」
室長の温かい指が、私の涙を拭った。
それから、無言でそっと、私のペンダントを外す。
私はどきりとした。
翼
「……?」
穂積
「外しておけ」
室長は、それをサイドテーブルに置いた。
翼
「室長……?」
穂積
「こんな細い鎖に縋ろうとするからだ」
室長はそう言って、私の両頬を、両手の掌で包んだ。
私を見つめる碧の目が濡れているのに気付いて、私はハッとする。
穂積
「俺はお前と、身体でも繋がりたいと思っている。……だが、そのせいで、お前との心の繋がりが切れる方が、俺には遥かに怖いんだよ」
翼
「室長……」
穂積
「だから我慢してるんじゃねえか、アホの子」
室長は、私を引き寄せた。
室長……。
翼
「はい」
私は、室長の胸に顔を埋めた。
翼
「ごめんなさい」
それに応えて、室長は私の頭を撫でてくれる。
穂積
「……櫻井……」
翼
「はい?」
穂積
「前言撤回だ。早く大人になれ」
翼
「きゃあっ?!」
勢いよくベッドに押し倒された途端、小野瀬さんの声がした。
小野瀬
「はい、そこまで♪」
室長はガバッと身体を起こし、振り返って怒鳴った。
穂積
「早えよ!」
小野瀬
「『助かった』と思ってるくせに」
穂積
「てめえ覚えてろよ!」
二つのベッドライトと間接照明で、薄明るい部屋。
テーブルを挟んだベッドに眠る、小野瀬さんの綺麗な寝顔も見てとれる明るさだ。
私は室長と一つのベッドを分け合いながら、安らかな気持ちでいた。
とくんとくんと規則的な、室長の鼓動が伝わってくる。
穂積
「眠れないか?」
小野瀬さんを起こさないように、室長が低く囁く。私は首を振った。
翼
「眠るのが勿体無い」
室長が、私の額にキスをくれた。
穂積
「……実は、俺も」
私たちはくすくす笑った。
穂積
「でも、もう寝ろ。疲れたろ」
翼
「だって、夜中に目が覚めて、隣に室長がいなかったら?朝起きて、全部夢だったら?……そう考えたら、眠れないんです」
穂積
「今夜は一晩中、俺はお前を抱いて寝ている」
頬を撫でる室長の指先は、もう熱いくらい。室長も眠くなってきたのかもしれない。
穂積
「明日の朝、目覚めたお前が一番最初に見る、その場所に俺はいる」
室長はもう一度、私の額に口づけた。
穂積
「小野瀬よりも、あんなペンダントよりも、誰よりもお前の近くにいるから」
翼
「はい」
私が頷くと、室長は、いきなり掛布を引っ張り上げた。
頭まですっぽりと二人を包んだ掛布が明かりを遮って、世界は私と室長だけになる。
室長が、悪戯っぽく笑った。
私も笑って、室長に抱きついた。
唇が重なる。何度も、何度も。
穂積
「このまま寝よっか」
翼
「小野瀬さんに、『こら!』って掛布をまくられたりして」
穂積
「そうしたら部屋から蹴り出してやる」
私たちはまたくすくす笑いながら、それでも、揃って目を閉じた。
おやすみなさい、室長。
楽しい夜をありがとう。
……大好き。
~穂積とシングルベッド.END~