両手に花 *せつな様のリクエスト
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~翼vision~
こんにちは、翼です。
本日、私は連休を頂いて、長野県のスキー場に来ています。
天気は快晴。晴れ女の面目躍如ですね!
もっとも、気分の方は、天気ほど晴れ晴れとは言えないようです。
何故かというと、……スキー場で一人ぼっちだから。
一緒に来るはずだった高校時代の友人が風邪を引いてしまい、ぎりぎりまで粘ったけれど、結局リタイア。
しっかり者の彼女は、ホテルのキャンセル料が勿体無い、と言って、私に、誰か他の友達を誘ってスキーに行くよう勧めてくれました。
それで昨晩、何人かに電話してみたけれど、さすがに、前夜の誘いでスキーに付き合ってくれる友達は見つからず。
私はこうして、気の進まないスキーに、一人のそのそと出掛けて来たわけなのです。
翼
「……はあ」
レンタルショップで一式を借りて、とりあえず身支度を整え、ゲレンデに出てきたものの。
スキー場なんて、小学生の時に両親に連れられて来て以来。
うろ覚えで足をハの字にしてみたり、斜面をゆるゆる下ってみたりしたものの。
……楽しくない。
私は、平日でも賑わうゲレンデを眺めて、溜め息をついた。
……まだお昼前だけど、もう、ホテル入っちゃおうかな。
ぼんやりとそんな事を考えていた時、遥か斜面の上から、華麗なシュプールを描いて降りて来るスキーヤーが目に入った。
上手だなあ。あんな風に滑れたら、楽しいだろうな。
続いてもう一人、青いスキーウェアが稜線から飛び出して来た。こちらは速い。
二人は競うように板を並べたり、抜きつ抜かれつしたりしながら、風のように一瞬で私の目の前を滑り降り、あっという間に麓へと消えて行った。
雪煙だけを残して。
私はその鮮やかな軌跡を見送ってから、また、溜め息をついた。
翼
「……はあ」
あんなの見ちゃったら、ますますやる気が無くなった。
私は板を外し、ブーツでよちよち歩いてコーヒーショップに入り、ゲレンデに面したテラス席に座った。
色とりどりのスキーウェアは目に楽しい。
私は冷えた手をカプチーノで温めながら、のんびりと景色を眺めた。
すると。
「あ、いた」
大きな声とともに、勢いよく滑り降りて来た純白のウェアのスキーヤーが、ざざあっと雪を蹴立てて止まった。
ん?
今の声。
それに、赤みの強い長い髪。
ゴーグルを外して微笑めば、私の後ろの席の女性たちから悲鳴が上がる。
まさか、いや間違いない。
翼
「小野瀬さん?!」
私は立ち上がって、テラスの桟から身を乗り出した。
小野瀬
「こんにちは」
うーわ。
『ゲレンデでは男前三割増し』と聞いた事があるけれど。
小野瀬さんの三割増しは、眩しくて直視出来ない。
そこへ。
「いたか」
同じようにざざあっと雪煙を立てて現れたのは、青いウェアに、金髪のスキーヤー。
ゴーグルを外すのを待つまでもなく、後ろの席の女性たちがざわめいている。
穂積
「よう櫻井」
ダイヤモンドダストを纏い、虹色のゴーグルで私に向ける室長の三割増しの笑顔は、もはや凶器だ。
小野瀬
「凄い動体視力だねえ、穂積は」
穂積
「間違いないって言ったろ」
小野瀬さんと顔を見合わせながら、室長は、無造作に、ゴーグルを額の上に押し上げた。
二人とも三十路だけど、ゲレンデでは二十代半ばにしか見えない。
そこで私はようやく気付いた。
翼
「もしかして、さっき、F-1みたいな勢いで滑って行ったの、お二人だったんですか?」
穂積
「俺が勝ったぞ」
小野瀬
「あの速度できみを見つけるんだよ。人間業じゃないね」
私は、はああと息を吐いた。
出来るのは仕事だけじゃないのね。
本当に、何をやらせてもこの人たちは……あれ?
