両手に花 *せつな様のリクエスト
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~穂積とシングルベッド~
~翼vision~
私は困ってしまった。
翼
「で、でも私、小野瀬さんや室長と同じ部屋に泊まったりしたら、実の父に叱られます」
小野瀬
「実の父って言った」
穂積
「俺を職場のお父さんだと思ってる自覚はあるんだな」
私は、室長の顔を見上げた。
穂積
「……仕方ない。俺は、櫻井判事の名前を出されると、弱いんだよ」
室長は溜め息をついて微笑み、私の頭を撫でてくれる。
穂積
「安心しろ、処●のまま帰してやる。小野瀬からも守ってやるから」
二人には申し訳ないけど、私はホッとした。
室長は有言実行の人だ。約束したら必ず守ってくれる。
それに……何故、室長が知ってるのかは分からないけど、こんな形で「初めて」を体験する勇気は、私には無い。
翼
「はい」
小野瀬
「お前はよく、そういう自分の首を絞めるような事が言えるね。……て言うか穂積、まだ……なの?付き合い始めたんでしょ?」
小野瀬さんは半分呆れ、残りは驚いている。
穂積
「うるさい。お前のようなケダモノと一緒にするな」
室長は顔を赤くして、小野瀬さんを睨んだ。
その後は聞くに耐えないような言葉の応酬で、私は真っ赤になって、耳を塞ぎながら歩いていく。やがて、レストランに着いた。
暗闇に、オレンジ色の暖かい光が溢れている。
店に入ろうと段差を昇ったら、入り口の横にもうひとつ、ガラス張りの入り口が並んでいるのに気付いた。
そちらは、ちょっとしたジュエリーショップになっている。
翼
「わあ。手作りかな」
ショーウィンドウを見つめた私の後ろから、室長と小野瀬さんが覗き込む。
穂積
「へえ。割といいんじゃねえか?」
小野瀬
「確かに。どれも上品だね」
レストランが満席で順番待ちだったせいもあり、私は、先にジュエリーショップの方を見に行かせてもらった。
何となく足を踏み入れたお店だったけど、素敵な物がたくさんあって、私はすっかり魅了されてしまう。
特に気に入ったのは、小さな花をデザインした、ピンクゴールドのシックなペンダント。
穂積
「これがいいのか?」
買えないけど離れ難くて眺めていたら、レストランで順番待ちをしていたはずの室長が来て、それをひょいと持ち上げた。
翼
「あっ!」
穂積
「ちょっと早いけど、クリスマスプレゼントにやるよ」
言い終えた時にはもう、室長はレジにカードを出していた。
け、結構お高いんですけど、それ。
会計を済ませた室長が、立ち尽くしていた私を手招きした。
穂積
「レストラン空いたぞ。早く来い、腹減った」
翼
「は、はい」
買ってもらっちゃった……。
でも、室長から、プレゼントがもらえるなんて。
しかも、クリスマスプレゼントって……。
何か、恋人っぽい!