翼
「ええと……お二人は今日、お仕事では?」
穂積
「午後から、こっちで雪山関連の会議があるのよ」
仕事の話になった途端、室長がオカマモードになった。
穂積
「それで、せっかくだから会議の時間までスキーでもするかって話になって。今朝、暗いうちに東京を発って来たわけ」
アクティブだなあ。
小野瀬
「でもまさか、きみに会えるなんてね。凄い偶然。いや、これはもう運命かな?」
あはは。やっぱり、本物の小野瀬さんだ。
小野瀬
「それより、きみ、もしかして一人?友達はどうしたの?」
私は仕方なく、友達が風邪を引いて来られなくなった、という説明をする。
すると、何故か、二人は顔を見合わせた。
そして、何故か同時に、携帯で電話を掛け始める。
小野瀬
「……あ、細野?すまないね。会議が長引きそうなんだ。帰りは明日の午後になるけど、いいかな?大丈夫?うん、じゃあ、よろしく」
穂積
「明智、そっちは変わりない?急で悪いけど、今夜は泊まりになったわ。明日の午後には帰るから、ええ、任せるわ。……了解、頼んだわよ」
二人は同時に電話を切る。
小野瀬
「じゃあさ櫻井さん、夕食を一緒にどう?」
穂積
「おいこら小野瀬。俺が先だろ」
今度は揉め始めた。
何だろう、良く出来たコントみたい。
穂積
「お前、どこに泊まるんだ?」
室長が、小野瀬さんを押し退けた。いつの間にか、また男性モードに戻っている。
いつもながら、よく瞬時に切り替えられるなと感心してしまう。
翼
「あのホテルです」
穂積
「小野瀬」
小野瀬
「はいはい」
どうやら小野瀬さんは、早速、ホテルと宿泊交渉している様子。
小野瀬
「シングルひとつしか取れなかったよ」
穂積
「……ま、仕方ないな」
私はびっくりした。
翼
「えっ?お二人も泊まるんですか?」
室長は携帯をしまいながら、当たり前だろう、という顔をした。
穂積
「お前ひとり、こんな危ない場所に泊めさせられるか」
室長の目は、さっきから私の後ろの女性たちを口説いている男の子数人のグループを忌々しそうに見ている。
小野瀬
「そうだね。櫻井さんは可愛いから。すぐにナンパされちゃうよ」
私は思わず笑い飛ばそうとしたけれど、二人は意外と真面目な顔。
穂積
「櫻井」
翼
「はい?」
穂積
「改めて誘うぞ。夕食を一緒にどうだ?」
翼
「は、はい」
私はどきりとした。
もともと、夕食は宿泊代に入っていない。友達と二人、ホテルの中のレストランで適当に食べようとだけ決めてあったのだ。
だから、断る理由は無いけれど。
こんな展開になるなんて。
私の動揺などどこ吹く風で、二人は腕時計を見ながら何やら低い声で言葉を交わし、こちらを振り返った。
穂積
「俺たちは5時まで会議だ。6時にホテルのロビーでいいか?」
翼
「大丈夫です」
小野瀬
「いい子だね。それまでの間、知らない人に付いていっちゃダメだよ」
穂積
「お前、無防備だからなあ。もう、ホテルに入って部屋から出るな」
こ、子供扱いして。
翼
「大丈夫です!」
私は、ぎゅっと拳を握った。
気合いを入れる時の私のこの癖を見て、二人は揃って表情を緩めた。
小野瀬
「そうと決まれば、おいで。スキー教えてあげる」
翼
「はい!」
穂積
「小野瀬は意外とスパルタだぞ。覚悟しろよ」
翼
「えー?」
私は急いで板を履く。
どうしよう、急に楽しくなってきちゃった!