室長は、星野リカの事件が解決した後、私を好きだと言ってくれた。
私も、ずっと好きだった事を打ち明けた。
けれど、その後はなかなか二人きりになる事が出来ず、みんなには内緒の手前(室長は知られてもいいと言うけど)、お付き合いしてる雰囲気も自覚も薄かったんだけど……。
やっぱり嬉しいな。
小野瀬
「嬉しそうだね」
席に着いた途端に小野瀬さんに見抜かれて、恥ずかしかったけど。
食事もワインも美味しくて、両手に室長と小野瀬さんの笑顔があって。
一人の食事を覚悟していただけに、私は、夢のように楽しい時間を過ごした。
食事を終え、室長と並んで外に出る。
車の通りも少なくなった道は、とても静か。
吐く息は真っ白。
翼
「ご馳走さまでした」
穂積
「支払ったのは小野瀬だ。礼ならあいつに言え」
言われてみれば、小野瀬さんはまだ出て来ない。
室長はすたすた先へ行く。
私は迷ったけれども、その背中を追い掛ける。
翼
「いいんですか?」
何度も後ろを振り返りながら付いていくと、ようやく、室長が足を止めた。
穂積
「支払いの事なら、昼間のスキーで俺が勝ったから、いいんだ。帰り道の事なら、一本道だ。後から追い付く」
……なるほど。
穂積
「そうだ、これ」
室長がポケットから取り出したのは、リボンの掛かった小さな小さな箱。
あ、さっきのペンダントだ。
穂積
「開けてみろ。つけてやるから」
無造作に差し出され、手の上に乗せられた。
プレゼントの渡し方としてはロマンチックじゃないけど、渡された箱からは、室長の温もりが伝わって来る。
翼
「ありがとうございます」
私が笑顔になると、室長は照れ臭いのか「ん」と頷いて、早く開けろ、という仕草をした。
私はかじかむ指先でリボンをほどき、箱を開ける。
さっき見たペンダントが、街灯の明かりできらきら輝いていた。
しばらくうっとり見つめてから室長を見上げると、室長はペンダントを取り出して、チェーンの留め金を外した。
背中を向けようとした私を制し、室長は、向かい合ったまま長身を屈めて、チェーンを提げた両手を私の首の後ろにまわす。
室長の綺麗な顔が間近にあって、心臓がドキドキしてきた。。
ふ、普通、背中側から留めるでしょ?!
正面からって、顔が!顔が!近いです!
穂積
「出来た」
翼
「は、はい?あっ、す、すみません」
意識し過ぎて、私は思いきり挙動不審。
手で触れて確かめてみると、室長がつけてくれたペンダントは、私の鎖骨の少し下におさまっていた。
室長からのプレゼント。
じんわりと嬉しさが込み上げてくる。
翼
「嬉しい。ありがとうございます」
顔を上げたら、微笑んでいる室長と目が合った。
私を見つめる表情があまりにも優しくて、私はちょっと息を飲む。
いつも、こんな眼差しで私を見守っていてくれたのかな。
翼
「す、少し、大人っぽかったですかね?」
急に恥ずかしくなってしまった私は、笑って誤魔化しながら、室長から離れようとした。
室長は、ふ、と笑った。
穂積
「ゆっくり大人になればいい」
室長の顔が近付いて、言葉通り、ゆっくりと唇が重なった。
とてもとても優しいキス。
舌を絡められると気持ちよくて、身体の力が抜けてしまう。
怖くなって肩に掴まると、抱き寄せてくれた。
室長が角度を変えるたび、口づけは深くなる。
身体じゅうに甘い痺れが広がってきて、気が遠くなりそう。
満ち足りて、でも、もっと欲しくなる。
穂積
「……全部、お前にやるよ」
口づけの合間に、室長が囁いた。
穂積
「だから、もう、俺のものになる覚悟を決めろ」
室長のものに……。
私……。
小野瀬
「あー。ごほん!」
私はハッとして、目を開いた。
同時に唇が離れて、室長が、ち、と舌打ちをする。
……あれ?
全身が弛緩していて、私は室長に身体を預けたまま、咄嗟には動けない。
小野瀬さんが歩いて来る。離れなくちゃいけないのに。
小野瀬
「穂積、やり過ぎ。彼女、もう膝が立たないじゃない」
かあっ、と顔が熱くなった。
は、恥ずかしい。
けれど、室長は涼しい顔で、片方の肩に私を担ぎ上げた。
翼
「きゃあっ!」
見えるのは地面と、室長の背中だけ。
穂積
「こうすりゃいいんだろ」
いやー!
何、この扱い?!たった今まで、あんなに甘くて優しかったくせに!
穂積
「暴れるな」
ピシャリとお尻を叩かれて、じたばたしていた脚を抑え込まれた。
く、悔しい。
抵抗を諦めると、室長が笑ったのが分かった。
室長はそのまま小野瀬さんと並んで、歩き出す。
小野瀬
「やっぱり、あんな約束、しなきゃ良かっただろ?」
穂積
「殴るぞ」
不意に視界の端で、何かが光った。
それは、私のペンダント。
担がれて頭が下がったから、私の視界に入るようになったのだ。
無くしてしまわないように、私は急いで、それを握り締めた。
大切なものなのに、頼りないほど細い鎖。
私は急に、不安になった。